侵入水泳

長尾十二

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メロンプール

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七月十四日 02:34


住宅街の道路端に、落ちているタバコのしけもくを拾って、ライターで火を点けようとした。少し涼しい風の流れに、火が、点くのを嫌がった。

誰が吸ったかも分からない、汚い物を口に咥えてでも、タバコを吸いたい気持ちを抑えられないのは、甘いものを食べたくなるそれと
同じなのではないかと、甜瓜(メロン)は
煙を吐き切って、思う。
しけもくは、地面に捨てて靴で踏みつけた。

電信柱の明かり、クビキリギスの鳴き声
夏に独りは寂しいな、と感じているのに
誰もいない深夜に一人で徘徊している。

知らない方がよかったな
生きることなんて――

もう充分なのにな、どうせ人生は終わる。
なのに、何を求めているのだろう――

ずっと憧れていた人生は、こないことを知った。

歩き続けて、歩き続けて、地元の中学校の前にたどり着いた。

海――人生で行ったことがないんだよな
甜瓜は、空想する。

友達と海ではしゃぎ、西瓜を割ったり
浮き輪で海をゆらゆらしたり、ビーチボールで遊んだり、海に飛び込んだり。

漫画の世界だろうか。

甜瓜は、なんとなく、首を上向けて
星を探した。どこにもなかった。
夏なのに、晴れているのに。





七月十四日 03:12


甜瓜は、中学校のプールに侵入した。
意味はなかった。

これも独り遊び、独りでやることは全て
自慰行為みたいなものかもしれない。
全て慰めだった。

甜瓜は、深呼吸をして、プールに飛び込んだ。
息を止めて、水中で体を丸くする。
苦しい―― この感覚が、精神的な痛みだ。

同じだ。

甜瓜は、水中で空想する。


たかが散歩、月ばかりみる、月ばかりみる。
誰もいないマンションの下で
ゴミを蹴る、蹴る、蹴る
独りでも、一人でも、1つでも、1個でも
水中で、月ばかりみる、月ばかりみる。


サイレンの音で、甜瓜の空想が止んだ。

プールサイドまで泳いで、水中から起き上がった。
今日のことを、いつか幸せになったときに
薄っぺらな思い出だった、そう笑うことができたらな――

甜瓜は、プールサイドを囲う柵を、よじ登った。
そこから飛び降りた。

死人みたいな、詩人みたいな









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