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「遥香、帰ろ~!」
そう言いながら飛びついてきたのは、私の唯一の親友である横田美尋。
私はすっかり冷めきったカイロをポケットの中で弄びながら、ごめん、と詫びる。
「ちょっと待ってて、今日は加山さん達に呼ばれてるから。」
「えぇっ、またぁ!?
今回はなんで呼ばれたの?」
美尋は不快感を隠そうともせず、大きな声でそう言った。
「んー、よく分かんないけど…多分、楓の事だと思う」
多分、の辺りからは意図的に声を潜めた。
普通のトーンで話しても一番窓側の席に座って本を読んでいる本人には聞こえないだろうが、念の為だ。
「ふーん。加山達も飽きないよね。なんであんなに楓ちゃんの情報欲しがるんだろ」
「ちょっと、声が大きいって!!」
私が小声で話していた事など全く気にとめていないのだろう。
遠慮なくそう言い放った美尋の口に慌てて手を当てた。
「あ、ごめん。」
美尋の豪快さや快活さには時々憧れるが、場所と雰囲気をわきまえないその物言いには、入学当初から随分困らされてきた。
全くもう…そうこぼしてから、私は続ける。
「それは私もよく分からないけど…単なる嫉妬じゃないかな?」
「あぁ、確かに可愛いしね。」
2年A組で最も浮いた存在の坂原楓は、まずその容姿から周囲とは一画を成していた。
膝の辺りまで伸ばした艶やかな黒髪と、やや切れ長の目、それを彩る長いまつ毛。
手足もスラリとしていて顔も小さく、都会に出たら即スカウトに引っかかりそうな見た目だ。
さらに頭脳明晰で、成績はクラスで一番。
そしてスポーツ万能な上に先生のお気に入りで…と、坂原楓は、加山華を筆頭にクラスを仕切るボスグループが目をつけないはずがないほどの完璧美人なのだ。
加山達のグループは大概、楓と幼馴染みの私に情報を吐かせて、あわよくばそれをネタにして楓をいじめの標的に、とでも考えているのだろう。
そんな内容を簡単に説明すると、美尋は、ふーんと呟いた。
「ま、あんたも毎回大変だろうけど…頑張ってね」
美尋はしばらく楓を舐めるように見ていたが、やがて興味が尽きたのか強引に話題を締めくくった。
「全く、他人事みたいに…」
私は小声で文句を言いながら席を立ち、「10分で戻らないと先に帰るからね」と言う美尋に、15分ね、と念を押して教室を出た。
向かうのは、元1年2組の教室だ。
それは去年の暮れに新校舎が増築されてからは一般生徒は立入禁止の旧校舎にあり、華のグループが私を呼び出す時に毎回指定する場所でもあった。
なぜそのような薄気味悪い場所を指定するのかというと、生徒はもちろん教師もほとんど立ち入らない事から校内では最も情報漏洩の心配が無いという『建前』と…
「おっそい。」
不意に降ってきた高圧的な声に頭上を仰ぐと、2階の窓からこちらを見下ろすいくつかの顔が見えた。
慌てて、予め用意しておいた言葉を吐く。
「ごめんなさい、今日は日直だったから…」
「言い訳はいいから早く来てよね。」
勝手に呼び出したのはそっちなのに…そんな不服を胸中に押し込み、かじかむ手を擦り合わせながら小走りで玄関を抜けた。
「遅くなってごめんなさい…話ってなんですか」
息を切らしながら教室に駆け込むと、華のグループが教室の中央で雑談をしていた。
「あ、やっと来た。」
中央に立っていた華が私に気付いて体を向けると、私と華の間にいた女子がすっと横に引いた。
そう言いながら飛びついてきたのは、私の唯一の親友である横田美尋。
私はすっかり冷めきったカイロをポケットの中で弄びながら、ごめん、と詫びる。
「ちょっと待ってて、今日は加山さん達に呼ばれてるから。」
「えぇっ、またぁ!?
今回はなんで呼ばれたの?」
美尋は不快感を隠そうともせず、大きな声でそう言った。
「んー、よく分かんないけど…多分、楓の事だと思う」
多分、の辺りからは意図的に声を潜めた。
普通のトーンで話しても一番窓側の席に座って本を読んでいる本人には聞こえないだろうが、念の為だ。
「ふーん。加山達も飽きないよね。なんであんなに楓ちゃんの情報欲しがるんだろ」
「ちょっと、声が大きいって!!」
私が小声で話していた事など全く気にとめていないのだろう。
遠慮なくそう言い放った美尋の口に慌てて手を当てた。
「あ、ごめん。」
美尋の豪快さや快活さには時々憧れるが、場所と雰囲気をわきまえないその物言いには、入学当初から随分困らされてきた。
全くもう…そうこぼしてから、私は続ける。
「それは私もよく分からないけど…単なる嫉妬じゃないかな?」
「あぁ、確かに可愛いしね。」
2年A組で最も浮いた存在の坂原楓は、まずその容姿から周囲とは一画を成していた。
膝の辺りまで伸ばした艶やかな黒髪と、やや切れ長の目、それを彩る長いまつ毛。
手足もスラリとしていて顔も小さく、都会に出たら即スカウトに引っかかりそうな見た目だ。
さらに頭脳明晰で、成績はクラスで一番。
そしてスポーツ万能な上に先生のお気に入りで…と、坂原楓は、加山華を筆頭にクラスを仕切るボスグループが目をつけないはずがないほどの完璧美人なのだ。
加山達のグループは大概、楓と幼馴染みの私に情報を吐かせて、あわよくばそれをネタにして楓をいじめの標的に、とでも考えているのだろう。
そんな内容を簡単に説明すると、美尋は、ふーんと呟いた。
「ま、あんたも毎回大変だろうけど…頑張ってね」
美尋はしばらく楓を舐めるように見ていたが、やがて興味が尽きたのか強引に話題を締めくくった。
「全く、他人事みたいに…」
私は小声で文句を言いながら席を立ち、「10分で戻らないと先に帰るからね」と言う美尋に、15分ね、と念を押して教室を出た。
向かうのは、元1年2組の教室だ。
それは去年の暮れに新校舎が増築されてからは一般生徒は立入禁止の旧校舎にあり、華のグループが私を呼び出す時に毎回指定する場所でもあった。
なぜそのような薄気味悪い場所を指定するのかというと、生徒はもちろん教師もほとんど立ち入らない事から校内では最も情報漏洩の心配が無いという『建前』と…
「おっそい。」
不意に降ってきた高圧的な声に頭上を仰ぐと、2階の窓からこちらを見下ろすいくつかの顔が見えた。
慌てて、予め用意しておいた言葉を吐く。
「ごめんなさい、今日は日直だったから…」
「言い訳はいいから早く来てよね。」
勝手に呼び出したのはそっちなのに…そんな不服を胸中に押し込み、かじかむ手を擦り合わせながら小走りで玄関を抜けた。
「遅くなってごめんなさい…話ってなんですか」
息を切らしながら教室に駆け込むと、華のグループが教室の中央で雑談をしていた。
「あ、やっと来た。」
中央に立っていた華が私に気付いて体を向けると、私と華の間にいた女子がすっと横に引いた。
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