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第6話
しおりを挟む淡い明かりをともした金庫室の大金庫の前。
部屋の扉の方を向いて椅子に縛りつけられた父の姿は哀れです。
私は部屋の片隅の薄闇に立ち、その様を無感情に眺めていました。
「ダイヤル式だから番号を言うだけでいいんだけどな」
カロンが促しますが、父は首を振ります。
妻と娘に危害が及びかねないというのに従わないのは、二人の安全を父が確信しているからです。
二人の寝室には危険を知らせるベルがあって、父の部屋でベッド脇の紐を引くとそれが鳴るカラクリが屋敷には施されているのです。
もちろん父はさっき目覚めた時にすぐさま紐を引いたことでしょう。
だから二人はもうとっくに逃げ出しているはず。
それは常日頃から慎重な父らしい仕掛けです。
家族へ向ける父の愛情が作らせた優しい仕掛け。
私の部屋にはベルはなかったけど。
おあいにくさま。
緊急時に身を潜めるために作られた隠し部屋のことも知ってます。
「連れてきやしたぜ」
カロンの部下が母と妹を引っ張ってきました。
金庫室に入ってきた二人を見るなり、父は目を見開きます。
あれは恐怖の表情?
「言う気になったか?」
ニヤニヤしながらカロンが聞きます。
「あなた……」
「パパ……」
泣きそうな顔で悲痛な声を漏らす二人。
「く……言えば我々の命は助けてくれるな?」
父がすがるような声色で言いました。
「交渉しようとするな!」
カロンは父を激しく殴打する。
「まず金庫を開ける。話はそれからだ」
父は沈痛な表情で番号を言い始めました。
それに従いダイヤルを回していくカロンの部下。
番号を言い終わると、ガチャリと音がして金庫の扉が開きました。
「おおっ! すげえ! 大金だ!!」
大量のお金を手分けして袋に詰め込むカロン一味。
大急ぎで仕事を終えました。
「こりゃ重てぇなぁ」
「かしら、さっさとずらかりやしょうぜ!」
手下達は出口に向かう。
「三人には顔を見られてるよ?」
私が言うと、カロンは愉快そうに笑いました。
「ははっ! お前も言うことが変わったな。もちろん分かってるさ」
言うなりカロンは父の首を一刀のもとにはね飛ばしました。
最後の言葉を口にする暇すら与えません。
ごろり。
私の足元へ父の首が転がってくる。
見慣れた仏頂面。
この人の笑顔が私に向けられたことなんてあったかな。
父と目が合いました。
切断された首には、ほんの少しの間だけ意識が残っているといいます。
お父様、ここにいるのが私だって分かりました?
父の表情は変わらない。変えようもないか。
父の目の光がかげっていきます。
さようなら、お父様。
最後の最後に何を思ったのでしょう。
もうどうでもいいけど。
頭を無くした首から血をしぶかせる父の体を見て、母と妹はバカみたいに悲鳴を上げました。
「きゃあああーーーーーっ!!」
「パパーーーーーッ!!!」
「お前達もすぐにパパと同じ場所に送ってやるから心配すんな」
カロンが血の滴る剣を下げて二人に近づいていきます。
妹のミアは派手に放尿して腰を抜かし、床にペタンと尻を落として震え上がる。
「待って」
私はカロンを制止しました。
「何だ? さすがに女は助けろってのか?」
カロンは怪訝な顔で私を見る。
「いいえ。そんなに焦んなくてもいいかなって」
「ん? というと?」
「たまには部下さん達にボーナス的なご褒美をあげてもいいんじゃないかと思って」
私はちょっと身をくねらせました。
カロンは意味を悟って笑い出す。
「確かにこの美女どもをあっさり殺すのは惜しいな」
部下を見回し、カロンは告げました。
「お前ら、この二人を好きにしていいぞ」
「ぎゃあああああっ! いやだあああああ!!」
ミアが汚い泣き声を張り上げます。
母はというと、固まって私の方を見ています。
気づいたのかな?
ホント、私なんか産まなきゃよかったね。
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