月下のもと、彼岸の金魚

yomoginotetyou

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月乃愛海と八宵の出会い

第二話:金魚のおんがえし

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第二話:金魚のおんがえし

ー第一話のあらすじー
 怪異対策課所属の月乃は、いつものように路地裏で休憩を取ろうとすると、そこには金魚の幽霊の怪異の八宵が倒れていた。人間から呼吸を分けて貰いたい八宵は、月乃に頼んで、なんとか空気と水分を供給して貰い、事なきを得た。


 八宵は月乃と出会ったその日の晩、月乃の事をゆっくりと思い返していた。自分は人間からのサポートが得られないと生きられない、そんな生き物である。そして、人間から呼吸を分けて貰うには、自分もまた何かを人間に捧げなければならない。しかし、持ち合わせのない八宵は自分の身そのものを人間に売るしかないのである。その見返りを要求しなかった月乃の事に、最初は単純に興味があった。

「せっかく名刺も貰ったし、会いに行ってみようかな…」
 八宵は何処とも言えない廃屋の片隅で名刺を月夜に浴びせながら、そんなことを呟いていた。月乃から貰った名刺は、無くさぬように手のひらの中でギュッと握っていたため、かなりの皺が寄っていた。

 翌日のお昼を少し過ぎたあたりだった。お礼に何か持って行こうと思い、寝転んでいた身体を起こした。八宵は、お礼に何を持って行って差し出せばいいのかが分からず、とりあえず全財産である所持金の五百円をポケットから取り出した。

「これ、他のと比べて銀色でピカピカしててお気に入りだったけど…」

 五百円玉を指でつまんで太陽に浴びせて見ると、灰色の光沢が見えた。何か買って行こうと思い、八宵は最寄りでパンを買う事にした。いつも自分が買って食べる物とは少し違う、良いものを月乃にあげたいと思ったのである。少しだけ有名なパン屋さんでパンを買うと、名刺に書かれている大体の地図を参考にして歩いて行った。名刺を貰っていたので建物の場所は大体分かったが、建物内をかなり迷ってしまった。困った八宵は周囲の大人に声をかけてみた。

「ねぇ、ここに月乃っていう人いる…?」

 月乃は課の中でも割と知られている存在だったため、同僚らしき人に名刺を見せると「あぁ、あの人ね」みたいなどこかで冷たい反応を見せられた。「月乃は地下に併設されてる部署にいるよ」と言われたので八宵は地下階段に向かって歩いて行った。





「なんだか疲れたな…」

 月乃は今日も午前中の業務を終えると、一人でぽつりと愚痴をこぼしていた。月乃の実家は代々、怪異の使役術や召喚法について独自に研究している家系であった。月乃自身が呪術書や召喚法に詳しいのも家系による所が大きかった。京都府における怪異対策課への就職が決まったのは、家柄の理由が大きかったのである。そのため、月乃は周囲から羨望だけでなく嫉妬の感情も向けられる事が多く、職場においては、なにかと敵が多いのである。

 怪異対策室のドアは開け放たれていた。月乃がふとドアの向こうの方を見ると、先日助けたであろう怪異の少年が背伸びをしながらこちらを伺っていた。

「あいつ…確かあの時の?」

 少し訝しんで眉を細めてよく見ると、やはりあの時会った怪異の少年であった。月乃は八宵の所に向かって行くと、八宵はひらひらと手を振っていた。八宵は口を開くと少し勇気を出して月乃に話しかけていた。

「月乃、会いに来たよ。月乃が困った時は来いって言うから…それにお礼もしたかったし…」

 月乃はあぁ、別にそんな事気にしなくて良いのにな、などとぼんやり思ったが、どうやら八宵はお礼にパンを買って来ているらしい。八宵は
「これ、あげる…」
 と言いパンの入った紙袋を月乃に差し出した。

 他者に対してあまり借りを作りたくない月乃は受け取るのもなんだか…と思ったが、わざわざここまで来てくれたのも悪く思い、仕方なくパンを受け取る事にした。

「まぁ、丁度腹も減ってたし、良かったら一緒に食うか?」
 そう八宵に告げると、八宵はニコっと微笑んだ。

「ありがとう…!じゃあ僕も…一緒に食べる!」
 八宵は笑顔でそう言うと、月乃に促され、併設されている休憩場のような所でベンチに座りに行った。今日の休憩はいつも違う少し特別な時間になりそうだった。

ーおまけー

 八宵の帰り際、八宵は月乃から個包装の小さい菓子袋を貰った。八宵は
「これ何?」
 と聞くと月乃は個包装を見せ
「ん?怪異マングミって言うんだけど、なんか今流行ってるんだろ、やるよ」
 と言い八宵の手のひらに忍ばせた。

 八宵はおもむろに個包装を破くと、小粒のグミと一緒に「R(レア)」という表記の入った、イラストカードがおまけに付いてきた。イラストカードには「顔パンツ怪異おじ(運が良ければコレクションのパンツを貸してくれる怪異だぞ!!)」などと明記され、変態怪異おじさんのイラストが派手に描かれていた…。
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