21 / 121
第一章 呼び覚まされた記憶
4空の国と北の街ポス
しおりを挟む(魔物といい、魔術といい……)
メアリーは属性を聞いたその口でそんなことを考えていた。
カタカタと揺れる馬車。その中で当然のようにアリオストロの態度や説明してくるジャックとの間に何か超えられない隔たりを感じた。
今まで魔術も魔物も知らずに生きてきた。
そのせいもあって、彼らの日常が、とてもじゃないが受け入れられない。
いやそれだけじゃない。
メアリーが鶯鳴の記憶を持っているから、魔術なんて自然に逆らった法則に関して思うところがあるのだ。
科学知識とそれに基づく医学に専念した日々、それによって獲得した医術の数々。
それらが魔術という法則を理解することを拒んでくる。
「属性の話だったよね。いいよ、説明しよう。属性は合わせて四つ。海、焔、風、そして僕が使う地」
そういうとジャックはキセルをくるりと回した。
そしてまたあの深淵のような穴を出現させる。何度見ても慣れない状況だ。メアリーの指先が微かに揺れる。なんというか見られているような気がするのだ。何度目かの唾を飲む。そうすればメアリーは脳が揺れるような感覚に襲われた。
「地の特性は結ぶ。ある地点と地点を結んだり、もしくは結んだ地点を引っ張ったり……あの時見せたものは後者だね」
結ぶ。
簡単に言ってのけるが、メアリーは末恐ろしくてたまらなかった。
アリオストロはその言葉を「凄い」という二文字、音にして三文字で語るが、それで終わっていい意味でないことをメアリーは理解した。
茶化すのも、その凄さに驚くのも、ジャックと言うヒトの底知れなさを考えれば危険であった。
ということなんで、メアリーはにっこりと微笑んで言及をしなかった。
そうでなければ文字通り、深淵を覗くことになるだろうからだ。
ジャックはメアリーが思考に深けている間に穴を閉じつつ、続けた。
「他の属性に関しては流石の僕も把握しきれてないから、説明は難しいけれど……確か海は概念を呑み込む、焔は概念を焼く、風は概念を切り裂く……だったかなぁ」
思わず眉間に皺がよる。
他の属性がそうであれば、地であっても結ぶというのは概念という意味での扱いだろう。そんな危険なものをさらっと過小評価で伝えてきたのだ。やっぱり信用できない。
貴重な情報源。
それもこれからも付き合いがあるだろう相手に向ける感情ではない感想をメアリーは抱えたままあえて触れずに問う。
「なんとなく、本当になんとなく理解できました。ありがとうございます」
「いやいやお礼なんて必要ないよ。メアリーも察してると思うけど僕らの関係は利用するされるの関係だ。気楽に行こう」
気楽。気楽な。
その言葉を口の中に入れるのはなんとなく拒否感があった。
でもなんだかんだと言ってる場合ではない。メアリーはとりあえず薄く笑いつつ「じゃあ、気楽に行かせてもらいます」と思ってもないことを口にした。
「あのさ、ところで聞きたいことがあるんだけど」
ニコニコ、ニコニコ。
絶妙な雰囲気と微笑みの応酬の中、切り裂くようにアリオストロが気まずそうに手を挙げた。
「これ、どこに進んでるんだ?」
その言葉にメアリーは呆れてしまうような顔をしかけた。
しかし、神託のことを言っていないのだから、仕方ないだろう。予想では神託の通り神都ニフタだろう。ジャックも形態は違えど信託を受け取っているのだから言わずとも知っているはずだ。
だが、そんなメアリーの予想を裏切ってジャックはにこやかな笑顔で、
「そりゃあ、北の街ポスさ!」
と言う。
メアリーの思わずというような「は?」という声が響いた。その声に肩をびくつかせたアリオストロを前にジャックは心底楽しそうに「領主殿に対感謝を見たら是非寄るようにって言われててね」と悪びれもなく言ってくる。
なるほど利用され利用する立場。
こういうことだったのか、額に青筋を立てながらメアリーは舌を打った。
最初から神託とか関係なく戴冠者の身柄が欲しかったというわけだ。なんて野郎だ。
「ふふ、驚いてくれたかな」
「わぁーびっくりー」
「え、いや、え?」
戸惑うアリオストロと面倒くさいというように声をあげるメアリーたちにジャックはうんうんと頷いて見せる。
「まだわかってないようだけど最初から利用してきてたから優しかったってことよ」
メアリーがわかりやすいようにアリオストロにそういえば、アリオストロも内容を飲み込めたのか、うげっという顔をした。
ジャックの目が帽子と髪の隙間からチラリと見える。続いて、薄い唇から
「だから仲良くやっていこう、てわけさ」
と先ほど似たような言葉が返された。
人を騙しておいて、ジャックは罪悪感のかけらも感じていないというように平然と話を進めてくる。
「そもそもそういう理由で君たちを保護させてもらったんだけど、流石に悪いって思ってね」
軽々しく言葉を重ねるジャックに噛み付くようにメアリーは「それじゃあ釣り合いが合わない」と言った。
釣り合い。ジャックは既にメアリーたちの了承もなしにことを進めていた。それに加えてメアリーたちを広告のように使う。メアリーはこの一連の流れから、ポーチや今はまだ紙くず以下な金銭ではこちら側が損だと判断したのだ。
多分だがジャックはメアリーがそう言い出さなければ、この事実を有耶無耶にしていただろう。
いや、そもそもの話メアリーが勘違いしたままであればそうなっていた。ひとえにこれはアリオストロの核心めいた質問のおかげ、何も考えていないようでそういうところの運はあるのかもしれない。メアリーはそのことを頭に刻んでから、アリオストロの顔を見た。
アリオストロはというと、メアリーの言葉にいまいちピンっときていない様子だった。
物々交換ではなく、これは情報と物品の交換である。今までの暮らしからアリオストロがそう言ったことに疎いことはなんとなくわかってきたが、早急にこのメンバーに情報戦に特化した仲間が欲しいとメアリーは愚痴を言うように心うちに吐き捨てる。
鶯鳴だったメアリーとしては、役に立たないと役に立つの中間にいる人間が大っ嫌いだった。
今アリオストロはその大っ嫌いな人間の項目をリーチ寸前にしている。
「おっとこれ以上を望むのかい?」
「私たちの情報を売って、加えてポーチや紙幣の広告もさせるんだから、なんか弾みなさいよ」
「おやおや手厳しい。じゃあ、無料で二人の新しい武器と服でも新調してあげよう」
意地の悪い笑みをニヤリと浮かべる。
メアリーは恩着せがましいと思うところで止まっているが、反対にアリオストロは顔を真っ青にさせる。
そうだ。貧困層であり社会的弱者であったアリオストロは無料という言葉の怖さを身を持って知っている。きょどるアリオストロに肘鉄をかまして、メアリーは「どんなものかによる」と言ってのけた。
「次期王候補と戴冠者なんだから、流れ者のような服装好ましくないだろう?」
「そうでもしなきゃ、私たちが戴冠者って思われないからでしょ?」
「うん、そうとも言う」
結局はジャックの都合ではないか。
だがこれ以上強請っても碌なものは出ないだろうし、そして後が怖くなるのでメアリーはここで押し黙った。それを肯定だとみなしたアリオストロも頷けば、ジャックはあの穴を再度出現させてから、ずるりと綺麗な衣を取り出した。
メアリーには美しいキトンとマント。
それから、アリオストロにはキトンに加えインナーのようなものを渡す。
そしてさらにメアリーに杖とアリオストロに背丈にあった剣を渡した。
「これは」
メアリーは思わず顰めっ面になる。
確かに神託をもらったと言われれば神秘的に感じるヒトもいるかもしれない。けれど、メアリーには魔術は使えない。言って仕舞えば役不足。どっちにとってかは敢えて言わないでおこう。
「君には、魔術の才能を感じたからね」
ああ、本当に今日は厄日かもしれない。
だって科学を信じ、医術を行使する鶯鳴にとってはその言葉はちっとも嬉しくなかったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。
主人公は苦悩や葛藤を抱えながら選択を重ねていくタイプの物語です。
また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。
残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる