怖い話集 ホラー

yunna

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家に住むもの

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「この家には、何かいる。」

私がそう確信したのは、引っ越してから一週間が過ぎた頃だった。



私は一人暮らしを始めるために、この古びたアパートに越してきた。家賃が相場よりも安く、駅にも近い。築40年以上で、床はところどころ軋むが、そこまで不便ではない。

最初の異変は、夜中に目を覚ましたときだった。

部屋の隅に、何かがいる気配がする。

暗闇の中、じっとそちらを見つめても、何も見えない。でも、確かに”いる”と感じる。心臓の鼓動が速くなり、冷や汗が滲んだ。

「気のせいだ…」

そう自分に言い聞かせ、無理やり目を閉じた。



それから数日後、また深夜に目を覚ました。

今度は明らかに違った。何かの「音」がする。

カサ…カサ…

まるで、何かが床を這うような音。私は寝たまま耳を澄ませた。すると、音は少しずつ近づいてくる。

「ネズミか…?」

そう思いながら、スマホのライトをつけ、音のする方を照らした。

そこには何もなかった。

しかし、私ははっきりと見たのだ。床にうっすらと、人の手の跡がついているのを。

まるで、這いずるように。

第三の違和感

次の日から、不可解なことが続いた。

・閉めたはずのクローゼットが開いている。
・枕元に知らない髪の毛が落ちている。
・深夜、誰かが話す声がする。

特に最後の「声」は、はっきりと耳に届くようになっていた。最初はくぐもった独り言のようなものだったが、次第にはっきりしてきた。

「かえして…」

低く、湿った声が、夜ごと私にささやく。

最初は金縛りかと思った。でも、意識ははっきりしている。動けるのに、動きたくないのだ。

私は恐怖に震えながら、布団をかぶった。

“それ”の正体

この部屋はおかしい。そう確信した私は、部屋の過去を調べた。

このアパートの一室で、十年前にある事件があった。

20代の女性が、交際相手に殺され、床下に遺棄されたのだ。発覚したのは数年後で、腐敗が進んでいたという。

…私がいる部屋こそ、その現場だった。

床を這う手の跡。夜ごとの「かえして…」という声。

それは、彼女のものなのか?

私は気が狂いそうになり、すぐにでも引っ越したかった。しかし、経済的に余裕がない。そこで、知り合いの霊感が強いという人に相談することにした。

彼は部屋に入るなり、顔をしかめた。

「ここ…かなりヤバいよ。」

「やっぱり…?」

「うん。彼女、まだいる。“出られない”んだ。」

「出られない?」

彼は、部屋の中央を指さした。

「この床の下に、“彼女の一部”がまだ埋まってる。」

ゾクリと背筋が凍った。警察が回収したはずの遺体。しかし、全て見つかったとは限らない。彼女は、自分の一部を”かえして”ほしかったのか?

私は震えながら、彼にどうすればいいか尋ねた。

彼は言った。

「このまま住み続けるのは無理だよ。すぐに引っ越したほうがいい。」

私は迷うことなく、その日のうちに荷物をまとめた。幸い、友人の家に泊めてもらうことができた。

終わりではなかった

新しい部屋に引っ越した後、恐怖は消えた…はずだった。

だが、深夜、私はふと目を覚ます。

部屋の隅に、“何か”の気配がする。

じっと耳を澄ますと、かすかに聞こえる。

「かえして…」

暗闇の中、私は身動きできずにいた。
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