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月乃愛海と八宵の出会い
第一話:月乃と八宵の出会い
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第一話:月乃と八宵の出会い
ーー身体中の水分が失われている。渇いている。苦しいーー
怪異対策課の月乃は業務の休憩中にふとメインストリートの路地裏に立ち寄った。世襲制でこの春から怪異対策課に配属になった月乃だが、なんの努力や代償もなしに、急に本家から春からの就職先を聞かされた時は目を見張ってしまった。京都府において、所謂幹部の候補生として勤務している月乃だが、自身の持っている才能や実力を鑑みると、とてもではないが自分に務まるとは思えなかった。自分には堅苦しい環境よりもアウトローで自由な環境の方があっているのではないかと。
「一体、俺に何を期待してるんだか…」
そんな事を考えながら、煙草でも吸おうかと路地裏に立ち寄ってみたのだが、大きな公衆ゴミ箱の隣で、ぐったりとした少年の姿を見つける。霊力、霊感の素養のある月乃はその少年を一目見ただけで、彼が人間ではないことに気がついた。その少年は水系の精霊である、意識を集中して少年に向けてみると更に詳しいことが分かるのである。恐らく彼は金魚の幽霊の怪異であり、人間界に生息するにはやや難儀な性質を持っている。
「こんな所に珍しいな…」
特に少年に向けるわけでもなく、ただぽつりと呟いた。すると少年の指がぴくり、と動くか細い声でこちらに話しかけてきたのである。
「お兄さん……あなた…水の霊力…持ってるよね、お願い。分けてくれないかな…」
少年の顔は灰色で唇は目視でわかるぐらい乾いている。確かに今すぐに水の霊力を彼に分け与えなければ、恐らく生死に関わる状況になるのは目に見えて分かっていた。どうして、今、自分が、という思考が頭を巡り来た道を帰ろうかと踵を返そうとしたのだが……。どうしてもその少年が気になるのである。その少年はあまりにも見窄らしい外見をしている。ーー何かを彷彿とさせる。何かを思い出させるようなーー気がついていたら自身の足は少年に向けられていた。月乃は自身の使い魔であり氷の妖精のクリオネを召喚した。これで水分を少年の口に運ぶことが出来る。しかし、その少年はクリオネからの水分放出を拒否したのである。ぺしっとクリオネの手をはたくと少年は
「人間からのがいい…」
と。
「この急いでいる状況で何を馬鹿な…」
呆れて物が言えなくなってしまった。確かに自分は、直接水の構成分子を出現させることが出来る。しかし、それを怪異に分け与えるとなると…。実際、自身と怪異との間に接着面が無いと分け与えられないのである。色々と面倒臭いことが多いのだが…と自身の頭をわしゃわしゃとかく。
「とりあえず分かったから、手首を出せ。そこから供給出来るから…」
自身が休憩中であることと、少年の容態を鑑みると迷っている暇はなかった。少年はすっと自身の腕を出すと、次に月乃が少年の袖を捲り、少年の手首をあらわにさせた。月乃は少年の手首に口をつけた。ぱっと大きな目を見開く少年。
「こうしないと霊力が供給出来ないから…」
「なんか、こそばゆい…」
そうぽつりと呟いたのは少年の方であった。五分もせずに顔色がよくなってくる少年。恐らく自己修復の機能も働いたのであろう。
元気になった少年は自身の膝をぱんぱんっと叩き埃を飛ばしている。
「ありがと、お兄さん……なんかお礼しようか?」
怪異に特別深入りしてしまうのもよくない、と思いきっぱりと断る月乃。そっか、と足早に去ろうとした少年に月乃は声をかけた。
「これ、俺の名刺だから。俺は怪異対策課だけれど、役所にはおまえみたいな怪異を保護してくれる機関もあるから」
そう言えば少年の名前を聞いていなかったな、と思い声をかける。
「お前……名前は?」
少年は口を開く
「八宵(やよい)…金魚の幽霊の怪異…」
そうか、と頷いた。月乃の目にはあまりにも純真無垢な怪異の少年の眼が映っていた。
ーー身体中の水分が失われている。渇いている。苦しいーー
怪異対策課の月乃は業務の休憩中にふとメインストリートの路地裏に立ち寄った。世襲制でこの春から怪異対策課に配属になった月乃だが、なんの努力や代償もなしに、急に本家から春からの就職先を聞かされた時は目を見張ってしまった。京都府において、所謂幹部の候補生として勤務している月乃だが、自身の持っている才能や実力を鑑みると、とてもではないが自分に務まるとは思えなかった。自分には堅苦しい環境よりもアウトローで自由な環境の方があっているのではないかと。
「一体、俺に何を期待してるんだか…」
そんな事を考えながら、煙草でも吸おうかと路地裏に立ち寄ってみたのだが、大きな公衆ゴミ箱の隣で、ぐったりとした少年の姿を見つける。霊力、霊感の素養のある月乃はその少年を一目見ただけで、彼が人間ではないことに気がついた。その少年は水系の精霊である、意識を集中して少年に向けてみると更に詳しいことが分かるのである。恐らく彼は金魚の幽霊の怪異であり、人間界に生息するにはやや難儀な性質を持っている。
「こんな所に珍しいな…」
特に少年に向けるわけでもなく、ただぽつりと呟いた。すると少年の指がぴくり、と動くか細い声でこちらに話しかけてきたのである。
「お兄さん……あなた…水の霊力…持ってるよね、お願い。分けてくれないかな…」
少年の顔は灰色で唇は目視でわかるぐらい乾いている。確かに今すぐに水の霊力を彼に分け与えなければ、恐らく生死に関わる状況になるのは目に見えて分かっていた。どうして、今、自分が、という思考が頭を巡り来た道を帰ろうかと踵を返そうとしたのだが……。どうしてもその少年が気になるのである。その少年はあまりにも見窄らしい外見をしている。ーー何かを彷彿とさせる。何かを思い出させるようなーー気がついていたら自身の足は少年に向けられていた。月乃は自身の使い魔であり氷の妖精のクリオネを召喚した。これで水分を少年の口に運ぶことが出来る。しかし、その少年はクリオネからの水分放出を拒否したのである。ぺしっとクリオネの手をはたくと少年は
「人間からのがいい…」
と。
「この急いでいる状況で何を馬鹿な…」
呆れて物が言えなくなってしまった。確かに自分は、直接水の構成分子を出現させることが出来る。しかし、それを怪異に分け与えるとなると…。実際、自身と怪異との間に接着面が無いと分け与えられないのである。色々と面倒臭いことが多いのだが…と自身の頭をわしゃわしゃとかく。
「とりあえず分かったから、手首を出せ。そこから供給出来るから…」
自身が休憩中であることと、少年の容態を鑑みると迷っている暇はなかった。少年はすっと自身の腕を出すと、次に月乃が少年の袖を捲り、少年の手首をあらわにさせた。月乃は少年の手首に口をつけた。ぱっと大きな目を見開く少年。
「こうしないと霊力が供給出来ないから…」
「なんか、こそばゆい…」
そうぽつりと呟いたのは少年の方であった。五分もせずに顔色がよくなってくる少年。恐らく自己修復の機能も働いたのであろう。
元気になった少年は自身の膝をぱんぱんっと叩き埃を飛ばしている。
「ありがと、お兄さん……なんかお礼しようか?」
怪異に特別深入りしてしまうのもよくない、と思いきっぱりと断る月乃。そっか、と足早に去ろうとした少年に月乃は声をかけた。
「これ、俺の名刺だから。俺は怪異対策課だけれど、役所にはおまえみたいな怪異を保護してくれる機関もあるから」
そう言えば少年の名前を聞いていなかったな、と思い声をかける。
「お前……名前は?」
少年は口を開く
「八宵(やよい)…金魚の幽霊の怪異…」
そうか、と頷いた。月乃の目にはあまりにも純真無垢な怪異の少年の眼が映っていた。
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