36 / 42
35話
しおりを挟む
自分の病室までは、健がおんぶで運んでくれた。お姫様抱っこがいいと言うと、そんな体力は僕にはないとあきれられた。
ベッドに入って目を瞑っても気持ちがなかなか収まらない。こんなにドキドキするのは久しぶりだ。嬉しいな。
自力で会いに行くのは今日が最後になるかもしれない。
そういえば健が「そんなこと」と言ったことについて怒るのを忘れていた。明日きっちり怒らないとな。
月明かりが妙に明るく、病室は柔らかな薄暗さを纏(まと)っていた。
気分は高揚していたが、静けさに気づくと次第に落ち着きを取り戻していった。
時刻は2時を過ぎていたが、眠気は全く感じない。
気付けば、これまでのことを思い出していた。
唇が触れ合う感触を貴方は私に教えてくれた。
人肌の温もりを、生きたいという気持ちを、好きという感情を、貴方は私に教えてくれた。
すっと一緒にいたかった。
まぁそれは始めから諦めてたことだけど。
そう思わせてくれたことが、本当に嬉しかった。
もしかしたら、というかたぶん貴方は私が好きだと思う。
今となっては確かめる手段はないけれど、絶対そうだと思うんだ。
それは、契約を交わしたあとにそうなったのかも知れない。嘘から出た真ってやつなのかな? それもまたちょっと違うか。
だけど人の気持ちは移ろい、変わっていくのだろう。その中で変わらない、風化しない想いだってあるはずだ。
私は死ぬまで健を想い続けるだろう。健にもできればそうであってほしい。
もし、健が健常者なら、私のことは忘れて次の恋に向かってほしい。だけどそうじゃない。恐らく互いに次はないのだ。
だからこそ、どちらかが欠けた後もずっと同じ気持ちでいてほしいと思う。
こういうのは、重たいのかな……
特に、私たちの場合、先に欠けるのは私だろう。だからこそ、最後くらいわがままを言わせてもらいたいものだ。本人に直接伝える勇気はないけど……
私の悪い癖だな。
恐がりで、直ぐに逃げる。
私が病気じゃなかったら、もっと勇気が出せるのかなぁ?
次があると思えれば……
だけどそれじゃまるで誰でもいいみたいでなんだか嫌だな。
やっぱり私は私だ。臆病だけど、諦めが悪いけど……あれ? 私良いところないな……
まぁ明日健に聞いてみよう。
たぶんまだ明日は生きてるはずだしね。
まだ眠くないし、羊の代わりに健のダメなところでも数えようかなー。
まずは、たまに素直じゃないところでしょーあとはーあとはなんだろうな……
ないな……いや、なんかあるでしょーえーっとえーっとぉ……
…………zzz……ZZZ
ベッドに入って目を瞑っても気持ちがなかなか収まらない。こんなにドキドキするのは久しぶりだ。嬉しいな。
自力で会いに行くのは今日が最後になるかもしれない。
そういえば健が「そんなこと」と言ったことについて怒るのを忘れていた。明日きっちり怒らないとな。
月明かりが妙に明るく、病室は柔らかな薄暗さを纏(まと)っていた。
気分は高揚していたが、静けさに気づくと次第に落ち着きを取り戻していった。
時刻は2時を過ぎていたが、眠気は全く感じない。
気付けば、これまでのことを思い出していた。
唇が触れ合う感触を貴方は私に教えてくれた。
人肌の温もりを、生きたいという気持ちを、好きという感情を、貴方は私に教えてくれた。
すっと一緒にいたかった。
まぁそれは始めから諦めてたことだけど。
そう思わせてくれたことが、本当に嬉しかった。
もしかしたら、というかたぶん貴方は私が好きだと思う。
今となっては確かめる手段はないけれど、絶対そうだと思うんだ。
それは、契約を交わしたあとにそうなったのかも知れない。嘘から出た真ってやつなのかな? それもまたちょっと違うか。
だけど人の気持ちは移ろい、変わっていくのだろう。その中で変わらない、風化しない想いだってあるはずだ。
私は死ぬまで健を想い続けるだろう。健にもできればそうであってほしい。
もし、健が健常者なら、私のことは忘れて次の恋に向かってほしい。だけどそうじゃない。恐らく互いに次はないのだ。
だからこそ、どちらかが欠けた後もずっと同じ気持ちでいてほしいと思う。
こういうのは、重たいのかな……
特に、私たちの場合、先に欠けるのは私だろう。だからこそ、最後くらいわがままを言わせてもらいたいものだ。本人に直接伝える勇気はないけど……
私の悪い癖だな。
恐がりで、直ぐに逃げる。
私が病気じゃなかったら、もっと勇気が出せるのかなぁ?
次があると思えれば……
だけどそれじゃまるで誰でもいいみたいでなんだか嫌だな。
やっぱり私は私だ。臆病だけど、諦めが悪いけど……あれ? 私良いところないな……
まぁ明日健に聞いてみよう。
たぶんまだ明日は生きてるはずだしね。
まだ眠くないし、羊の代わりに健のダメなところでも数えようかなー。
まずは、たまに素直じゃないところでしょーあとはーあとはなんだろうな……
ないな……いや、なんかあるでしょーえーっとえーっとぉ……
…………zzz……ZZZ
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる