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第3話
しおりを挟む持っていく荷物をまとめることを許された、屋敷での最後の晩。
狭く殺風景な私の部屋に母が訪ねてきました。
「メラニー」
「はっ、はい」
「こんなことになって……ちょっと話があるの」
「はい……」
母と話をするのはすごく久し振りです。
こんな状況だけど、何だか嬉しい。
廊下に灯された明るい光を背に立つ母の表情は、薄暗い部屋の中の私からはよく分かりません。
母は言いました。
「屋敷を出ていった後、いつまでも家の周りをウロウロしないでちょうだいね?」
「えっ……はい」
「どこに行ってもいいけど、できるだけ家から離れて。そして、自分がヒリング家の娘だったなんて言いふらさないで。恥ずかしいから」
「はい……分かりました」
「それだけよ」
くるりと背を向け行ってしまう母。
廊下の向こうでクスクスッと妹の笑う声。
「ねぇ、ママ。早くお祝い始めようよ。おなか減っちゃった」
「はいはい。はしたないこと言わないの」
お祝い……。
誕生日のお祝いは一度もしてもらえなかったのに……。
夜明けと同時に出ていくよう言い渡されている私は、眠ることもできずにずっと泣いていました。
これからどうやって生きていけばいいのか。
不安で不安でベッドに突っ伏して涙を流していると、不意に声が聞こえてきました。
「なにがそんなに悲しいんだい?」
驚いて顔を上げると目の前に小さな緑色の妖精が浮かんでいます。蝶の羽を背中につけた男の子の姿。全身がぽうっと輝いている。
「え……?」
妖精なんておとぎ話に出てくるだけの想像上の生き物だと思っていた私は声も出ません。
……ああ、そうだ。絶望のあまりついに頭がおかしくなって幻を見てるんだ。
片目の女は妖精を見る。そんな伝承もありましたっけ。
「力になるよ?」
妖精は言いました。
幻ならそれでもいい。幻に愚痴って気をまぎらわせよう。
そう思い、私はこれまでのことを話しました。
「ふぅん、そういうことかぁ。いつも庭で寂しそうにしてたもんね」
「見ていたの?」
「見てたさ。おいらの乗用のこま鳥を手当てしてくれたろ」
「えっ? あ、ケガしてたあの……」
「おいらはこう見えてすごい力を持ってるんだよ? 王子だからね。お礼するから何でも願い事を言ってみなよ」
「お礼なんて……」
「願い事くらいあるだろ?」
「私は……ただ幸せになりたい……」
「いいよ。分かった」
そう言ってから妖精は思案するように小首を傾けました。
「ただ幸せって他人から与えられるものじゃないよね。自分で感じるものだ」
妖精の言葉に私はうなずきました。
「確かに……」
「まー、何とかするよ。任せて」
妖精は空中でくるりと回って逆さでウィンク。
目が覚めると窓から朝日が差し込んできていました。
いつの間にか眠って夢を見てたんだ。
いけない、早く家を出ないと……。
こうして住む家を失った私。
行くあてもない私は、やむなく路上生活を始めました。
数日のうちに体は汚れ、わずかに持って出たお金もみるみる少なくなっていく。
やがて飢えることになるのは目に見えていました。
ある日、ふらふらと路上をさ迷っていると後ろから声が飛んできました。
「見て見て! 雌犬がいる」
あれは、妹の声。
すぐに分かりましたが振り向けません。
「盛りがついて下男のおっさんに股ひらいたんだって」
「ぷーっ! もうちょっとマシな相手いなかったの?」
どうやら学校の帰りの妹と行き会ってしまったようです。
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「よく知ってるね?」
「ん……ちょっと前までうちで飼ってた雌犬だからね。役に立たないから捨てたけど」
私はいたたまれなくなり、駆け出してその場を後にしました。
ついにお金がなくなった私は物乞いを始めました。
家からはけっこう離れた場所で。知っている人には見られたくない。
小銭を入れてもらうお椀を前に置き、道端に座って情けを乞う。
そんな生活の数日め。
私の前に足を止めた男がつぶやきました。
「ん? メラニ族か?」
男は手を伸ばし、私の顎をくいと上げる。
「へえ、美しいな。よし、一緒に来い」
えっ……??
派手な格好をした背の高いその赤髪の男は問答無用で私を持ち上げ、小脇に抱えて歩き始めました。
「ちょ、ちょっと待って下さい……私は……」
逃れようとじたばたする私。
「やけに軽いぞ。ろくに食ってねぇだろ? ま、たらふく食わせてやっからおとなしくしてな」
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