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第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?
お見送りしていただきました。
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通常業務の傍らで色々と準備をしていたら、新人研修へ出発する日はあっという間にやって来ました。
「では閻魔様、行って参ります。地獄分館の方、三日間よろしくお願いいたします」
見送りに来て下さった閻魔様に、シンデレラ城の正門前でご挨拶します。
私の横に立つ子鬼三兄弟も、『よろ~!』と閻魔様へ手を振りました。今日も素敵に可愛らしい子達ですね。
「任せておきなさい。君達もしっかり勉強しておいで」
「わかりました。――ああ、それと私がいなくて寂しいからって、壁に頭突きしまくったり、床をゴロゴロ転がったりしないでくださいね」
「……いやさ、君、儂のことを何だと思っているわけ? そんなことするわけないじゃない。第一、君が言うような奇行を取る輩は、この地獄裁判所にはいません!」
私の忠告に、閻魔様が呆れた様子で溜息をつきます。
ほうほう。奇行に走る輩はいらっしゃいませんか。へえ……。
私はちょんちょんと閻魔様を突いてこちらへ注目させた後、廊下の奥の方を指さしました。
「ぬおおおおおおおおおおっ!」
ズガンッ、ズガンッ、ズガンッ! (←ジャンプした勢いで天井に頭突きする音)
「むがああああああああああっ!」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ! (←床と言わず、壁や天井まで三次元的に転がる音)
言うまでもないと思いますが、兼定さんです。
彼、先程突然、「ハッ! これから三日間、私をいじめてくれる人がいなくなってしまう!」とか言い始めまして……。
以来ずっと、あんな風に物理法則を無視した奇抜な行動を続けています。
「……いましたね」
「………………。……うん」
私が確認するように言うと、閻魔様が力なく頷きました。
さすがに今ばかりは、少し同情してしまいますね。あれ、この人の秘書官ですし。
(――おっと、そうでした)
危ない、危ない。兼定さんの奇行に気を取られ、大事なことを忘れたまま研修へ出立してしまうところでした。彼に渡さなければならないものがあったのです。
「兼定さーん! ちょっとよろしいですかー?」
「はい、何でしょうか」
声を掛けてみたら、兼定さんはあっさり奇行を止めました。
一体どんな精神構造をしているのでしょうか、この変態。もはや多重人格の域にでも入っていそうですね。
まあ、考えるだけ無駄ですし、さっさと用件を済ませてしまいましょう。
そろそろ出発しないと、遅刻してしまいますしね。
「はい、廉貞さん。これをどうぞ。これから三日間、この仕様書に沿って仕事をしてください」
「ハハハ。これは――随分と分厚い仕様書ですね」
兼定さんが驚き混じりのイケメンスマイルで、私から受け取った仕様書を見つめました。
ウフフ。なかなか良い表情です。その反応を待っていました。
何たってこの二週間、残業しまくって作成した仕様書ですからね。兼定さんの一挙手一投足までを規定した、A4用紙500枚を軽く超える大作です。これくらい驚いてもらわないと、私としても張り合いがありません。
「くれぐれも、この仕様書にない行動をとらないでくださいね。もし妙な行動をしたら、後でひどいことが起こりますよ――閻魔様に」
「えっ! 何で儂! 君、一体全体儂に何をする気かね!!」
落ち込んでいた閻魔様があっさり立ち直って、私に食って掛かってきました。
だって、仕方がないじゃないですか。直接兼定さんにお仕置きを加えても、喜ばれてしまうのですから。
「わ、私ではなく、閻魔様に……。そ、そんな……。私はそんな羨ましい光景を、ただ見せられ続けるということですか? ――あれ? でも、それはそれでありなのでは……」
チッ! しまった。
油断していました。この変態執事、放置プレーもいけるクチでしたか。さすがはドMの化身。
とにかく、これはまずいですよ。この男、自分の欲望を満たすため、仕様書にない行動を取りかねません。
仕方ないですね。ここは……。
「ほらほら、いつまでここでのんびりしているつもりですか? まったく使えない人ですね。仕様書通りにさっさと仕事をしなさいな、この豚執事」
「イエス、女王様! この卑しい豚めにすべてお任せ下さい!」
ビシッ、と敬礼した兼定さんは、疾風のごとき勢いでこの場を去っていきました。
ふう……。
とりあえず目先のエサで、注意を逸らすことができたようですね。兼定さんが欲望に忠実な豚野郎で本当に良かったです。
あとはこのまま三日間、彼が脇目も振らずに馬車馬のごとく働き続けることを祈りましょう。
願わくば、そのまま過労で倒れてくれればよいのですが……それは無理でしょうね。あの変態執事、恐ろしくタフですし。実に残念です。
「さて……。それでは閻魔様、改めまして行って参ります」
「うむ。行ってらっしゃい」
「「「いってきま~す!」」」
「ああ、行っておいで。とまと君、ちーず君、ばじる君、頑張ってくるんだよ」
「は~い!」
「へ~い!」
「ほ~い!」
子鬼三兄弟も閻魔様へ元気に挨拶をしましたし、これで準備は万端です。
私は三人の愛すべき部下達と共に、天国へ続くエレベーターに乗り込んだのでした。
「では閻魔様、行って参ります。地獄分館の方、三日間よろしくお願いいたします」
見送りに来て下さった閻魔様に、シンデレラ城の正門前でご挨拶します。
私の横に立つ子鬼三兄弟も、『よろ~!』と閻魔様へ手を振りました。今日も素敵に可愛らしい子達ですね。
「任せておきなさい。君達もしっかり勉強しておいで」
「わかりました。――ああ、それと私がいなくて寂しいからって、壁に頭突きしまくったり、床をゴロゴロ転がったりしないでくださいね」
「……いやさ、君、儂のことを何だと思っているわけ? そんなことするわけないじゃない。第一、君が言うような奇行を取る輩は、この地獄裁判所にはいません!」
私の忠告に、閻魔様が呆れた様子で溜息をつきます。
ほうほう。奇行に走る輩はいらっしゃいませんか。へえ……。
私はちょんちょんと閻魔様を突いてこちらへ注目させた後、廊下の奥の方を指さしました。
「ぬおおおおおおおおおおっ!」
ズガンッ、ズガンッ、ズガンッ! (←ジャンプした勢いで天井に頭突きする音)
「むがああああああああああっ!」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ! (←床と言わず、壁や天井まで三次元的に転がる音)
言うまでもないと思いますが、兼定さんです。
彼、先程突然、「ハッ! これから三日間、私をいじめてくれる人がいなくなってしまう!」とか言い始めまして……。
以来ずっと、あんな風に物理法則を無視した奇抜な行動を続けています。
「……いましたね」
「………………。……うん」
私が確認するように言うと、閻魔様が力なく頷きました。
さすがに今ばかりは、少し同情してしまいますね。あれ、この人の秘書官ですし。
(――おっと、そうでした)
危ない、危ない。兼定さんの奇行に気を取られ、大事なことを忘れたまま研修へ出立してしまうところでした。彼に渡さなければならないものがあったのです。
「兼定さーん! ちょっとよろしいですかー?」
「はい、何でしょうか」
声を掛けてみたら、兼定さんはあっさり奇行を止めました。
一体どんな精神構造をしているのでしょうか、この変態。もはや多重人格の域にでも入っていそうですね。
まあ、考えるだけ無駄ですし、さっさと用件を済ませてしまいましょう。
そろそろ出発しないと、遅刻してしまいますしね。
「はい、廉貞さん。これをどうぞ。これから三日間、この仕様書に沿って仕事をしてください」
「ハハハ。これは――随分と分厚い仕様書ですね」
兼定さんが驚き混じりのイケメンスマイルで、私から受け取った仕様書を見つめました。
ウフフ。なかなか良い表情です。その反応を待っていました。
何たってこの二週間、残業しまくって作成した仕様書ですからね。兼定さんの一挙手一投足までを規定した、A4用紙500枚を軽く超える大作です。これくらい驚いてもらわないと、私としても張り合いがありません。
「くれぐれも、この仕様書にない行動をとらないでくださいね。もし妙な行動をしたら、後でひどいことが起こりますよ――閻魔様に」
「えっ! 何で儂! 君、一体全体儂に何をする気かね!!」
落ち込んでいた閻魔様があっさり立ち直って、私に食って掛かってきました。
だって、仕方がないじゃないですか。直接兼定さんにお仕置きを加えても、喜ばれてしまうのですから。
「わ、私ではなく、閻魔様に……。そ、そんな……。私はそんな羨ましい光景を、ただ見せられ続けるということですか? ――あれ? でも、それはそれでありなのでは……」
チッ! しまった。
油断していました。この変態執事、放置プレーもいけるクチでしたか。さすがはドMの化身。
とにかく、これはまずいですよ。この男、自分の欲望を満たすため、仕様書にない行動を取りかねません。
仕方ないですね。ここは……。
「ほらほら、いつまでここでのんびりしているつもりですか? まったく使えない人ですね。仕様書通りにさっさと仕事をしなさいな、この豚執事」
「イエス、女王様! この卑しい豚めにすべてお任せ下さい!」
ビシッ、と敬礼した兼定さんは、疾風のごとき勢いでこの場を去っていきました。
ふう……。
とりあえず目先のエサで、注意を逸らすことができたようですね。兼定さんが欲望に忠実な豚野郎で本当に良かったです。
あとはこのまま三日間、彼が脇目も振らずに馬車馬のごとく働き続けることを祈りましょう。
願わくば、そのまま過労で倒れてくれればよいのですが……それは無理でしょうね。あの変態執事、恐ろしくタフですし。実に残念です。
「さて……。それでは閻魔様、改めまして行って参ります」
「うむ。行ってらっしゃい」
「「「いってきま~す!」」」
「ああ、行っておいで。とまと君、ちーず君、ばじる君、頑張ってくるんだよ」
「は~い!」
「へ~い!」
「ほ~い!」
子鬼三兄弟も閻魔様へ元気に挨拶をしましたし、これで準備は万端です。
私は三人の愛すべき部下達と共に、天国へ続くエレベーターに乗り込んだのでした。
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