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読み聞かせ

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 俺が魔法で収穫用の人員を増やしたことで、今はローテーション制で収穫を回すことができている。
 朝一から働いていた俺は、ちょうど休憩の時間というわけだ。

 ……ちなみに、俺といっしょに仕事を始めたナーシアさんは、今も元気に鎌を振り回している。
 あの人、ノンストップで一日中ギムギ刈りを続けるんだよな~。ホント、どんだけ底なしの体力をしているんだか。
 魔法をかけますかって聞いたら、この鎌の重さが好きなんで大丈夫ですって笑顔で断られたし。
 あの鎌、試しに持たせてもらおうとしたんだけど無茶苦茶重くてな。俺じゃあ持ち上げられなかった。
 あんなの平然と一日中振り回していられるとか、ナーシアさんって本当に人間だろうか。

 ともあれ、休憩時間は有限だ。
 俺もさっさと木陰に引き上げていく。
 すると……。

「ヨシマサ、きゅうけいか~?」

「じゃあ、またご本読んでよ。昨日のやくそく~」

「あたしも聞きたい、聞きたい!」

「ぼくも~」

 セシリアといっしょに遊んでいた子供たちが、俺の周りに集まり出した。

「安心しろ。ちゃんと覚えてる。本だってこの通り、用意してきた」

 絵本を詰め込んできたバッグを掲げて、子供たちに見せる。
 そしたら子供たちは、キャッキャと喜びながら、俺の周りに腰を下ろした。

 何で俺がこんなものを用意してきたかと言えば、理由は単純。
 昨日、何となく思うところあって、子供たちを集めて読み聞かせをしてみたら、これが意外にも評判が良かったのだ。
 この世界の物語は知らないんで、万桜号に乗せていた桃太郎の絵本を読み聞かせしたんだが、どうも子供たちのツボにはまったらしい。
 さすがは遠い昔から読み継がれている物語。異世界でも無敵だ。

 で、昨日の読み聞かせが終わった後、子供たちからリクエストがあって、今日も読み聞かせを行うことになったというわけだ。

 なお、子供たちの輪の中には、ちゃっかりセシリアも混じっている。なんか一番目を輝かせているようにも見えるんだが、こいつ、実はこの中で一番子供なんじゃないだろうか。

「ねえねえ、ヨシマサ。今日はなんてお話をしてれくれるの?」

「おひめさまのお話、もってきてくれた~?」

「かっこいい話も~」

 ワイワイガヤガヤ。
 子供たちがはずんだ声であれこれ聞いてくる。
 こういうところは、どの世界でも変わんねえんだよな。
 なんつうか――いいな、こういうの。
 自分の世界との共通点を見つけたって感じで、少しうれしくなる。

「任せておけ。ちゃんとリクエストに適うもんを持ってきたからな」

 そう言って、俺は二冊の絵本を取り出す。
 今日持ってきたのはシンデレラと金太郎だ。

「さてはて、休憩時間も限りがあるからな。早速始めるとすっか。――むか~し、むかし……」

 目を爛々と輝かせる子供たちを前に、俺は朗々と読み聞かせを始めた。
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