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ある春の話
しおりを挟む学校前の急な坂。同級生のみんなは登校坂と呼んでいた。その登校坂に並ぶ沢山の桜が力一杯咲き誇るところを僕は入学するときには見ることが出来なかった。部活のために坂を登っているときに見つけたのは、ゆらゆらと風に揺らされながら優雅に咲いた桜だった。彼女は文化部で春休み学校に来る事はほとんどない。だからきっと見ていないだろう。この美しい光景を君に見せたい。そう、思った。
春に出会った君に、僕は恋をした。今は随分と親しく、互いに気持ちを知っているような状況。それでも僕が告白出来ないのは、彼女との関係が壊れてしまうのが怖いからか、よくわからない。授業中ふと視線を感じて顔を上げると、照れたような彼女の笑顔が見える。そんな温かくてどこかもどかしい、頭の内から溶かされていくようなそんな気持ちにもうなれなくなるんじゃないかと胸が締め付けられて何度も僕は躊躇ってきた。でも今だったら、この花吹雪の中だったら、そんな不安も一緒に持って行ってくれるだろうか。桜の花びらをひとつ捕まえて彼女の家へと向かった。
インターホンを押してすぐに出てきてくれた彼女は驚いた顔をしていた。そのことに僕は苦笑し、一緒に桜を見に行こうと誘うと、彼女は待っててと言い残し、家の中に引っ込んでしまった。
しばらくして出て来た彼女に驚かされる。今までも何度か学校外で遊ぶ事はあった。二人だけだったことが無いわけでもないし、彼女の私服は見慣れていると思っていたがまだまだのようだ。手を差し出すと遠慮がちに重ねてくれた。
学校前ということで他の人に見られるかもという不安がなかった訳ではない。僕らは今まで揶揄われることが何度かあったが、その度に彼女は愚痴をこぼしていた。だから彼女が嫌がるかもしれないと思っていたが、案外素直について来てくれた。
坂の下についた時、彼女は零れ落ちてしまうのではないかと心配する程に目を見開いていた。よかった、気に入ってくれたみたいだ。花が綻ぶ様に笑う彼女を見て、思わず口が滑った。
「好きだ」
僕の突然の告白に彼女は勢いよく振り返った。本当はもっと格好良く言おうと思っていたのに。恥ずかしくなり、繋いだままの手に力が籠る。目線を上げると彼女は驚いた様に目を見開いたまま固まっていた。彼女の透き通るように白い肌は紅梅色に染まっていて、その瞳は太陽の光を反射してきらきらと輝いている。彼女の瞳に真っ直ぐ見つめられて僕がこの想いを止められるわけがなかった。仕切り直すなんて考えは何処かへ吹き飛んでしまった。
「好きだよ。君のことが何よりも好きだ。恋は熱しやすく冷めやすい。まるで桜みたいにすぐ終わってしまうものだなんて言うけど、僕はこの想いをそんなものにしたくない。僕のそばにいてほしい」
静かに彼女の返事を待っていると、何を言われたかやっと理解したのだろう。彼女はまるで、ボンっと音が聞こえて来そうな勢いで赤くなった。自らを落ち着かせようとしたのか彼女は深く呼吸をして僕の目をまっすぐに見た。
「私もだよ。私も君と居たい。重いなんて思われるかもしれないけど、出来れば一生。君の隣で生きていきたい。」
そういって微笑む彼女の手を握り直した。今度はしっかりと指を絡めて。そしてゆっくりと二人で歩き出した。
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