私を虐げて追い出した家族。その生殺与奪の権をどうやら私は握っているようです!

けろり

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第4話

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 驚きました。
 男はなんと盗賊団の首領だったのです。
 二十代後半の若さで何人もの部下を従えています。鋭い目をした美青年。
 アジトに連れていかれた私はご馳走を振る舞われ、そして嫌も応もなく抱かれました。
 唐突に訪れた初めての経験の時。
 不思議と深い感慨は何も湧いてきませんでした。喪失感もなにもない。
 私の感情はすでに摩耗し始めていたようです。

 その夜、もう生きていくためには全てを受け入れるしかないと私は覚悟を決めました。
 幸いカロンという名のその男は私をいたく気に入ってくれたようです。
 おかげで私は盗賊団の中で次第に存在感を増し、配下の人達からは尊重してもらえるようになっていきました。

 カロンは武装して富豪の家に押し入っては金品を奪い、抵抗する者は殺し、アジトを転々として捜査に当たる都市警ら隊にしっぽを掴ませない。
 自由で不遜で頭の切れる魅力的な男です。
 奪った金を湯水のように使って豪遊する。私にも贅沢をさせてくれる。

 私はカロンとの生活に慣れていきました。
 そして、カロンの感覚に毒されていく。



 季節は巡ります。
 
「メラニー。女好きの高利貸しを狙う。ちょっと手伝ってくれ」
 ある時、私はそう言われて初めて仕事に関わることになりました。

 赤い月の夜でした。
 カロンの指示に従い、高利貸しの馬車が屋敷に向かう途中の路上に露出の多い格好でうずくまる。
 馬車は止まり、座席から高利貸しが降りてきます。
「お嬢さん、どうしたね?」

 声を掛けられると、私は内股が見えるような動きをしながら言いました。
「つまずいた拍子に足をひねって歩けなくなってしまいました」
「それはいけない。送って行くから馬車に乗りなさい」

 私は馬車に乗ると、自分は人使いの荒い娼館から逃げ出してきた奴隷ですと身の上話を語りました。
「そうかそうか、行くあてもないのだな。ならば私の家に来なさい。かくまってあげよう」
 ぬるっとした中年の高利貸しは目をギラつかせ、舌なめずりしそうな顔で猫なで声を出します。
「本当にいいんですか! よろしくお願いいたします」
 嬉しそうに微笑んでみせる私。
 
 私は高利貸しの屋敷に招かれ、寝屋を共にしました。
 事はカロンの書いた台本通りに進んでいく。

 夜更け。高利貸しは私が盛った睡眠薬でぐっすりと眠っています。
 私は起き出して屋敷の鍵を開け、待機していたカロン一味を家の中へ招き入れました。

「だ、誰だっ!」
 気配に気づいて出て来た使用人と廊下で鉢合わせしてしまう。
「声を出すな」
 そう言って先頭にいたカロンは使用人をあっさり斬り捨てました。

 さすがに震え上がる私。
「な、何も殺さなくても……」
「黙らせるにはこれが一番手っ取り早いだろうがよ。顔も見られたしな」
 
 カロン一味は高利貸しの寝室になだれ込みました。
「おい、起きろっ!」
 高利貸しをたたき起こす。
「死にたくなかったら金のありかを言いな」
 寝起きの高利貸しは目を白黒させてアウアウ言っています。

「急いでるんだよなぁ」
 カロンはスッと剣を振りました。
 高利貸しの片耳がぽとりとベッドの上に落ちる。
 悲鳴を上げかけた高利貸しの口をカロンは素早くふさぎました。
「次は目玉をえぐるぜ? 貯めこんだ金がどこにあるか言うか?」
 高利貸しは涙を流しながら激しく首を縦に振りました。

 高利貸しに案内され、私達は地下室へ。
 そこにあった金庫をカロンは開けさせました。
 中には札束に金貨、宝石。

 カロンと仲間達は充分な収穫に上機嫌。
「ありがとよ」
 そう言ってカロンは高利貸しを金庫の中に押し込め、喉に剣を突き立ててから扉を閉めました。
 私はもう驚きません。
 

 それからしばらく経ったある夜の宴。
 ほろ酔いのカロンは、私を侍らせながら大勢の部下に向かって言いました。
「そろそろ次に襲う家を決めるぞ。良さそうな獲物はいるか?」
 幹部の一人が提案します。
「貿易でしこたま儲けてやがるヒリング家はどうでやすかねぇ?」
「何でもいいや。そこにするから下調べしとけや」

 ヒリング家……私が生まれ育った家です。

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