怖い話集 ホラー

チョコレート

### 甘い闇

#### 第一章：贈り物

静かな田舎町、翠ヶ丘。この町には古くから奇妙な言い伝えがあった。

「夜中に口にするな。さもなくば、甘い闇に引きずり込まれる——」

何のことを指しているのか、多くの住人は知らない。ただ、子どもたちは親から厳しく言いつけられていた。「夜中に甘いものを食べるな」と。

ある日、この町に一軒のチョコレート専門店がオープンした。「ラ・ノワール」、黒の意味を持つその店は、町の中心にひっそりと佇んでいた。店主は謎めいた雰囲気を持つ女性で、彼女が作るチョコレートはまるで宝石のような美しさだった。香りは甘く濃厚で、口に入れると至福の味が広がる。しかし、不思議なことに、そのチョコを食べた人々は次第に奇妙な夢を見るようになった。

夢の中で彼らは暗闇の中にいた。どこからともなく漂う甘い香り。それに誘われて進むと、そこには漆黒のチョコレートでできた館がそびえ立っていた。扉を開けると、中には無数のチョコレートが並び、誰かの囁く声が響く。

「もっと食べなさい……もっと……」

夢から覚めた人々は、夜な夜なラ・ノワールのチョコを求めるようになった。そして、ある日を境に、彼らは忽然と姿を消した。

——次に消えるのは誰か？

#### 第二章：甘美な呪い

翠ヶ丘の住人たちは、徐々に異変に気づき始めていた。最初に消えたのは町の青年、拓真だった。彼はラ・ノワールのチョコレートに魅了され、毎晩のように店を訪れていた。ある朝、彼の家族が彼の部屋を覗くと、ベッドにはチョコレートの欠片が散乱しているだけで、彼の姿はなかった。

町の人々は恐れを抱いたが、奇妙なことに、それでもラ・ノワールのチョコを求める者は後を絶たなかった。チョコを口にした者は、次第に肌が艶めき、目には異様な輝きが宿るようになった。やがて、彼らは夜ごとに姿を消していった。

ある日、町の少女、結菜はラ・ノワールの店主に問いただした。

「あなたのチョコを食べた人はどこへ行ったの？」

店主は微笑みながら答えた。

「彼らは甘美なる世界へ旅立ったのよ」

それが何を意味するのか、結菜には分からなかった。しかし、彼女の背筋に冷たいものが走った。