一人で生きることは、死ぬよりも辛い

しぃ

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16話

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 彼女の元気な「ただいま」が聞けて、僕は嬉しかった。

 そして、彼女もまた同じことを考えていたようだ。

 はじめて会った気がしないのはなぜだろうという疑問を僕も抱いていた。

 何故か、彼女と出会うことは生まれる前から決まっていたことのようにすら思えてしまう。
 こんなことは今まで1度もなかった。

 人はこうしたことを運命とでも言うのだろうか。僕には恥ずかしくてとても言葉にはできなかった。


 一瞬の思考から始まった沈黙は、どんどん広がっていく。

 気づくと僕らは会話を忘れていた。



 交わる視線。

 微かに耳に届く互いの息遣い。

 今まで経験したことのない感覚に体が包まれていく。

 心臓は知らないリズムで脈打ち始める。

 息苦しさの中に、確かな高揚を感じた。
 


 僕は彼女に見とれていた。

 見とれるという経験が無かった僕には不思議な感覚だった。

 夢でも見ているような、現実感のない、けれども意識はハッキリと君へ吸い込まれていく感覚。

 このまま時間が止まってしまえばいいのにと僕は思った。思ったと言うよりも願ったのかもしれない。

 

 僕は、生まれて初めて恋をした。


 もうすぐ死んでしまうであろう目の前の元気な彼女に。

 
 余命わずかな僕が、同じように余命わずかな彼女に恋をしてなんの意味があるのだろうか?

 悪癖によって現実に引きずり落とされた僕は、出しかけた答えを飲み込むと共に彼女から逃げるように視線をそらした。

「ご、ごめん」
 なぜだか謝ってしまった。

 彼女はまたふふふと笑った。



 僕は正気に戻った。

 それでもまだ、心臓だけが先程までと変わらず軽快に脈打っている。

 かける言葉を探していると彼女の声が耳に届いた。

「次は…いつ会おっか?」
 彼女の声が心地よい。
「明日はどうかな?」
 即答すると彼女はまたふふふと笑った。
「ポチは私になついちゃったか。頭撫でてあげようか?」
 しまった。
 やはり彼女の方がこうしたやり取りは上手のようだ。とても敵いそうにない。
「頭はなでなくても良いけど明日また会いたいとは思ってるよ」
 僕は素直になることにした。
「なんだか照れちゃうな。じゃあまた明日同じ時間で大丈夫?」
 嫌じゃなさそうでホッとした。彼女の反応に一喜一憂している自分に気づく。
 今日の僕はなんだかいつもより頑張っていたからだろうか、少しだけ疲れてしまった。
 もしかしたら人と関わってこなかった弊害なのかもしれない。これが噂に聞く気疲れってやつなのかな。
「大丈夫。今日はありがとう。楽しかったよ」
 なんとなく感謝を伝えた。
「ホントにね。こんなに笑ったのは初めてかも。もしかしたら寿命が1日くらい延びたかもね。ふふふ」
 そう言ってまた彼女は笑う。所謂これは笑えない冗談なのだが。
 僕としても同じ余命わずかな立場なのでユニークな冗談として受け取ることにした。
「その理屈でいくと僕らは毎日会えば余命を気にするどころか不死者になれるね」
「たまにはいいこと言うじゃないポチ」
 この子はわざとポチと呼んでいるようだ。なかなかいい性格をしてらっしゃる。
「そんな顔しないの。自分で言ったんだからねー」
 僕が彼女に名前を教える日は遠くないだろう。



 僕は少しだけ考えた。そしてそれを伝えることにした。
「ねえ。次はお互いの病気のことを話さない?嫌なら別にいいんだ。僕は君のことをもっと知りたい。でもその前に、まず最初に聞いた方がいい気がしたんだ。大切なことだから。それと僕は自分の病気について話したいと思ってる。君が聞きたくないなら他の話にするけどね。でもできれば聞いてほしい」
 さぁどう来る…


 彼女は真剣な顔で黙り込んだ。
 
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