2 / 7
記憶
妖狐
しおりを挟む
「が...ッ!」
息が出来ないほどの痛みに、俺は思わず目を瞑った。
頭の上から、姉の声が聞こえる。
「ご、ごめん...っ!大丈夫...!?」
あまりの痛みに声が出せず、返答は出来なかった。
痛みに耐えながら、頭の中で必死に状況を整理する。
...恐らく、姉が何かのはずみでバランスを崩して転び、姉の腕を掴んでいた右手が引っ張られて後ろ向きに倒れたのだろう。
まずい。早く起き上がらないと、追いつかれてしまう...!
急いで身体を起こそうとするが、頭を持ち上げようとした途端、全身に激痛が走った。
身体を強く打ったせいだろうか。このままでは、走ることは到底不可能だ。
「ね、姉ちゃん、先に行け...!」
薄く目を開き、痛みを我慢しながら、必死に声を絞り出す。
蚊の鳴くような声だった為聞こえたかどうかは少し不安だが、姉の泣きそうな顔を見る限り、大方の意味は伝わっているだろう。
姉は、お気に入りの向日葵の髪飾りを揺らして言った。
「何言ってるの...!?そんな事出来る訳...」
「いいから早くッ!」
大丈夫、「奴」の狙いはあくまでも姉の筈だ。
もし攻撃してきたら闘えばいいし、最悪俺が食われても…その間に姉はより遠くへ逃げることが出来る。
それに、俺の回復をゆっくり待っているような余裕が無いことも明白だ。
その事は姉も理解しているのか、しきりに後方を確認している。
「早く行け...追いつかれるぞ」
姉は俺の言葉に意を決したのか、ゆっくりと立ち上がってもう1度俺の顔を見た。
...それでいい。
俺の事は気にせずに走れ。もうじき、隣の村が見える筈だ...
俺が安心して目を閉じようとすると、姉が動く気配がした。
しかし...何かが変だ。
まさか...!
俺は慌てて激痛に耐えながら頭を持ち上げ、後ろを見た。
すると、案の定姉は、今来た道を戻り始めていた。
俺は、一瞬で姉の行動の意味を理解する。
「...っ!何やってんだよ、そっちじゃないだろ...ッ!!」
姉はゆっくりと振り向き、弱々しく微笑んだ。
泥でまみれたその頬を、一筋の涙が伝った。
「これ以上、 悠馬に迷惑かけられないよ...」
...何言ってんだよ、姉ちゃん...
「最後まで私を助けようとしてくれて、ありがとう。
私、本当に幸せだった」
やめろ、やめろよ...!
「...勝手なことして、ごめんね。
でも、最期くらいお姉ちゃんらしくしたいんだ。
ねえ、悠馬......
...大好きだよ。」
グシャッ
辺りの木々に、真っ赤な血が飛び散った。
それは、あまりに一瞬の出来事だった。
膝から崩れ落ちる姉。その首の切断面から、勢いよく血が噴き出す。
無抵抗に地面へと倒れ込む姉の向こう側に、その頭部を咥え、赤黒く光る血を弄ぶ獣が立っていた。
月光を受けて光る鋭い牙。
その巨体を覆う黄金色の毛。
幾つにも枝分かれした無数の尾。
血のように真っ赤なその瞳は、俺をじっと見据えている。
逞しく、荒々しく、美しい妖狐の姿に、俺は思わず見蕩れていた。
不思議と恐怖は感じなかった。
満月の夜。
村に生温い風が吹く。
ざわざわと木々を揺らす妖影山に、獣の鳴き声が響いていた。
息が出来ないほどの痛みに、俺は思わず目を瞑った。
頭の上から、姉の声が聞こえる。
「ご、ごめん...っ!大丈夫...!?」
あまりの痛みに声が出せず、返答は出来なかった。
痛みに耐えながら、頭の中で必死に状況を整理する。
...恐らく、姉が何かのはずみでバランスを崩して転び、姉の腕を掴んでいた右手が引っ張られて後ろ向きに倒れたのだろう。
まずい。早く起き上がらないと、追いつかれてしまう...!
急いで身体を起こそうとするが、頭を持ち上げようとした途端、全身に激痛が走った。
身体を強く打ったせいだろうか。このままでは、走ることは到底不可能だ。
「ね、姉ちゃん、先に行け...!」
薄く目を開き、痛みを我慢しながら、必死に声を絞り出す。
蚊の鳴くような声だった為聞こえたかどうかは少し不安だが、姉の泣きそうな顔を見る限り、大方の意味は伝わっているだろう。
姉は、お気に入りの向日葵の髪飾りを揺らして言った。
「何言ってるの...!?そんな事出来る訳...」
「いいから早くッ!」
大丈夫、「奴」の狙いはあくまでも姉の筈だ。
もし攻撃してきたら闘えばいいし、最悪俺が食われても…その間に姉はより遠くへ逃げることが出来る。
それに、俺の回復をゆっくり待っているような余裕が無いことも明白だ。
その事は姉も理解しているのか、しきりに後方を確認している。
「早く行け...追いつかれるぞ」
姉は俺の言葉に意を決したのか、ゆっくりと立ち上がってもう1度俺の顔を見た。
...それでいい。
俺の事は気にせずに走れ。もうじき、隣の村が見える筈だ...
俺が安心して目を閉じようとすると、姉が動く気配がした。
しかし...何かが変だ。
まさか...!
俺は慌てて激痛に耐えながら頭を持ち上げ、後ろを見た。
すると、案の定姉は、今来た道を戻り始めていた。
俺は、一瞬で姉の行動の意味を理解する。
「...っ!何やってんだよ、そっちじゃないだろ...ッ!!」
姉はゆっくりと振り向き、弱々しく微笑んだ。
泥でまみれたその頬を、一筋の涙が伝った。
「これ以上、 悠馬に迷惑かけられないよ...」
...何言ってんだよ、姉ちゃん...
「最後まで私を助けようとしてくれて、ありがとう。
私、本当に幸せだった」
やめろ、やめろよ...!
「...勝手なことして、ごめんね。
でも、最期くらいお姉ちゃんらしくしたいんだ。
ねえ、悠馬......
...大好きだよ。」
グシャッ
辺りの木々に、真っ赤な血が飛び散った。
それは、あまりに一瞬の出来事だった。
膝から崩れ落ちる姉。その首の切断面から、勢いよく血が噴き出す。
無抵抗に地面へと倒れ込む姉の向こう側に、その頭部を咥え、赤黒く光る血を弄ぶ獣が立っていた。
月光を受けて光る鋭い牙。
その巨体を覆う黄金色の毛。
幾つにも枝分かれした無数の尾。
血のように真っ赤なその瞳は、俺をじっと見据えている。
逞しく、荒々しく、美しい妖狐の姿に、俺は思わず見蕩れていた。
不思議と恐怖は感じなかった。
満月の夜。
村に生温い風が吹く。
ざわざわと木々を揺らす妖影山に、獣の鳴き声が響いていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる