月下のもと、彼岸の金魚

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新たな生活

第二十四話:傷

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第二十四話:傷

 八宵の中華屋での初出勤が終わって一緒に帰って来た月乃と八宵は、自宅のドアを開ける。月乃は部屋に入るとすぐに、八宵の首筋にできた傷を確認しようと八宵の首筋に触れようとする。しかし、それを察知した八宵はすぐさま月乃の手を躱す。
「僕、汗かいちゃったからシャワー浴びてくる」
 やっぱり怪我してる事バレてるよね、と少し焦りながら八宵はバタバタと浴室に向かった。月乃の手は行き場をなくし宙を掴んでいた。
 浴室に入ると、八宵はシャワーを全開にして頭から浴びる。シャワーを浴びながらしばらく鏡をボーッと見ていると、絆創膏がお湯で少しふやけてしまった。八宵は絆創膏をベリっと剥がすと夕刻にベゼルにつけられた傷口にシャワーヘッドを当てて洗い流す。
「こんな傷……早く消えろ……早く消えろ……」
 八宵は、眉をしかめ何度もそう呟きながら傷口を手で擦った。
 しばらくしてから浴室から出ると、ため息をつきながらバスタオルで全身を拭く。新しい絆創膏すぐ貼らなきゃなと考えていると、脱衣所とリビングを隔てるドアが突然に開いた。
 月乃が怪訝そうに脱衣所に現れると、八宵はバスタオルですぐさま首筋を隠した。
「もうっ……いきなり……入ってこないでよ、月乃……」
 月乃は八宵と目を合わせようとするが、八宵は頑なにそっぽを向いている。
 月乃はいつもよりも低い声で
「お前、怪我してるだろ。朝はなんともなかったんだから、その傷どうしたんだよ」
 と八宵に聞くが、八宵は俯いて何も話そうとしない。
「八宵……ちょっと、こっちちゃんと見て……」
 月乃は八宵に近づくが、はっとしてよくよく八宵を見ると八宵の身体は震えていた。その様子に何があったか大体の事を察知した月乃は優しく八宵の手を引く。
「とりあえず、こっち来て……」
 八宵は簡単な下着を着ると、二人はリビングに移動し、月乃はソファに八宵を座らせた。
「だから、お前を一人にさせるの不安だったんだけど……」
 月乃は八宵の首筋に優しく触れる。傷を触れられ、びくっとする八宵であったが、優しく触れてくれるため唐突に泣き出しそうになってしまった。
「月乃っ……」
 八宵は月乃の胸元に顔をうずめた。月乃は八宵の事を抱きしめる。少しして、月乃はおもむろに
「傷……もっとよく見せて……。俺、治癒術ちょっとは使えるから……」
 と八宵の首筋の傷を見つめている。月乃は自身の舌を八宵の首筋に当てると傷を中心に舐めだした。
「あ……」
 と声を上げる八宵に対して月乃は
「じっとしてて」
 と何度も舌を当てる。八宵は月乃に、ただされるがままになってしまった。

 八宵の傷の治癒を終え、傷口に絆創膏を貼ると、月乃は八宵に
「お前、明日もバイトだよな?」
 と問う。静かに頷く八宵だが、月乃は鋭い目つきで
「例えばさ……俺がお前のこと、明日動けなくなるまで抱き潰したら、お前は明日バイトに行かないのかな……?」
 と静かに八宵に詰め寄る。八宵は
「だ……駄々だよっ!!絶対駄目!!」
 と強く反発する。暫く張り詰めた空気感の中で見つめ合っている二人であったが、月乃が目を逸らすと
「……冗談だよ……お前に無理させるわけないだろ……」
 と八宵から離れて行く。八宵は月乃の後ろ姿を寂しそうに見つめていると、月乃はぽつりと
「今夜はお前に何もしないから安心して。その代わりずっと側にいるから……」
 と後ろ姿のまま八宵に呟く。
 その後早めに夕食をとり、二人は寝室に向かった。
 ベッドの上で月乃は八宵の事を優しく抱きしめている。ふと、月乃は
「お前がバイトのある日は、なるべく多めに霊力分けてやるから……お前が簡単な護身用の呪術使えるぐらいにはさ……」
 と八宵の頭を撫でる。二人は静かに添い寝をしながら、そのまま朝を迎えるのだった。
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