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神田ヒロト
0日目⑤
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父がガンで倒れたのは、一ヶ月前のことだ。
二人で暮らし始めてからは、この上なく濃密な日々だった。
休みの日は2人で釣りに行ったり、キャンプに行ったり。
父は元々アウトドア派だったらしいが、母が行かせなかったのだろう。
仕事が終わったら出来るだけ早く帰ってきてくれるようになり、夕食を食べながら、学校での出来事や、好きな女の子について話した。
男同士、隠し事はなしだぞ。そんな約束をしたから、俺は父さんに何でも話した。父さんも、なんでも話してくれた。
俺がどんな話をしても、父は嬉しそうに目を細め、笑って聞いてくれた。
俺が小学校で母親がいないことをからかわれ、泣いて帰ってきた時は、頭をわしゃわしゃと撫でて、ニっと笑って言った。
「男がそんなしょうもない事で泣くな。そんなマザコン野郎の言うことなんか気にしてどうする」
周りから浮いても、家が前より狭くなっても、俺は父さんとの暮らしが好きだった。
こんな日々が、ずっと続けばいい…そう思っていた。
俺は高校生になった。
最近、父さんに白髪が増えた。
キャンプや釣りもあまり行かない。
ただ、一緒に食べる夕食と、一つの約束は守っていた。
男同士、隠し事はなしだぞ。
お互い下世話な相談もしてきたその約束を、初めて破ったのは父さんだった。
机の上に置いてあった書類。
父さんがトイレにたった隙に、なんとなく気になって見てしまった。
『悪性腫瘍摘出手術明細』
『子供に多くを遺すためには』
『精密検査の結果』
吐き気がした。信じられなかった。
父さんを問い詰めた。仕方ないことだとわかっていながら。
そうだな。ごめんな。…ごめんな。
父さんが、初めて俺の前で泣いた。
父さんが入院するまでそう時間はかからなかった。
かなり進行していたらしい。手術でも助かるか分からないと、医者に言われた。
手術には200万かかると言われた。もともと、そんな金はない。
俺はバイトを始めた。父さんを助けるために。可能性が少しでもあるなら、と。
父さんは、まるで別人のようになってベッドに横たわっていた。
入院費なども貯金から出しているが、それももう限界だ。
そんな時、父さんが言った。聞いたこともないような、弱々しい声で。
「…ちな、つに…会いたい」
その日から父さんは、意識不明のままだ。
二人で暮らし始めてからは、この上なく濃密な日々だった。
休みの日は2人で釣りに行ったり、キャンプに行ったり。
父は元々アウトドア派だったらしいが、母が行かせなかったのだろう。
仕事が終わったら出来るだけ早く帰ってきてくれるようになり、夕食を食べながら、学校での出来事や、好きな女の子について話した。
男同士、隠し事はなしだぞ。そんな約束をしたから、俺は父さんに何でも話した。父さんも、なんでも話してくれた。
俺がどんな話をしても、父は嬉しそうに目を細め、笑って聞いてくれた。
俺が小学校で母親がいないことをからかわれ、泣いて帰ってきた時は、頭をわしゃわしゃと撫でて、ニっと笑って言った。
「男がそんなしょうもない事で泣くな。そんなマザコン野郎の言うことなんか気にしてどうする」
周りから浮いても、家が前より狭くなっても、俺は父さんとの暮らしが好きだった。
こんな日々が、ずっと続けばいい…そう思っていた。
俺は高校生になった。
最近、父さんに白髪が増えた。
キャンプや釣りもあまり行かない。
ただ、一緒に食べる夕食と、一つの約束は守っていた。
男同士、隠し事はなしだぞ。
お互い下世話な相談もしてきたその約束を、初めて破ったのは父さんだった。
机の上に置いてあった書類。
父さんがトイレにたった隙に、なんとなく気になって見てしまった。
『悪性腫瘍摘出手術明細』
『子供に多くを遺すためには』
『精密検査の結果』
吐き気がした。信じられなかった。
父さんを問い詰めた。仕方ないことだとわかっていながら。
そうだな。ごめんな。…ごめんな。
父さんが、初めて俺の前で泣いた。
父さんが入院するまでそう時間はかからなかった。
かなり進行していたらしい。手術でも助かるか分からないと、医者に言われた。
手術には200万かかると言われた。もともと、そんな金はない。
俺はバイトを始めた。父さんを助けるために。可能性が少しでもあるなら、と。
父さんは、まるで別人のようになってベッドに横たわっていた。
入院費なども貯金から出しているが、それももう限界だ。
そんな時、父さんが言った。聞いたこともないような、弱々しい声で。
「…ちな、つに…会いたい」
その日から父さんは、意識不明のままだ。
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