141 / 142
家に住むもの
しおりを挟む「この家には、何かいる。」
私がそう確信したのは、引っ越してから一週間が過ぎた頃だった。
私は一人暮らしを始めるために、この古びたアパートに越してきた。家賃が相場よりも安く、駅にも近い。築40年以上で、床はところどころ軋むが、そこまで不便ではない。
最初の異変は、夜中に目を覚ましたときだった。
部屋の隅に、何かがいる気配がする。
暗闇の中、じっとそちらを見つめても、何も見えない。でも、確かに”いる”と感じる。心臓の鼓動が速くなり、冷や汗が滲んだ。
「気のせいだ…」
そう自分に言い聞かせ、無理やり目を閉じた。
それから数日後、また深夜に目を覚ました。
今度は明らかに違った。何かの「音」がする。
カサ…カサ…
まるで、何かが床を這うような音。私は寝たまま耳を澄ませた。すると、音は少しずつ近づいてくる。
「ネズミか…?」
そう思いながら、スマホのライトをつけ、音のする方を照らした。
そこには何もなかった。
しかし、私ははっきりと見たのだ。床にうっすらと、人の手の跡がついているのを。
まるで、這いずるように。
第三の違和感
次の日から、不可解なことが続いた。
・閉めたはずのクローゼットが開いている。
・枕元に知らない髪の毛が落ちている。
・深夜、誰かが話す声がする。
特に最後の「声」は、はっきりと耳に届くようになっていた。最初はくぐもった独り言のようなものだったが、次第にはっきりしてきた。
「かえして…」
低く、湿った声が、夜ごと私にささやく。
最初は金縛りかと思った。でも、意識ははっきりしている。動けるのに、動きたくないのだ。
私は恐怖に震えながら、布団をかぶった。
“それ”の正体
この部屋はおかしい。そう確信した私は、部屋の過去を調べた。
このアパートの一室で、十年前にある事件があった。
20代の女性が、交際相手に殺され、床下に遺棄されたのだ。発覚したのは数年後で、腐敗が進んでいたという。
…私がいる部屋こそ、その現場だった。
床を這う手の跡。夜ごとの「かえして…」という声。
それは、彼女のものなのか?
私は気が狂いそうになり、すぐにでも引っ越したかった。しかし、経済的に余裕がない。そこで、知り合いの霊感が強いという人に相談することにした。
彼は部屋に入るなり、顔をしかめた。
「ここ…かなりヤバいよ。」
「やっぱり…?」
「うん。彼女、まだいる。“出られない”んだ。」
「出られない?」
彼は、部屋の中央を指さした。
「この床の下に、“彼女の一部”がまだ埋まってる。」
ゾクリと背筋が凍った。警察が回収したはずの遺体。しかし、全て見つかったとは限らない。彼女は、自分の一部を”かえして”ほしかったのか?
私は震えながら、彼にどうすればいいか尋ねた。
彼は言った。
「このまま住み続けるのは無理だよ。すぐに引っ越したほうがいい。」
私は迷うことなく、その日のうちに荷物をまとめた。幸い、友人の家に泊めてもらうことができた。
終わりではなかった
新しい部屋に引っ越した後、恐怖は消えた…はずだった。
だが、深夜、私はふと目を覚ます。
部屋の隅に、“何か”の気配がする。
じっと耳を澄ますと、かすかに聞こえる。
「かえして…」
暗闇の中、私は身動きできずにいた。
10
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる