5 / 17
第5話
しおりを挟む数日後、カロンは例の幹部に聞きました。
「こないだの件は進んでるか?」
「へい! 使用人頭ってのを拉致して締め上げ、屋敷の間取り図を書かせやした」
「そうか。間取り図がありゃ押し入ってからの仕事が早い。今度の屋敷はどうも馬鹿でかいからな。で、その使用人頭は?」
「現在行方不明中のようですぜ?」
「そうか! ぶわはははは! きっと湖底でバカンスでも楽しんでやがるんだろうな」
ヒリング家襲撃に関する会議が開かれます。
もちろん私も参加させられました。
テーブルの上には屋敷の間取り図。
家族の寝室や父の書斎、居間や台所などそれぞれの部屋がどう使われているか記してあります。
また、高価な室内装飾品の位置にも抜かりなくチェックが入れてある。
カロン達はどこから入ってどう進み金目の物を回収していくか話し合いを始めました。
「金庫室はここのようですぜ」
幹部が指さす部屋。
あれ? 違う。
どうも所々、実際とは違う間取りになっている。よく見ると家族の寝室と記されているのも別の部屋です。
そうか、フェイクが入ってるんだ。
さすがは父が信頼している使用人頭です。
命の危機に晒された極限状態にあっても、むざむざ本当のことは教えなかったわけです。
こんな間取り図を信用していたら現場で手間取り、騒がれて駆けつけた都市警ら隊とやり合うことにもなりかねません。
そうすればお金も奪われず、私の家族はみんな助かるでしょう。
私は言いました。
「この間取り図には間違いがあるみたい」
「何っ??」
私は図を正確に描き直しました。
カロンは首をひねっています。
「本当か? 何でお前が知ってる?」
「以前……ここで奴隷として使役されてたの」
「へえっ、そういうことかい! そりゃ助かった。ははっ! 愛してるぜ、俺のメラニー」
「なら先に言ってくだせぇよ。俺は無駄働きだったじゃねぇか」
愚痴る幹部に私は頭を下げました。
「ごめんなさいね。記憶に自信がなかったの。でもこの間取り図を見ているうちにありありと思い出したのよ」
「だそうだ。お前の仕事も無駄じゃなかったな」
カロンは幹部をねぎらいます。
ヒリング家襲撃計画の詳細が決まりました。
そして、実行の日。
夜、私達は屋敷の庭に忍び込みました。
放たれていた猛犬がすぐに何匹も飛んで来る。
でも犬達は私の顔を見るなり立ち止まり、しっぽを振り始めたのです。
「この子達を殺す必要はないよ」
私が言うと、カロンも素直に剣を下げてくれました。
「奴隷だったお前を覚えてやがるんだなぁ。犬ってのは賢いや」
何事もなく庭を通過すると、大きな居間の窓を破って屋敷の中に侵入。
物音に驚いた下女長が様子を見に来ました。
暗い部屋の中で身を潜めていたカロンの部下が、下女長が中に入ってくるなり飛びついて首をひねる。
ボクンと音がして首が真後ろを向いた下女長は、尿をボタボタ滴らせながら崩れ落ちました。
私達は金目の装飾品を確保しながら部屋を順に回っていく。
私はある部屋の前で立ち止まりました。
「ここだな? 主人が寝ているのは」
カロンが横に立って言い、私はうなずく。
「金庫室は分かってるけど、金庫を開けられるのはここの主人だけだよ」
バーーーン!!
カロンは大きな音を立てて寝室のドアを開け放ちました。
驚いて飛び起きた父。
「何だ! 何事だ!」
私は扉の陰の暗がりで事の成り行きを見守ります。
「質問はいらねぇ。お前はただ金庫を開ければいい。金庫室に行くぜ」
父はベッドから引きずり出され、出入り口に向かって歩かされる。
「悪党め! 素直に開けると思うか?」
部屋から出るなり父は毅然と言いました。
「妻と娘を人質にするといいよ」
暗がりから私はボソッとつぶやく。
ハッと顔をこわばらせ振り向く父。
「行けや」
後ろからカロンに小突かれ、父は前方へよろめきます。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄中に思い出した三人~恐らく私のお父様が最強~
かのん
恋愛
どこにでもある婚約破棄。
だが、その中心にいる王子、その婚約者、そして男爵令嬢の三人は婚約破棄の瞬間に雷に打たれたかのように思い出す。
だめだ。
このまま婚約破棄したらこの国が亡びる。
これは、婚約破棄直後に、白昼夢によって未来を見てしまった三人の婚約破棄騒動物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
reva
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。
オーガスト
恋愛
イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。
ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。
突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒
全力で報復する事にした。
ノーリアリティ&ノークオリティご注意
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる