異世界ギルドで業務効率化 ―残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です―

のちのちザウルス

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幕外 ―なんか俺のパソコン遅くね?―

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違和感というものは、日常においてなんとなく些細な変化に気付くことから始まる。
それは本当になんとなくであった。いつものように会社のパソコンを立ち上げ、早く俺もテレワークになると良いなと思いながらMindowsの起動を待つ。起動まではしばし時間がかかるので、パソコンの電源を入れたらトイレに行き、至福のヘブンズタイムをかましてからデスクに戻る。それが行政改革ギルド職員改め中央ギルドマスター ザザ・ナムルクルスの日常であった。
そうしたルーティーンをしているからこそ、彼はこれまで気付かなかった――いや、気付けなかったのだ。買い換えをしたはずの彼のパソコンが、実はクソみたいなゴミカスうんちパソコンであることに。



「ザザ先輩、ボクが遊びに来ましたよ☆」
「ハーフさん?あれ、打合せって午後からじゃなかったっけ?」

中央ギルドマスターの執務室。
応接室も兼ねた広く奥行のある部屋は、ザザの好きなブルーの調度品で彩られている。一度仕事でお世話になった“青い恐竜の着ぐるみの人”には特に好評であった。素敵な部屋のお礼にと彼からもらった観葉植物は、葉や幹、根っこ、植物を植えている土すらもモルフォブルーにきらめいて執務室の一角を鮮やかにしている。こんな植物はこの世に存在するか怪しいので、おそらく彼の趣味によって作られた人工植物なのだろう。
その執務室の中央、ふかふかの青いソファにかけたハーフは、パタパタと足を揺らしながらザザに話しかけた。

「打合せまで待てなくて……。何故なら、今日は先輩に良い物を持って来たんです!じゃーん☆ 3DCADのインストーラーとプロダクトキーですよ」
「ああ!前に頼んでたやつ、やっときたのか。首を長くして待ってたよ」
「ギルマスなんですから、図面書くのとかは下っ端に任せたらいいんじゃないですか?」
「勿論任せてるよ。ただ、先方からもらった図面とかを開くのにどうしても必要でね」

と、言うが早いかポチポチと慣れた手付きでインストールを開始する。
ザザは設計や意匠には関わらないが、素案を確認して担当者にゴーサインを出したり、先に彼が発言した先方の図面を確認したりといった作業で3DCADを使うことがある。あまり頻度の高い話ではないので、彼の使うCADのライセンス契約は“時間払い”だ。CADを使用した時間に応じて金額を支払うというシステムで、一般的に図面を書く人が持っている年間のライセンスとは料金の支払い形態が異なる。閑話休題。
インストールの間、休憩がてらザザとハーフは他愛もない話をしていた。

「お、インストール終わったかな」
「まあまあ時間かかりましたね」
「それもしゃあなし、こんなもんでしょ。早速カンサイ地区の魔法学校の図面を開くとしよう」
「カンサイ地区???あ、もしかして噂に聞く第二の魔法学校の設立計画ですか?」
「その通り。大日本帝国印の卒業生は、しばらくの間はブランド化できそうだからね。なんて言っても世界有数の他属性魔法の使い手を生み出す学校だし、生徒には悪いけど商品価値は高いからさ。他国が囲い込んで魔法学校の秘密を掘り返す前に、少しでも種を広げておきたくて」
「あは☆ ボクも良いと思います。って言っても、使う用途なんてウォシュレットくらいなもんですけど」
「それが最高なんじゃないか!!!」

ぎゃあぎゃあ。執務室で戯れる二人。
だが、なかなか図面が開かない。

「あれ?そんなに重いファイルじゃなかったはずなんだけどなあ」
「それでも200MB弱くらいありますけどね。でも、確かにこんなに時間がかかるのはおかしいですね」
「んんんー?パソコンのスペック足りてない?3DCADだし、もしかしてグラフィックボード良いの積んでないとダメなのか???」
「先輩のパソコンのグラボってなんですか?」
「爺Forceの1080、会社のパソコンにしちゃあ良いんじゃね」
「OutaCADの推奨スペックは……いや、全然足りてますね。CPUとメモリは?」
「雷電9と16GBのメモリ。えー?どうしてー???」

頭を悩ませるザザ。それもそのはず、この程度のスペックのパソコンなら、それなりに画質は落ちるもののオンラインゲームにも耐えうる性能だからだ。高々3DCADの図面一つ開いた程度で固まるような貧弱な能力ではない。
うーんうーんと唸り続けて5分、ようやく図面が開いて操作できるようになった。しかし、その操作具合の実に“もったり”として緩慢なことか。

「あああああああああああ!!!!すげぇカクカクするうううううううううう!!!俺の家のパソコンで作業させてえええええええええええ!!!!!!」
「……このパソコンってザザ先輩の選んだやつですか?」
「え?いやいや、それなら行政改革ギルドに置いて来たよ。あれは向こうの固定資産だし、移管するのめんどかったからね」
「ボク、もしかしたら分かっちゃったかもです」

つんつんとザザをつついてデスクの前から引っぺがしたハーフ。
カチカチとマウスをクリックして行き着いた先には――。

「え?……あ、あ、あッ……!!!」
「あー!やっぱりHDDだ!ザザ先輩、このパソコンSSDじゃないですよ!!」
「ああああああああああああああ!!!!」
「あ!?ザザ先輩!!ザザせんぱああああああい!!!!」

――SSD。ソリッドステートドライブと呼ばれるそれは、HDD(ハードディスクドライブ)同様にデータの読み書きを行う装置である。ざっくり言えば、HDDは回転する円盤に磁気で読み書きをするが、SSDは内蔵メモリにデータの読み書きをする。
これら二つの大きな違いは、HDDは割安でSSDは高価であるということだ。このパソコンを買った中央ギルドの担当者がどんな気持ちだったかは知る由もないし知りたくもないのだが、おそらくはHDDの方が安価だからとこちらを選んだのだろう。だが、そこには大きな落とし穴が潜んでいる。

「HDDだなんて、今時こんな化石みたいな装置を搭載したパソコンがあるなんて……。ランダムアクセス――容量の小さなファイルを複数同時に扱う能力――が非常に遅く、SSDと比較してそのあまりにも緩慢な動作はカメの歩みにも等しいその姿は、まさしく現代の生きた化石。SSDの2倍3倍の時間は当たり前、作業によっては5倍以上の起動時間や動作時間を要する時間喰い虫。動作音や振動も発生しますし、破損しやすいというリスクも抱えた天然の骨董品……。ザザ先輩、よくこんなクソみたいなパソコンで仕事できてましたね」
「」
「パソコンの起動時間もすごくかかるし、このパソコンを使っているだけで毎日起動に10分要しないといけない時間外の敵……!あらゆる動作において30kgの米俵を背負っているかのような遅さに、“時間外を減らすなら、まずはパソコンを買い替えろ”という金言すら出るレベルの負の遺産……!!」
「」
「まさか中央ギルドマスターが使っているパソコンがこんなオンボロのポンコツ産業廃棄物だったなんて驚きですよ!ねえザザ先輩!!」
「」
「最近登用した外国人実習生ですら、もっとまともなパソコン使ってますよ!!こんなの早く変えてもらった方がいいです!そうですよねザザ先輩!!!!」
「ほげえ」
「あれ!?ザザ先輩!?ザザ先輩!!!」

ザザは改めて誓った。
パソコン等のガジェット物は、自分が一回審査をしようと。



――翌週。ザザのデスクは勿論、中央ギルドには多くの新型パソコンが届くのだが、それはまた別のお話。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

翠山都
2022.05.03 翠山都

 少し前から読ませていただいておりましたが、大変面白かったです。
 今私たちが直面している様々な問題をコメディタッチでお話としても楽しませていただきつつ、部分部分でいろいろと気づきも得られて、実生活でも自省したりカイゼンしていきたいと思わせられるようなエピソードもあったり。コメディだけどそれだけでは終わらない作品でありました。
 一部、ロウガイのエピソードやマナー講師のエピソードなど、怨念が隠しきれてない部分もちらほら見受けられたように思いますが、それらをこのようなかたちで笑いに昇華されたのは素晴らしい手腕であると思います。
 ただ現実を顧みると、ザザ君に近しい価値観を持った人たちが権限を持つポストに就くだろう頃には、今現役世代の我々はカイゼンの恩恵に預かれないんだろうなあと思うと、つい遠い目になってしまったりもいたしますね。
 続編であるFIREもまたのちのち楽しませていただきたく存じます。楽しい小説をどうもありがとうございました。

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