残念魔王とロリ邪神は移動図書館で異世界を巡る

日野 祐希

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たまにはいい日もあるもんだ

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「……わかった。無事にヴァーナ公国に着いたお祝いということで、今日のところは折れてやる。だが、さすがに最高級は無理だ。通常のステーキバーガーで手を打とう」

 最高級バーガーだと、35ゴルドだが、通常なら15ゴルドだ。
 まあ、お値段に見てもいつものメシより十分お高いし、このガキには十分だろう。

「ふむ……。――へ~たいさ~……もがっ!」

「わかった。高級まで譲歩しよう」

 チッ!
 何やら今日は妙に粘るな、このクソガキ。
 
 一人15ゴルドで済ませるつもりが25ゴルドまで上がっちまったが……仕方ない。
 背に腹は代えられん。
 
「うーむ。まあ、お主にしては頑張った方じゃろう。妥協してやるわい」

「そいつはどうも」

 正直、もう疲れたからな。
 下手に言い返したりしない。
 さっさと財布から50ゴルド出して、セシリアに持たせる。

「ほれ、それで買ってこい」

「あん? なんじゃ、50ゴルドも渡してきおって。二つ食っても良いのかのう?」

 手にした50ゴルドにクリっとしたお目めをパチクリさせて、素っ頓狂なことを仰るセシリアちゃん。

 うん。
 普通に考えて、俺の分とお前の分の金だよね。
 何、こいつ。
 お前、もしかして自分だけいいもの食うつもりでいたのか?

「冗談じゃって。そんな笑顔で青筋立てまくるでない。見れん程でないお主の顔が、ガチで見れん顔になっておるぞ♪」

 誰の所為だ、誰の!
 つか、さらっと悪口を混ぜてくるんじゃねえ!

「では、買ってくるでな。楽しみに待っておれ!」

 50ゴルドを握りしめ、スキップするように駆けていくセシリア。
 まったくうれしそうにはしゃぎやがって。
 ああやって笑ってりゃ、普通にかわいいんだがな。

「気を付けろよ。ちゃんと前見て歩かないと転ぶぞ」

「大丈夫じゃわい!」

 セシリアを見送り、俺は大人しく万桜号の前で待つことにする。

 セシリアが出していったテーブルと椅子を並べ、待つこと数分。
 両手にバーガーの紙包みを持ったセシリアが、ホクホク顔で帰ってきた。

 うーん。
 包みからもれてくる肉の香りが、何とも食欲を誘うな。
 しかも包みの間からのぞくあの肉。無茶苦茶分厚いな。2cmくらいあるぞ。
 さすがは25ゴルド。

「ほれ、出来立てじゃぞ!」

「サンキュー。――んじゃ、いただき……」

「あっ! ちょっと待つのじゃ!」

 アツアツをいただこうとした瞬間、セシリアに待ったをかけられた。
 なんだ?
 まさかこいつ、「お主はにおいだけじゃ!」とでも言う気か?

 ――と、思ったら……。

「祝・お主とわらわが旅を始めて一カ月! おめでとうなのじゃ!」

「……は?」

 セシリアが言ったことがいまいち飲み込めず、思わずポカンとする俺。
 そしたらセシリアは、「なんじゃ、わからんのか」とコロコロ笑った。

「お主がこの世界に来て――わらわたちが旅を始めて、今日でちょうど一カ月。つまり、今日はわらわたちの記念日なのじゃ!」

 キャッキャと楽しそうに笑うセシリア。
 言われてみれば、確かにそんくらい経った気がするな。
 なんか色々あり過ぎて、どんくらいこの世界で過ごしたかなんて全然考えてなかったぜ。

 ――ん? てことはつまり……。
  
「お前が今日の晩御飯にやたらとこだわってたのって、このお祝いをするためだったのか?」

「そうじゃよ。他に何があると言うのじゃ」

「ハァ……。だったら、最初からそう言えばよかったのによ。そしたら俺も、あんなに渋ったりしなかったぞ」

 俺の言葉を聞き、呆けた顔のままポンッと手を打つセシリア。

 うん。
 一瞬俺を驚かせるためにあえて言わなかったのかと思ったが、こいつ、マジで気づいてなかったのか。
 さすがはポンコツロリ邪神。肝心なところが抜けている。

 ハハッ!
 まったく、こいつは……。

「――本当に最高だぜ」

「ん? 何がじゃ?」

「何でもねえよ。それより、せっかくの高級ステーキバーガーが冷めちまう。さっさと食って……次はデザートを探しに行くぞ」

「おお! いつもはケチくさいお主が、今日は随分と太っ腹じゃな!」

「うるせえ。ほれ、久しぶりのいい肉だぞ。食え、食え!」

 二人仲良く、うまいステーキバーガーを頬張る。
 たまには、こういう楽しい夜もいいもんだな。

 そんな風に思える、ヴァーナ公国一日目の夜だった。
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