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記憶
妖狐
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「が...ッ!」
息が出来ないほどの痛みに、俺は思わず目を瞑った。
頭の上から、姉の声が聞こえる。
「ご、ごめん...っ!大丈夫...!?」
あまりの痛みに声が出せず、返答は出来なかった。
痛みに耐えながら、頭の中で必死に状況を整理する。
...恐らく、姉が何かのはずみでバランスを崩して転び、姉の腕を掴んでいた右手が引っ張られて後ろ向きに倒れたのだろう。
まずい。早く起き上がらないと、追いつかれてしまう...!
急いで身体を起こそうとするが、頭を持ち上げようとした途端、全身に激痛が走った。
身体を強く打ったせいだろうか。このままでは、走ることは到底不可能だ。
「ね、姉ちゃん、先に行け...!」
薄く目を開き、痛みを我慢しながら、必死に声を絞り出す。
蚊の鳴くような声だった為聞こえたかどうかは少し不安だが、姉の泣きそうな顔を見る限り、大方の意味は伝わっているだろう。
姉は、お気に入りの向日葵の髪飾りを揺らして言った。
「何言ってるの...!?そんな事出来る訳...」
「いいから早くッ!」
大丈夫、「奴」の狙いはあくまでも姉の筈だ。
もし攻撃してきたら闘えばいいし、最悪俺が食われても…その間に姉はより遠くへ逃げることが出来る。
それに、俺の回復をゆっくり待っているような余裕が無いことも明白だ。
その事は姉も理解しているのか、しきりに後方を確認している。
「早く行け...追いつかれるぞ」
姉は俺の言葉に意を決したのか、ゆっくりと立ち上がってもう1度俺の顔を見た。
...それでいい。
俺の事は気にせずに走れ。もうじき、隣の村が見える筈だ...
俺が安心して目を閉じようとすると、姉が動く気配がした。
しかし...何かが変だ。
まさか...!
俺は慌てて激痛に耐えながら頭を持ち上げ、後ろを見た。
すると、案の定姉は、今来た道を戻り始めていた。
俺は、一瞬で姉の行動の意味を理解する。
「...っ!何やってんだよ、そっちじゃないだろ...ッ!!」
姉はゆっくりと振り向き、弱々しく微笑んだ。
泥でまみれたその頬を、一筋の涙が伝った。
「これ以上、 悠馬に迷惑かけられないよ...」
...何言ってんだよ、姉ちゃん...
「最後まで私を助けようとしてくれて、ありがとう。
私、本当に幸せだった」
やめろ、やめろよ...!
「...勝手なことして、ごめんね。
でも、最期くらいお姉ちゃんらしくしたいんだ。
ねえ、悠馬......
...大好きだよ。」
グシャッ
辺りの木々に、真っ赤な血が飛び散った。
それは、あまりに一瞬の出来事だった。
膝から崩れ落ちる姉。その首の切断面から、勢いよく血が噴き出す。
無抵抗に地面へと倒れ込む姉の向こう側に、その頭部を咥え、赤黒く光る血を弄ぶ獣が立っていた。
月光を受けて光る鋭い牙。
その巨体を覆う黄金色の毛。
幾つにも枝分かれした無数の尾。
血のように真っ赤なその瞳は、俺をじっと見据えている。
逞しく、荒々しく、美しい妖狐の姿に、俺は思わず見蕩れていた。
不思議と恐怖は感じなかった。
満月の夜。
村に生温い風が吹く。
ざわざわと木々を揺らす妖影山に、獣の鳴き声が響いていた。
息が出来ないほどの痛みに、俺は思わず目を瞑った。
頭の上から、姉の声が聞こえる。
「ご、ごめん...っ!大丈夫...!?」
あまりの痛みに声が出せず、返答は出来なかった。
痛みに耐えながら、頭の中で必死に状況を整理する。
...恐らく、姉が何かのはずみでバランスを崩して転び、姉の腕を掴んでいた右手が引っ張られて後ろ向きに倒れたのだろう。
まずい。早く起き上がらないと、追いつかれてしまう...!
急いで身体を起こそうとするが、頭を持ち上げようとした途端、全身に激痛が走った。
身体を強く打ったせいだろうか。このままでは、走ることは到底不可能だ。
「ね、姉ちゃん、先に行け...!」
薄く目を開き、痛みを我慢しながら、必死に声を絞り出す。
蚊の鳴くような声だった為聞こえたかどうかは少し不安だが、姉の泣きそうな顔を見る限り、大方の意味は伝わっているだろう。
姉は、お気に入りの向日葵の髪飾りを揺らして言った。
「何言ってるの...!?そんな事出来る訳...」
「いいから早くッ!」
大丈夫、「奴」の狙いはあくまでも姉の筈だ。
もし攻撃してきたら闘えばいいし、最悪俺が食われても…その間に姉はより遠くへ逃げることが出来る。
それに、俺の回復をゆっくり待っているような余裕が無いことも明白だ。
その事は姉も理解しているのか、しきりに後方を確認している。
「早く行け...追いつかれるぞ」
姉は俺の言葉に意を決したのか、ゆっくりと立ち上がってもう1度俺の顔を見た。
...それでいい。
俺の事は気にせずに走れ。もうじき、隣の村が見える筈だ...
俺が安心して目を閉じようとすると、姉が動く気配がした。
しかし...何かが変だ。
まさか...!
俺は慌てて激痛に耐えながら頭を持ち上げ、後ろを見た。
すると、案の定姉は、今来た道を戻り始めていた。
俺は、一瞬で姉の行動の意味を理解する。
「...っ!何やってんだよ、そっちじゃないだろ...ッ!!」
姉はゆっくりと振り向き、弱々しく微笑んだ。
泥でまみれたその頬を、一筋の涙が伝った。
「これ以上、 悠馬に迷惑かけられないよ...」
...何言ってんだよ、姉ちゃん...
「最後まで私を助けようとしてくれて、ありがとう。
私、本当に幸せだった」
やめろ、やめろよ...!
「...勝手なことして、ごめんね。
でも、最期くらいお姉ちゃんらしくしたいんだ。
ねえ、悠馬......
...大好きだよ。」
グシャッ
辺りの木々に、真っ赤な血が飛び散った。
それは、あまりに一瞬の出来事だった。
膝から崩れ落ちる姉。その首の切断面から、勢いよく血が噴き出す。
無抵抗に地面へと倒れ込む姉の向こう側に、その頭部を咥え、赤黒く光る血を弄ぶ獣が立っていた。
月光を受けて光る鋭い牙。
その巨体を覆う黄金色の毛。
幾つにも枝分かれした無数の尾。
血のように真っ赤なその瞳は、俺をじっと見据えている。
逞しく、荒々しく、美しい妖狐の姿に、俺は思わず見蕩れていた。
不思議と恐怖は感じなかった。
満月の夜。
村に生温い風が吹く。
ざわざわと木々を揺らす妖影山に、獣の鳴き声が響いていた。
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