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第三章 法という名の理不尽
4劣性の民
しおりを挟む「ま、とりあえず。あっちに帰るか…………変なこと吹き込まれても仕方ないし」
メアリーばとりあえずと言うようにローランドにそう言った。
メアリーの確認したいことは終わった。これ以上ローランドと二人でいても特に聞くことも知りたいこともないし、だからそう言って懸念点があるアリオストロの方に行こうとすれば、ローランドが驚いたように目を僅かに開いた。
「他に……ないんですか?」
先ほどとは反対に顔色を悪くさせながらそういうローランドに、メアリーは「なんか重要そうなこと隠してるな」とだけ思った。
聞こうとか、知ろうとかまでは思えない。ローランドが聞いて欲しいと思っていても正直なところ面倒くさそうだから嫌だとメアリーは感じていた。そう言うのは的頃なタイミングでいい感じに言って欲しい。
無茶振りの最上級のような思考を巡らせながら、メアリーはローランドに構うことなくアリオストロとジャックのいる部屋に戻るため翻した。
「言いたい時に言えばいいじゃん」
正直興味ないし、とまでは流石にいわない。
ヒト的な何かが失われていく感じがするからだ。そしてそんなメアリーにローランドは何を思ったか、小さく胸元を握り締めてから唇をかみしめて「はい」と言い、その後ろ姿についていった。
木製の床を音を鳴らしながら歩く。
そして目的の扉の前に立ち、一応軽くノックするように三回ほど叩いた。
「入ってきて平気だよ」
そう答えたのはジャックだった。
メアリーは饒舌しきれない不可解な感情を抱きながらゆっくりと扉を開く。漏れ出る部屋の中の煙に思わず咳き込みながら覗けば、そこには考え込むアリオストロの姿と、いつも通り飄々としているジャックの姿があった。
「座りなよ」
入ってきたメアリーとローランドにジャックは軽くそう促す。
まだ何か話があるのか、薄ら寒さを感じながら遠くの方へと目を向けたメアリーは諦めたようにアリオストロの隣に腰を下ろした。続くように、ローランドも席に座る。その様子を見ながら、ジャックは「どうやら君たちの方も良い話ができたようだ」と明らかにメアリーを煽っているような発言を飛ばしてきた。
何をアリオストロに言ったのか、メアリーは思わず疑いの目でジャックを見据える。
そうすれば彼は不本意だと言うように肩をすくませた。
「ただ彼に親切心で彼の欲しい情報を与えただけだよ」
「親切心?」
生まれて初めて聞きましたと言うように反復したメアリーにジャックは声をあげて笑う。
「メアリーは僕を信頼しなさすぎだね」
「いや商人として信用しても信頼はしない」
「はは、正直でいいね!」
そう言うとジャックはキセルの先端をつまみ、火を消す。
手袋越しだから火傷は気にならなかったが、手袋焼けないのかな、なんて考えていたメアリーにジャックは「このくらいの火なら消せるよ。だって僕、地属性の魔術師だからね」と陽気に答えた。
その言葉に反応したのは意外にもローランドだった、ローランドは落ち着きがないように体を揺らす。
その様子が不思議で思わずメアリーが視線を向ければ、ローランドは困ったように、
「その、私の魔術ととっても相性が悪くって」
と気まずそうに答えた。
メアリーとアリオストロは純粋にローランドが魔術を使えることに驚いた。それこそメアリーがもらった杖のようなものを持っている人が魔術師だと思い込んでいたから、一見して手ぶらに見えるローランドがそうだとは思えなかったのだ。
そんな二人の反応とは相反してジャックは「へぇ」とまるで地鳴りのような重いトーンで「それってもしかして焔の属性かな?」と聞いてくる。一瞬そんなジャックに気圧されたローランドが怯えたように反応したが、次の瞬間慌てたように「風です!!」と答えた。
「風なので、生理的に無理なだけです!」
それって結構ダメなのでは?
アリオストロがそういいかけて、メアリーが制した。メアリーもアリオストロも魔術に関して深く理解しているわけではない。もしかしたら魔術師にとっては当たり前なのかもしれない。
「はは!正直だね。そうか、風かぁ……まぁまだ焔よりもマシかな」
「どう言うこと?ローランド」
「あ、魔術では基本的に地属性と焔属性、海属性と風属性が反発しあって、逆に地属性と海属性、焔属性と風属性は調和するという特徴があるんです……」
「それが性格とか人間関係にも影響があるのかい?」
メアリーの言葉にローランドは気まずそうに「はい」と答えた。
なんと言うか不思議な話だ。だが嘘ではないだろう。そしてきっとローランドはジャックよりも弱い。だから苦手意識を持ちつつ、それなのに怯えているだけなのだろう。
それを観察しながらメアリーは己を納得させる。
タイプ相性みたいなものだろう。なんでその組み合わせなのかは理解し難いが、そう言うものだと理解する方が早い。そこまで考えて、メアリーはジャックへと視線を向ける。
「ジャックさんもローランドに対して生理的な嫌悪感を抱くのか?」
「うーん。そんなことはないかな。焔属性ほどじゃない」
「と言うことは焔属性にはとんでもない嫌悪感を抱くと……」
「間違いではないね。まぁ僕ほどの力を持ったヒトじゃないと……てはつくけどね」
魔術に関しては余程の自信があるんだろう。
全く相手しないようにローランドから視線を外す。それからにこやかに笑って話を続けた。
「さて、そんな話は置いておいて、本題にいこう」
そういうとジャックはキセルをくるりと回した。
その動きには見覚えがあった。あの魔術だ。メアリーとアリオストロが初めて見た魔術。なんでも出し入れできる不思議な黒い穴を出現させるためのもの。
キセルが描いた丸の大きさだけ、例の黒い穴が顔を覗かせた。
それに躊躇いもなく腕を入れて何かを探すようにゴソゴソと動かす。それから「あったあった」と言うように小さくつぶやいてから、A4用紙ほどの大きさの紙をメアリー達の前に出した。
そこには大きく「依頼書」と書かれていた。
銅色プレートからとまで親切に書いてあり、そこには情報収集とそれに応じた報酬が記載されている。
「この依頼を是非とも君たちに頼みたくってね」
場所はハイドロという領地。
依頼主はシモンと書かれ、「殺人鬼コネクターの情報収集」と提示されている。それをメアリー、アリオストロ、ローランドで覗き込んでいればローランドがハッとしたように顔を上げ、メアリーとアリオストロ見た。
「ハイドロは西の街リトスの中間地点にある領地です!旅に支障は出ないかと……」
「よし、受けよう」
「待てこらアリオストロ」
メアリーは何故だかやる気満々のアリオストロを一旦止めた。
何か余計なことを吹き込まれたのだろう。そう思うメアリーの予感は当たっていた。実際アリオストロはスキロスの仇のように簒奪者ウェヌスタの情報を求めていた。
それほど関係が深かったわけではない、家族でも友達でもあったりはしない、名前のつかない関係だったスキロスをどうしてそんなにも追い求めるのか、彼女の生存を信じたいのか、実際アリオストロはその問いに答えられる言葉を持っていない。
好きだったわけでもない。
ライクでもラブでもないし、言い換えるのであれば罪悪感。
そう、罪悪感という感情が一番近かった。
だが一口に罪悪感であるとも言えない。
呑み込めない感情だからこそ、アリオストロは焦っていた。
そんなことを知らないメアリーはアリオストロを制した後、ジャックの方へと視線を向ける。
「それで、何故わざわざあんたから依頼を?」
そして一番の謎に関して言及した。
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