火轍、吼える  特別編 ~夢~

火隆丸

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 島は夜の闇に染まっている。

 私はポケットからスマホを取り出し、SNSを開く。そして、

『仕事が苦しいです。上司の濱井ってやつが嫌いです。もう死にたいです』

 と、メッセージを打ち込む。これでまた一つ証拠ができた。このスマホを調べれば、私が死んだ原因が仕事にあるという事実を証明できる。これで濱井も会社も、私を苦しめたことを一生後悔し続けることになる。いいざまだ。

 死んで奴らに復讐してやる!

 すると突然、私の頭の上から声がした。

「じゃあ、楽にしてあげる」

 若い女の声だった。
 私はあたりを見まわす。まずい、島に残っていたのがばれたか。

 だが、林の中には誰もいない。波と風の音が聞こえるだけだ。
 今のは、何だったんだろう。でも、まあ気のせいだろう。考えるだけ無駄だ。
 私はそっとSNSアプリを閉じる。
 ホーム画面に表示されている時刻は、午後七時。
 そっとあたりを見まわしながら、林を出る。私の体は汗でいっぱいだったが、構わず歩き出す。

 林を出ると石畳でおおわれた坂道に出る。ここは島の中でも名高い撮影スポットらしい。映画のロケにも使われるそうだ。だが、今の私にはどうでもいいことだ。足音をたてないように坂を下り、ゆっくりと港に向かう。人がいないかを確認するために。

 案内板の陰からそっと港をうかがう。港には誰もいなかった。今日最後の船は、とうに出てしまったのだ。あたりはじっと静まり返っている。昼間の賑わいが噓のようだ。

 私は周囲を見まわしながら、港に出る。

『フェリー乗り場』
『チケット販売所』
『ようこそ真白島へ』

 いくつもの文字が私の目に入ってくる。だが、人のいない島では何もかもが遠い世界の言葉のように、意味のないもののようだった。

『最終便に乗り遅れた方は、こちらのボタンを押してください。特別便にてお迎えに上がります。(ただし別途料金を請求させていただきます)』

 ふと、一つの看板が私の目の前に現れた。「最終便に乗り遅れた方」という文字は、私を呼んでいるかのように、闇にくっきりと浮かんで見えた。

 しかし、私にボタンを押すという選択はなかった。

 私はこれから死ぬのだ。死んで、あいつらと世間に思い知らせてやるんだから。

 それに、ボタンを押してフェリーを呼んだ場合、後で特別料金として高い金を請求されるのだ。噂では四十万円以上かかるらしい。社会人になったばかりの私に、そんなお金なんてない。たとえ、両親が払ってくれたとしても、私は「真白島で最終便に乗り遅れて高い金を無駄に使わせたバカ」という汚名を背負いながら生きることになる。そんなのは、絶対に嫌だ。

 人がいないことは確認できた。私は踵を返し、島の内側へ向かう。
 死ぬ方法は決まっている。リュックサックの中にロープがある。林の中で首をくくれば、あとは冷たくなった私の死体が残る。
 リュックサックの中には、濱井や会社への恨みがこもった手紙が入っている。世間に教えてやるんだ。濱井たちが私に何をしたかを。私の恨みがどれだけ深く、強いものかを。

 私は林に向かって歩き出す。
 すでに日は落ち、夜の闇が林の中を覆いつくしていた。私はスマホのライトをたよりに林の中に入っていった。

 林の中は暗く、不気味だった。でも、ここで引き返すことはできない。私は覚悟を決めたのだ。やるしかない。私の恨みが本物だということを知らしめてやる。
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