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case 9
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中学2年になった大石学には最近気になる人ができた。
今まで誰かを好きになったことはないためこれが恋なのかは自分でもわかっていない。
クラス替えで同じクラスになることを祈っていたのだが、どうやら神様は明後日の方を見ていたようでその願いが叶うことはなかった。
それどころか新学期最初のお隣さんは彼が最も苦手とする元気で明るい活発な女子であった。名前は倉科美穂。初日からあれこれと質問されて学校が終わる頃にはクタクタに疲れていた。
人と話すのが苦手な彼はいつも本を読んでいる。それは話しかけられないためのバリアだったのだが、彼女には効果がないようだった。
新学期が始まり一週間が経とうとしていた。
「ねぇ。ねぇってば!」
どうやらまた声をかけられているようだ。めんどくさいのでしばらく無視していたがどうにも諦めてくれない。朝からずっとこの調子だ。
「もしもーし。おーい。聞こえてますかー。そこの本読んでる君だよー。君。大石くーん。」
わざと大きなため息をつき視線だけを彼女に向ける。
「うっわー愛想ないなー。もっと笑った方がいいよ!ほら、笑ってごらん。」
余計なお世話だよ。もうほっといてくんないかなぁ。
「で、なんか用?」
「え?用がないと話しかけちゃダメなの?」
なんだコイツ。
「いや、俺人としゃべると疲れるから話したいなら誰か他の人にしてよ」
「えーやだよー。誰と喋るかは私の勝手じゃーん。」
それはこっちも同じなんですけどねぇ…
それでも毎日話しかけられていると、いつの間にか普通に話すようになっていた。慣れとは恐ろしいものだ。
半年が過ぎた頃、自分の中の変化に気づく。
それは授業中の出来事だ。
昨日は夜更かしをしたのか倉科さんは居眠りを始めた。
それを見ていると無性にイタズラをしたくなったのだ。
消ゴムをちぎり彼女の顔に投げる。倉科さんは消ゴムが当たったところを手でこすり、むにゃむにゃとまだ夢の中だ。次は机の上にちぎった消ゴムを乗せ、デコピンのように指で弾き出す。今度は痛かったのか倉科さんはビックリしてバッと起き上がる。それが面白くて笑いを必死に堪えようとするが変な声が漏れてしまう。笑いを堪えるのに必死で目の前まで近づいていた先生の存在に気づいたのは声をかけられたあとだった。
「大石、何か面白いことでもあったのか?」
血の気が引いた。
「すみません。ちょっと思い出し笑いが抑えられなくて。」
顔から火が出るとはこのことか。
「廊下で頭を冷やしなさい。」
1発レッドカードだった。
隣を見ると倉科さんが笑いを堪えていた。コイツめ…
「倉科。顔に跡ついてるぞ。お前も廊下に立ってろ。」
瞬間、倉科さんの顔が真っ赤に染まる。
このあと廊下で声を潜め話していると再び注意を受けてしまい放課後に掃除までやらされる羽目になってしまった。
俺はいつの間にこんなにおしゃべりになってしまったのか。その答えはわからない。それでも何故おしゃべりになったのかはもうわかっていた。
彼女との会話が楽しくて仕方ないのだ。
放課後の委員会活動で俺は気になっていた谷本沙耶さんと話す機会があった。
彼女は確かに可愛らしい。だが、驚くことにそれ以外は何も思わなかった。
俺が好きなのはどうやら彼女ではなかったようだ。それがわかると無性にアイツと話したくなった。だけどこの時間ではもう彼女は帰宅してしまっているだろう。
モヤモヤした気持ちで下駄箱へ向かう。
明日まで待てない。今話したいのに。なんなんだよもう!
ざらついた気持ちが心の奥に渦巻く。
「ちょっとお兄さん、顔が恐いよ?」
振り返ると倉科さんがいた。
「え?なんでいるの?」
驚きすぎてものすごくアホ面だったと思う。
「教科書忘れちゃってさ。ほら、今日宿題出たじゃない?あ、折角だから一緒に帰ろうよ。手、繋いであげようか?」
相変わらずの彼女の言動がモヤモヤした気持ちを払いのける。
少し低い声が、クリッと丸い大きな目が、不敵な笑みが、元気な倉科さんが、俺は好きなんだ。
意地悪そうな笑みを浮かべる彼女にゆっくりと歩み寄る。
手を握ると彼女はちょっと驚いていた。
「今日はまたえらく積極的だね。なんなら私のこと美穂って呼んでみる?」
「まだそれは遠慮しとく。」
彼女を視界に捉えた瞬間に決意は固まっていた。俺は今日彼女に思いを伝える。
「まだ…か…」
ボソリと呟いたそれは俺の耳には届かなかった。
再び彼女は笑顔を浮かべる。それは今までに見たことのない柔らかな微笑みだった。
沈み始めた夕陽の温かなオレンジで街が輝く。凪いだ夕暮れに繋がる2つの影が伸びていた。
「おはよう、美穂…ちゃん。」
「別に呼び捨てでもいいのに。おはよう、学くん。」
不敵に笑う彼女。呼ばれた名前に思わずニヤケそうになる。
次の日。
俺たちは二人だけの時はお互いを名前で呼ぶことにした。つまり、そういうことだ。
今まで誰かを好きになったことはないためこれが恋なのかは自分でもわかっていない。
クラス替えで同じクラスになることを祈っていたのだが、どうやら神様は明後日の方を見ていたようでその願いが叶うことはなかった。
それどころか新学期最初のお隣さんは彼が最も苦手とする元気で明るい活発な女子であった。名前は倉科美穂。初日からあれこれと質問されて学校が終わる頃にはクタクタに疲れていた。
人と話すのが苦手な彼はいつも本を読んでいる。それは話しかけられないためのバリアだったのだが、彼女には効果がないようだった。
新学期が始まり一週間が経とうとしていた。
「ねぇ。ねぇってば!」
どうやらまた声をかけられているようだ。めんどくさいのでしばらく無視していたがどうにも諦めてくれない。朝からずっとこの調子だ。
「もしもーし。おーい。聞こえてますかー。そこの本読んでる君だよー。君。大石くーん。」
わざと大きなため息をつき視線だけを彼女に向ける。
「うっわー愛想ないなー。もっと笑った方がいいよ!ほら、笑ってごらん。」
余計なお世話だよ。もうほっといてくんないかなぁ。
「で、なんか用?」
「え?用がないと話しかけちゃダメなの?」
なんだコイツ。
「いや、俺人としゃべると疲れるから話したいなら誰か他の人にしてよ」
「えーやだよー。誰と喋るかは私の勝手じゃーん。」
それはこっちも同じなんですけどねぇ…
それでも毎日話しかけられていると、いつの間にか普通に話すようになっていた。慣れとは恐ろしいものだ。
半年が過ぎた頃、自分の中の変化に気づく。
それは授業中の出来事だ。
昨日は夜更かしをしたのか倉科さんは居眠りを始めた。
それを見ていると無性にイタズラをしたくなったのだ。
消ゴムをちぎり彼女の顔に投げる。倉科さんは消ゴムが当たったところを手でこすり、むにゃむにゃとまだ夢の中だ。次は机の上にちぎった消ゴムを乗せ、デコピンのように指で弾き出す。今度は痛かったのか倉科さんはビックリしてバッと起き上がる。それが面白くて笑いを必死に堪えようとするが変な声が漏れてしまう。笑いを堪えるのに必死で目の前まで近づいていた先生の存在に気づいたのは声をかけられたあとだった。
「大石、何か面白いことでもあったのか?」
血の気が引いた。
「すみません。ちょっと思い出し笑いが抑えられなくて。」
顔から火が出るとはこのことか。
「廊下で頭を冷やしなさい。」
1発レッドカードだった。
隣を見ると倉科さんが笑いを堪えていた。コイツめ…
「倉科。顔に跡ついてるぞ。お前も廊下に立ってろ。」
瞬間、倉科さんの顔が真っ赤に染まる。
このあと廊下で声を潜め話していると再び注意を受けてしまい放課後に掃除までやらされる羽目になってしまった。
俺はいつの間にこんなにおしゃべりになってしまったのか。その答えはわからない。それでも何故おしゃべりになったのかはもうわかっていた。
彼女との会話が楽しくて仕方ないのだ。
放課後の委員会活動で俺は気になっていた谷本沙耶さんと話す機会があった。
彼女は確かに可愛らしい。だが、驚くことにそれ以外は何も思わなかった。
俺が好きなのはどうやら彼女ではなかったようだ。それがわかると無性にアイツと話したくなった。だけどこの時間ではもう彼女は帰宅してしまっているだろう。
モヤモヤした気持ちで下駄箱へ向かう。
明日まで待てない。今話したいのに。なんなんだよもう!
ざらついた気持ちが心の奥に渦巻く。
「ちょっとお兄さん、顔が恐いよ?」
振り返ると倉科さんがいた。
「え?なんでいるの?」
驚きすぎてものすごくアホ面だったと思う。
「教科書忘れちゃってさ。ほら、今日宿題出たじゃない?あ、折角だから一緒に帰ろうよ。手、繋いであげようか?」
相変わらずの彼女の言動がモヤモヤした気持ちを払いのける。
少し低い声が、クリッと丸い大きな目が、不敵な笑みが、元気な倉科さんが、俺は好きなんだ。
意地悪そうな笑みを浮かべる彼女にゆっくりと歩み寄る。
手を握ると彼女はちょっと驚いていた。
「今日はまたえらく積極的だね。なんなら私のこと美穂って呼んでみる?」
「まだそれは遠慮しとく。」
彼女を視界に捉えた瞬間に決意は固まっていた。俺は今日彼女に思いを伝える。
「まだ…か…」
ボソリと呟いたそれは俺の耳には届かなかった。
再び彼女は笑顔を浮かべる。それは今までに見たことのない柔らかな微笑みだった。
沈み始めた夕陽の温かなオレンジで街が輝く。凪いだ夕暮れに繋がる2つの影が伸びていた。
「おはよう、美穂…ちゃん。」
「別に呼び捨てでもいいのに。おはよう、学くん。」
不敵に笑う彼女。呼ばれた名前に思わずニヤケそうになる。
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俺たちは二人だけの時はお互いを名前で呼ぶことにした。つまり、そういうことだ。
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