悪役令嬢、仕立て上げたのは僕。

アクエリア

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 朝目覚めると、腕の中にマリアはいなかった。急いで起き上がり、外へ飛び出す。そこには、ググッと背中を伸ばしているマリアの姿があった。

「マリア……あんまり驚かせないで……。」

 何処かへ連れ去られてしまったのかと思ってものすごく慌てた。ギュッとマリアを後ろから抱きしめると、呆れたような声が返ってきた。

「ユアンは全く心配性ね、昔から変わらないわ。」

 いつもと変わらぬ声に安心して、グリグリと頭を擦り付ける。昨日よりも少し元気になっているようでよかった。まだすぐに立ち直れやしないだろうけれど……。

「わかっているなら心配させるようなこと、しないでよ……。」

 僕がボソリとつぶやくと、マリアは腕の中でクルッと向きを変えた。そして、マリアは僕の頭をヨシヨシと頭を撫でる。

「そう簡単にいなくならないわ。それにユアンが守ってくれるらしいんですもの。」

 僕が昨日言ったことを覚えてくれていたみたいだ。でも、からかうように言われたのが気に食わない。ムーっとはぶてるように頬を膨らませると、マリアに笑われた。

「ユアン、そろそろ出発しましょう?お腹が空いたわ。」

「あ、ごめん。気が回らなかった。とりあえず、携帯食食べる?」

「それって美味しいの?」

マリアは公爵令嬢だから、携帯食なんて口にしたことはない。僕も出来るだけ、マリアにこういうものは食べさせたく無かったんだけど…。

「まあまあ、かな。このままだとパサパサしてるから、ちょっとアレンジでもしてみようか。」

「ユアンは料理も得意だものね。期待しているわ。」

 マリアに褒められてちょっと照れながらも、野外の調理セットを借りに行く。僕がいない間に誰かにマリアが襲われても困るからきちんと鍵をかけて。

 マリアは部屋に篭りきりなのは好きじゃない。だから早く僕が用意した家に連れて行ってあげたい。守衛に声をかけると、快く調理セットを貸し出してくれた。

 傭兵とかも停留所で一泊することは多い。だから、守衛たちは簡易的なサバイバル用品を揃えていてくれる。火を焚いて調理の準備をし始めると、後ろでガチャリと扉の開く音がした。

「マリア!出てきたらだめだよ。」

「どうして?」

「ドレスに火が移ってしまうだろう?」

嘘。ただ周りの奴らの目にマリアを写したくないだけだ。

「街に着いたらもっと動きやすい服を買おう。そしたらマリアも一緒に歩けるよ。」

「……わかったわ。今は我慢する。でも、約束よ?」

「ああ、もちろん。約束するよ。」

 そう言って僕は小指を差し出す。マリアもフワリと笑って小指を絡めてくれた。

「指切りげんまん嘘付いたら針千本飲ーます、指切った!」

「ユアンは本当に約束が好きね。わざわざこんなことしなくたって約束破らないのに。」

「知ってるよ、マリアが真面目な人だって。でも癖なんだよね~」

へにゃりと笑って僕は扉を閉める。

……だってこんなことでもしないと君を縛り付けておけないだろう?目を離すとすぐに何処かへ行ってしまうから。

 せっかくマリアと2人で暮らせる環境を作ったって、マリアはきっとすぐに外に出て行ってしまう。殿下のことも自分の力に変えて。

 重い気分を吐き出して、料理を続ける。できたものをマリアに食べさせると、美味しいと喜んでくれた。

 街まで今日中につかないと予定通りには進まなくなってしまう。既に僕は商売を始めていたから、定期的にまとまった金額は入ってくるし、お金の心配はないけれど。問題は街の人間たちだ。

 マリアはこの国で1番と言っていいほどに美しい。アステカの姫君、リンとは比べ物にならないくらいには。

 だから、マリアを捨ててリンを選んだ王太子には本当に腹が立つ。本当に選ばれてしまってもそれはそれで困ってしまうのだけれど。

 まあ、それよりも街の人の視線をマリアは掻っ攫っていくだろうし、下品な輩を寄せ付けないとも限らない。一応護衛は後ろから付いてきてはいるけれど、僕1人では警戒を続けるのは難しい。






 御者席の後ろにある窓から、チラリと中の様子を伺い見ると、マリアは暗い顔で何かに耐えるように唇を噛んでいた。

 マリアの小さな唇が傷ついてしまうのは惜しいけれど、マリアはどんな表情をしていても美しい。ただ、あんな表情にさせたのが、僕じゃないことにひどい苛立ちを感じる。

 自分が仕向けたことなのに、僕が望んだことなのに。こうなるとわかっていても、マリアを手元に置くことだけは諦めきれないなんて、本当の馬鹿はマリアじゃなくて僕だな。

 自らを嘲るように笑みを浮かべる。

 結婚なんてできなくても、幼馴染でも、金づるでもなんでもいいから君のそばにいたい。

 僕がマリアの幸せな世界を作るから、だからずっと僕と一緒にいてね?
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