The moment 【LOVE】

しぃ

文字の大きさ
8 / 11

case 8

しおりを挟む
 季節は春。
 テレビからは開花宣言がどうだという天気予報士のコメントが聞こえる。テレビをつけてみたがまだ寒くて布団から抜け出せずにいた。
 期末試験を無事パスして三枝大輝みえだたいきは大学4年に進級をした。就活や研究で忙しくなる前に田舎に帰省しようと思い、来週の月曜日に出発する飛行機を予約している。今日はお土産を買うために友達に車を出してもらう約束をしていた。
 ピーンポーン
 部屋のインターホンが来客を知らせる。
「開いてるよー。」
「おはぁ。あ、お前まだ起きたばっかじゃん。俺来るの10時でよかったんじゃないの?早起きして損した。」
 さっそく不満を吐露する彼は柳誠司(やなぎせいじ)。同じく大学4年だ。
「まぁまぁ、そう言うなよ誠司。早起きは三文の徳なんだからもう既にお前は得してるんだよ。」
「お前三文ってなんのことか知ってんの?」
「いや知らんけど一石二鳥的なことなんでしょ?」
「お前クソやな。三文ってまぁほんの少しみたいな意味だしそもそもの意味は早起きしても三文しか徳ねえって意味だからな。」
 俺は良くこいつから諺や言葉の意味を教えてもらう。すぐに忘れちゃうんだけどさ。
「流石文系男子。やるな。」
「いいからさっさと布団から出て準備しろや。」
「へーい。」
 渋々布団から出て急いで準備をし、相棒の車でお土産巡りの旅に出た。


 買い物を終えた俺たちは昼食を取ることにした。
「お前まだ彼女できないの?」
 唐突な質問が誠司から投げ掛けられた。
「え?なんで?まさかお前彼女できたの?」
「いや、この前告白されてまだ答え保留中なんだけどさ。お前のそんな話大学入ってから聞いたことないしどうなのかと思ってさー。」
「とりあえずその子はやめとけ。ちなみにどんな子なんだよ。」
 呆れた表情で誠司は答える。
「お前なかなかのクズだな。まぁいい子だよ。3つ下の子なんだけどしっかりしてるんだよな。」
「お前のことは今後ロリコンと呼ぶ。」
 一瞬眉をピクリと動かした誠司はわざとらしく笑顔をつくる。
「歩いて帰るか?」
「すいませんでした!」
「よろしい。でも実際年離れてるかなーと思って保留にしてるんだよな。お前だったら付き合う?」
 なるほど。これは相談だったのか。ただの自慢かと思ってイラついちゃったぜ。
「俺だったら付き合わない。年下なんて話合わないし自分より子供の相手なんて絶対無理。あと3歳は離れすぎだろ。それもう高校生じゃん。」
「いや、一応大学生だよ。でも確かにそうかもなー。まぁとりあえずデートしてからじゃないとなんもわかんないしな。」
「デートしたって時間の無駄だろ。ガキだよガキ。まぁ楽しんできなよ子守りをさ。」
「お前がモテない理由がなんかわかった気がする。」


 あれから数日がたち出発当日。
 先週の冷え込みは嘘のように暖かな日差しが降りそそぐ。
 登場手続きを終え機内に乗り込む。俺は窓際の席だ。
 暫くすると隣の席の人が来た。女の子だ。かわいいというよりも綺麗という形容詞がしっくりくる容姿だった。その割には服装は子供っぽいものを身に付けている。安っぽい腕輪や大きなリュックサック、ヒラヒラのスカートなど見れば見るほど気になってくる。
「あれ、上がんない、重い…」
 一生懸命リュックを頭上の棚にあげようとしているがその細い腕では厳しい様子だ。
「あげますよ。貸して。」
 俺はたまには人助けもいいかなと気まぐれで手助けをした。
「ごめんなさい。ありがとうございます。荷物詰め込みすぎちゃって。」
 恥ずかしそうに彼女はハニカム。
「たしかに荷物すごいね。肩痛くなんない?」
 いつの間にか彼女との会話を引き伸ばそうとする自分がいた。
「大丈夫です。肩が固いのかな?なんか大丈夫でした。今年受験なんでこの近くにあるお姉ちゃんの大学を見に行って来たんですよね。それでうち田舎だからお土産いっぱい買っちゃって。」
 肩が固いってなんだよ。なんか面白い子だな。服装が少し幼いのも納得だ。まだ高校生だったんだな。
「その大学ってもしかして…」
 やはり俺の通う大学だった。
「あの、ちなみに学部とか学科はどこか決めてるの?」
「一応建築系にしようかと思ってるんです。姉は文系なのでその辺の話は詳しく聞けなかったんですけどね。」
 俺、建築学科なんだよな…。もう一歩踏み込んでいいのか考えていると彼女から次の質問が来て話が流れてしまった。
「ちなみに実家はどこなんですか?」
 なんと実家も近かった。もしかしたらこの子の姉って知ってる人なんじゃないだろうか。
「空港からは電車ですか?一緒に帰りません?私電車の乗り継ぎが苦手で…」
 うちのおかんみたいなこと言ってるよ。今時珍しいな。
「それは別に構わないけどさ、なんかおばちゃんみたいだね。」
「ひどいなぁ。まだ高校生なのになぁ。傷つくなぁ。」
 ちょっとへこんじゃったよ。
「なんだろう…折角かわいいのに中身がおばちゃんみたいでなんか新感覚だね。」
 フォローのつもりだったが話がおかしな方に転がってしまう。
「私かわいいですかね?」
 面と向かってそんなことを聞かれると答えにくい。
「えっと…可愛いと思うよ。」
「嬉しい。」
 うっとりとしている。ホントに嬉しかったのだろう。
「私まだ誰かと付き合ったことなくて…その、かわいいなんて言ってもらえたの初めてで…」
 いや、たしかにかわいいとは言った。言ったけどそれは聞かれたからで…確かにかわいいとは思ってるけど別に口説こうと思っての発言じゃないんだけどな。この子ピュア過ぎだろ。
「あの、私…どうですか?」
「え?」
 これ、告白?
 話の展開が早すぎて頭がついていかない。こんなの少女漫画でも展開が速すぎるって感想届くレベルだろ。
「えっとさ…今のって…」
 彼女を見ると真剣な表情でコクコクと頷く。その柔らかそうな頬はほんのりと朱に染まる。正直言ってこの子はかわいい。凄くタイプだ。
 先週の誠司との会話が思い出される。
 まいったな…高校生の彼女ができたなんて言ったらロリコン扱いされるよな…そもそも俺が勝手に言ってるだけなんだけどさ…
 チラリと彼女の様子を伺うと凄く不安そうな顔をしていた。そんな顔しないでよ…この子の告白を断れるのか俺?
 よく考えたら告白されるの初めてだから答え方がわからない。更に断るとなれば尚更だ。
「そんな顔しないでよ。ちょっと落ち着こう。あ、君のことはホントに可愛いと思ってる。でもそれだけじゃ付き合えないよ。とりあえず名前とか色々教えてよ。俺のことも教えるからさ。」
 ひとまず断り方を考える時間を確保した。それからお互いに自己紹介をしていろんなことを話した。一生懸命自分を知ってもらおうと話す彼女に次第に惹かれていくのが自分でもわかった。いつの間にか俺の中で断るという選択肢は何処かへ行ってしまい、普通に楽しい空の旅となった。
「どうですか?私のこと好きになりましたか?」
 耳元で囁かれ、体温が上昇を始める。今まで達したことのない心拍数に息苦しさを覚えた。ドキドキしている。それが全てだろう。
 まだ彼女の気持ちにちゃんと答えていない俺にその権利はないのだが、彼女に触れてみたいという気持ちが止まらなくなっていた。二十歳過ぎても彼女のできたことのない男子なんて煩悩の塊みたいなものだ。それを我慢できるならそいつは坊さんになるべきだろう。
 膝の上に置かれた手をそっと握る。と同時に俺は驚いた。
「触っちゃダメだよ…余裕がないのばれちゃうじゃん。」
 彼女の両手が俺の右手を優しく包み込む。その手は少し冷たく、そして少しだけ震えていた。
 年下だとか年上だとか御託を並べていた自分が恥ずかしく思えた。皆、真剣なんだ。それを教えてくれた彼女に心の中でお礼を言い、俺は覚悟を決めた。
「俺も君が好きだ。これからよろしく。」
 耳元で囁くと、彼女は俺の腕に抱きつき顔をうずめた。小刻みに震える肩を見ていると優しい気持ちが溢れてくる。
 彼女の頭をそっと撫でる。恐る恐る伸ばしたぎこちない手の動きに彼女は何を思うだろうか。こんなことやったことないから全くやり方がわからない。それでも、何かしてあげたかったんだ。


 翌週。
「誠司、俺彼女できたわ。」
「そりゃまた急な話だな。俺はお前の助言通り例の子はお断りしたからまだ彼女いないんですけどね。で、どんな子なんだ?」
「女子高生だ!」
「は?」
「誠司、開いた口が塞がらないっていうのはなぁ今のお前の状態の事だぞ。」
 俺はどや顔で教えてやった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...