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しおりを挟む多少のすれ違いはあるものの、僕らは順調に時を重ねていた。
宮代はなるべく早く落ち着けると言った通り、人員補充と手続きを着々とこなして、現在は早朝出勤に切り替わっている。二人分、乃至三人分の仕事量をこなさなければいけなかった一ヶ月半ほどは、合鍵が僕たちを繋いでいた。
顔を見て、抱きしめて、キスをする。
それだけでまた次の日が始まる。
あまり言葉はかけなかったし、生活の中で余計な手出しも控えた。僕はあくまで、宮代の状況を受け止めて傍にいた。
初夏、朝晩はからりと冴えた風が吹く季節がやってきた。
「寒いな」
都会から来たばかりの宮代は、一日の寒暖差に少し弱気だ。
宮代が六時に出勤するのに合わせて、泊った日の朝は一緒に五時起きだ。店によっては四時とか三時から朝の仕込みをするらしいが、宮代の店はその分を前日の夜に仕込んでいるため、交代制で調節できているという。
「アスパラとチーズを巻いた新作が、叔母さんが来るまでに売り切れる」
「え?」
キッチンで立ったまま軽い朝食をとりながらする朝の会話が、結構好きだ。宮代はホットコーヒー、僕は天然水。果物かビスケットなど、おやつ程度のものをつまむ。
「三日たったら言おうと思ってた」
「ホウレン草とひじきの食パンも三日たってから言った」
「初日に言うと味見させるみたいで」
「ええと、美味しい自信があるから売るんだよね?」
ちょうど一口含んだところで、宮代が軽く頷く。
「じゃあ前日までに言って」
「次からそうするよ」
なにやらくすくすと笑っている。
「どうしよう。朝一で電話予約して、叔母さんに渡してもらえばいい? でも一人がやったらみんなやるようになって大変だよね」
「予約は食パン一斤以上から」
「一斤か……」
それは多い。サンドイッチを次作しないといけないのは、キツい。なんならトーストしてバターを塗るのも億劫だ。
「俺が買って、昼の分とは別に持って帰るよ」
「そういうのいいの?」
「紫恩は特別だから」
「そう」
葡萄の皮を口の中で割って、舌で種を選り分ける。宮代がカップをシンクに移し、僕の頬に触れた。
「また言わされた」
そして唇を啄まれた。僕は口の中に種があるから、唇は硬く結んだままだ。
「転がされてる」
また、角度を変えて、外側からのキス。
宮代が嬉しそうに微笑んで支度を始める。僕は葡萄の種を宮代の置いたカップの中に吐き出して、頬杖をついてそれを眺めていた。
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