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7.皇帝との謁見です
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宮殿の門が開かれると、セレスティアの目に白亜の壁と至るところに見られる金細工が飛び込んできた。高い天井には無数のシャンデリアが輝いている。廊下を進むたびに周囲の衛兵や侍女たちがセレスティアに視線を向け、その中には好奇の目もあれば冷ややかな目もある。
扉の前で侍従が立ち止まり、一礼してセレスティアに告げる。
「これより陛下との謁見です。どうぞ、お進みください」
重厚な扉が音を立てて開かれた。広々とした謁見の間は冷たい大理石でできており、中心には黒い衣装に身を包んだ大柄な一人の男が立っている。
セレスティアは深呼吸を一つし、背筋を伸ばして足を進めた。銀の髪が静かに揺れ、サファイアの瞳が謁見の間の奥にいる男へと向けられる。緊張を押し隠しながらも、一歩一歩に迷いはなかった。
男――帝国の皇帝エヴェリオス陛下は、王座の手前でセレスティアを待っていた。側には側近であろう男が二人控えている。一人はモーリス卿と同じくらいの年齢だろうか、文官らしく片めがねに細身の長身の男だ。もう一人は騎士だろうか、エヴェリオスとそう年齢の変わらぬ若い男だが、こちらは木の幹のような太い腕がその強さを物語っている。
皇帝エヴェリオスは漆黒の髪に黄金瞳をもつ美丈夫だった。彼自身が強い剣士であることは広く知られている。すべてを見通してしまいそうな金の瞳がセレスティアを値踏みするかのようにじっと見据えている。その立ち姿は威厳に満ちており、彼の前では頭を垂れることが自然なことであると感じさせる。
「セレスティア・ローディアと申します。帝国を導く北極星に拝謁賜りましたこと、心から嬉しく存じます」
セレスティアは一定の距離を置いて立ち止まり、深くカーテシ―をした。セレスティアの声が謁見の間の静けさの中でよく響いた。
エヴェリオスはセレスティアの挨拶にも眉一つ動かさなかった。そして、しばらくの沈黙のあと、その艶のある低音を響きかせた。
「遠路はるばるご苦労だったな、王女殿下」
その声に皮肉が含まれていることにはセレスティアも気がついていたが、セレスティアは毅然とした態度で応えた。
「陛下のお招きに預かり、皇妃という大役をいただいたこと、光栄に思っております。この身はすでに帝国のもの。この地の繁栄に貢献できるよう、努めてまいる所存でございます」
セレスティアの言葉にエヴェリオスは僅かに笑みを浮かべたが、それは冷たさを伴うものだった。
「お前の祖国での評価は帝国にも聞こえている。それをここで覆すつもりか?」
セレスティアの言葉と態度から、彼女の意気込みを正確に読み取ったらしい。どうやらセレスティアの悪評が聞こえていたと言いつつも、それをそれをただ信じているという訳ではないようだった。
「陛下の仰る通り、私は祖国で高い評価を得ているわけではございません。しかし、この地では祖国での評価ではなく、私自身の行いで価値を示すべきだと心得ております」
セレスティアは、エヴェリオスの鋭い視線の受けながら毅然とした態度を崩さなかった。たとえ内心どれほど震えようがそれを見せないだけの強さがあると示したかった。
エヴェリオスはその様子を見て、一瞬だけ目を細めた。まるで彼女の内面を深く探ろうとするかのようだった。だが、その口元には微かな笑みが浮かび、冷淡な威圧感を崩すことはなかった。
「興味深い答えだ。だが、ここは帝国だ。行い一つで称賛を得ることもあれば、命を失うこともある。その覚悟はあるのだろうな?」
その問いには、脅迫めいた威圧感が含まれていた。だがセレスティアは視線を下げず、力強く頷いた。
「はい、陛下。覚悟はとうに決めております。この地で生きるために、そして帝国に尽くすために」
エヴェリオスはその答えにわずかに眉を上げた。彼の黄金の瞳がセレスティアのサファイアの瞳を捉え、数秒の間が生まれる。そして、彼は短く鼻で笑った。
「……ならば見せてもらおう。お前の覚悟とやらを」
彼は背を向け、王座へと歩み寄った。その姿は冷たい威厳に満ちており、まるで彼の存在そのものがこの場を支配しているようだった。
「今日のところはここまでだ。お前の居所と仕えの者たちはすでに用意してある。侍従に従え」
その声に命令の響きが混じり、これ以上の言葉を必要としないと告げていた。
セレスティアは静かに深く礼をし、背筋を伸ばして謁見の間を後にした。その歩みには迷いはなく、扉が閉まるまで彼女の銀の髪が光を反射して輝いていた。
扉の向こうでその光が消えたあと、エヴェリオスは無言のまま玉座に座り、手元の杯を手に取った
「……果たしてどこまで耐えられるか」
低く呟かれたその声には、冷徹な試練の予感と、わずかな期待が混じっていた。
扉の前で侍従が立ち止まり、一礼してセレスティアに告げる。
「これより陛下との謁見です。どうぞ、お進みください」
重厚な扉が音を立てて開かれた。広々とした謁見の間は冷たい大理石でできており、中心には黒い衣装に身を包んだ大柄な一人の男が立っている。
セレスティアは深呼吸を一つし、背筋を伸ばして足を進めた。銀の髪が静かに揺れ、サファイアの瞳が謁見の間の奥にいる男へと向けられる。緊張を押し隠しながらも、一歩一歩に迷いはなかった。
男――帝国の皇帝エヴェリオス陛下は、王座の手前でセレスティアを待っていた。側には側近であろう男が二人控えている。一人はモーリス卿と同じくらいの年齢だろうか、文官らしく片めがねに細身の長身の男だ。もう一人は騎士だろうか、エヴェリオスとそう年齢の変わらぬ若い男だが、こちらは木の幹のような太い腕がその強さを物語っている。
皇帝エヴェリオスは漆黒の髪に黄金瞳をもつ美丈夫だった。彼自身が強い剣士であることは広く知られている。すべてを見通してしまいそうな金の瞳がセレスティアを値踏みするかのようにじっと見据えている。その立ち姿は威厳に満ちており、彼の前では頭を垂れることが自然なことであると感じさせる。
「セレスティア・ローディアと申します。帝国を導く北極星に拝謁賜りましたこと、心から嬉しく存じます」
セレスティアは一定の距離を置いて立ち止まり、深くカーテシ―をした。セレスティアの声が謁見の間の静けさの中でよく響いた。
エヴェリオスはセレスティアの挨拶にも眉一つ動かさなかった。そして、しばらくの沈黙のあと、その艶のある低音を響きかせた。
「遠路はるばるご苦労だったな、王女殿下」
その声に皮肉が含まれていることにはセレスティアも気がついていたが、セレスティアは毅然とした態度で応えた。
「陛下のお招きに預かり、皇妃という大役をいただいたこと、光栄に思っております。この身はすでに帝国のもの。この地の繁栄に貢献できるよう、努めてまいる所存でございます」
セレスティアの言葉にエヴェリオスは僅かに笑みを浮かべたが、それは冷たさを伴うものだった。
「お前の祖国での評価は帝国にも聞こえている。それをここで覆すつもりか?」
セレスティアの言葉と態度から、彼女の意気込みを正確に読み取ったらしい。どうやらセレスティアの悪評が聞こえていたと言いつつも、それをそれをただ信じているという訳ではないようだった。
「陛下の仰る通り、私は祖国で高い評価を得ているわけではございません。しかし、この地では祖国での評価ではなく、私自身の行いで価値を示すべきだと心得ております」
セレスティアは、エヴェリオスの鋭い視線の受けながら毅然とした態度を崩さなかった。たとえ内心どれほど震えようがそれを見せないだけの強さがあると示したかった。
エヴェリオスはその様子を見て、一瞬だけ目を細めた。まるで彼女の内面を深く探ろうとするかのようだった。だが、その口元には微かな笑みが浮かび、冷淡な威圧感を崩すことはなかった。
「興味深い答えだ。だが、ここは帝国だ。行い一つで称賛を得ることもあれば、命を失うこともある。その覚悟はあるのだろうな?」
その問いには、脅迫めいた威圧感が含まれていた。だがセレスティアは視線を下げず、力強く頷いた。
「はい、陛下。覚悟はとうに決めております。この地で生きるために、そして帝国に尽くすために」
エヴェリオスはその答えにわずかに眉を上げた。彼の黄金の瞳がセレスティアのサファイアの瞳を捉え、数秒の間が生まれる。そして、彼は短く鼻で笑った。
「……ならば見せてもらおう。お前の覚悟とやらを」
彼は背を向け、王座へと歩み寄った。その姿は冷たい威厳に満ちており、まるで彼の存在そのものがこの場を支配しているようだった。
「今日のところはここまでだ。お前の居所と仕えの者たちはすでに用意してある。侍従に従え」
その声に命令の響きが混じり、これ以上の言葉を必要としないと告げていた。
セレスティアは静かに深く礼をし、背筋を伸ばして謁見の間を後にした。その歩みには迷いはなく、扉が閉まるまで彼女の銀の髪が光を反射して輝いていた。
扉の向こうでその光が消えたあと、エヴェリオスは無言のまま玉座に座り、手元の杯を手に取った
「……果たしてどこまで耐えられるか」
低く呟かれたその声には、冷徹な試練の予感と、わずかな期待が混じっていた。
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