無実の罪で投獄されました。が、そこで王子に見初められました。

百谷シカ

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3 溺愛はじまり

「んまあっ!」

「ええっ?」

「んんんんっ?」


 宮廷内でも殿下は私を抱っこして歩いた。
 そして、喜ばしくはない意味で注目を集めたあとで、逐一、驚かれた。

 
「ファ、ファファファニタ!?」


 私は母に似ている。
 瓜二つだと、父のお墨付きを得ている。

 哀しみにくれた父が、旅にかまけるくらいには、かなり。


「なに。驚く事はない。ファニタが結婚を機に宮廷を去ったのは周知の沙汰だろう。素直に喜んだらどうだ。娘のシエラだ」

「んまああああっ!」

「シエラ!!」

「ちょっと! そっくりじゃないか!!」

「ちょっとじゃない! がっつりそっくりだ!!」


 わぁーーーーーーーーッ!

 という具合に、歓喜に沸く煌びやかな宮廷を、私は抱っこされて進む。


「……」

「殿下! シエラの様子が! きっと疲労困憊したせいだ! 早く!!」


 御付きの青年は側近らしくて、私の顔を覗き込んで殿下を急かした。

 
「うむ。シエラ、もう少し我慢しろ」

「……」


 殿下が早足になったので、凄いスピードで運ばれていく、私。
 

「シエラ!」


 まだ名前のわからない側近の青年が、手を握って励ましてくれる。

 私は疲労と困惑と羞恥で、無になっていた。
 励まされると少し嬉しかった。

 やがて美しい部屋に運ばれて、豪奢なふかふかの長椅子に下ろされた。


「まずは風呂かパンか選べ。ん? どっちだ?」

「……」


 聳え立つ強面の殿下を見あげる。


「殿下! シエラは疲れているんです。もっと優しく」

「ふむ」


 側近の青年に促されて、殿下は私の前にしゃがみ、目線を合わせた。
 そしてぐっと寄ってきた。

 
「空腹と疲労、どちらを片付けたい? 言いなさい」

「……」


 顔が恐い。
 厳めしい顔だわ。

 だけど、優しい目。


「……お風呂に、入りたいです」

「ミルク風呂を! すぐに!!」

「!」


 殿下が大声を出したので、私は軽く気を失いかけた。
 
 安堵と困惑でぼぉーっとしていたら、宮廷の侍女らしき女性の集団が甕やタオルを抱えてなだれこんできて、殿下を追い出した。


「ああ、シエラ。いったいなにがあったの? かわいそうに」

「……?」


 母が生きていたとしたら、現在の母より少し年上に見える侍女のひとりが、私の髪や頬を撫でて、服を脱がせた。優しく丁寧な手つきに安心して、急激に眠くなる。


「ああ……ファニタ。あなたのお嬢さんは絶対に私たちが守りぬくわ。だから安心してね」

「……」

「本当に忌々しいサルバドール! 次に会ったらひっかいてやる!」

「……」

「さあシエラ、立てる。ミルク風呂よ」

「……」


 どなたかわからないけれど、たぶん母の友人の御婦人。
 ごめんなさい。寝そ────
 
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