82 / 121
第四章 ハイドロの殺人鬼
6悲しき化け物
しおりを挟む「思うに殺人鬼コネクターはソピア馬車運営を狙っているわけではないと思うんですよ」
そうでなければこの間の襲撃の理由と合わない。
ソピア馬車運営を狙っているのであれば、あそこにいる理由もわからない。わからない。わからないことばかりだ。だが仮定しよう。まず一つ仮定を作ってそれを詰めていけばいい。
殺人鬼コネクターは誰かを憎む復讐者だ。
これを仮定として置く。そうすればソピア馬車運営を殺した理由はソピア馬車運営を憎んでの行いだ。だが、ここにメアリーたちが襲われたという事実がある。ということはソピア馬車運営を憎んでいる訳ではない。ソピア馬車運営への間接的な嫌がらせだとしても、メアリーたちとの繋がりはジャックそれからネフレンだけだ。ジャックに関してはハイドロでの接触はない。そしてネフレンに関してはただソピア馬車運営を利用した利用客にしか見えていないはずだ。
メアリーはそう口に出しながら虱潰しに事実を並べていく。
だからソピア馬車運営を恨んでいるという線は薄い。
ではなんでソピア馬車運営が狙われているのか、快楽殺人にしては目的が定まり過ぎている。そしてここで初めてエアリーたちが襲われた。ここには何か繋がりがあるはずだ。例えば行動、例えばもの、前者に関してはハイドロで行ったのは自警団によっただけ、それ以外なら路地裏に行ってバーに行っただけだ。後者に関しては魔術に関するものを持っている。だがそれだとアリオストロは狙われるはずがない。初撃からアリオストロは狙われていた。
「となると、自警団が関与している気がするんですけどそこらへんどう思いますかシモンさん」
「なんでテメェらが先にバーに来て、ギャビンと楽しく話しているのかはわからねーが、昨日の話忘れたわけじゃねーよな」
薄暗い照明で照らされる室内。
ギャビンがコップを拭く音だけが響く部屋で真剣そうにメアリーは口元で両手を組んで、それからカウンターに肘を乗っけて考察を披露していた。
一旦は話を聞くためにシモンは黙っていたが、メアリーに促されたことで口を開く。
怒りにもにた困惑が混ざった複雑な声色が、メアリーいや、アリオストロに向かっていた。
アリオストロはすぐに自分が座っていた場所から立ち上がる。
それから、下唇を噛み締めて頭を下げた。
その様子にギョッとしたのは頭を下げられたシモンだった。彼はまさか謝れるとは到底思っていなかったからこそ、複雑な表情でアリオストロのつむじを観ることしかできなかった。
だがその困惑もすぐに終わりを迎える。シモンは真剣な目つきに戻り、アリオストロを問いただすように「俺は昨日の意見を曲げる気はないぞ」と言った。メアリーはそれを傍観の目で見る。そして間に入ろうと昨夜したローランドもこの時には黙ってアリオストロの背中を見ていた。
「俺、やっぱりヒトが危険な目に遭うと知ってて無視できません。でも、それは別に正義感とかじゃなくって、なんというか、その、自分のためのことなんです」
「ほう自分のことなぁ」
アリオストロはしどろもどろにそい言いながら、頑張って己の心の中を言語化するために丁重に言葉を選んでいく。
「見捨てたら、自分が悪者になっちゃう気がするんです。知ってて無視したんだろう、って責められるんじゃないかって」
「誰に責められるんだ?」
「それは……わかりません。わからないけれど、咎められる気がするんです」
アリオストロの言葉にメアリーは、気が狂ってるな。
そう思った。普通痛ましい事件があったとき、己でなくて良かったと思うのが普通だろう。それを責められる。助けなかったことを怒られると思っていることが根本的なおかしなところだ。
アリオストロにヒトを助けられる技量はない。余裕だって、力だってない。それなのにそう思うことはとても重症だ。それをメアリーが気がつくのだから、シモンだって気がついているのだろう。そう思いながら、差し出されたオレンジジュースにメアリーは口をつけた。
「俺は、咎められない自分になりたい。許される自分でいたい。だから昨日もそう動いた。そして多分これからもそう動いてしまうと思います」
「それを俺に言ってどうするつもりだ」
シモンがタバコに火をつけた。
それを口元に持っていて煙を吸って吐き出す。
「実力もないのに首を突っ込む自殺願望者なんて願い下げだ」
「それは、それは違います」
「何が違うっていうんだ?」
アリオストロはそこで呼吸を整えるように息を吸って吐く。
「自殺願望者ではありません。もう、他責任にもするつもりはない。メアリーとローランドに頼る前提で考えない」
「考えを改めたって、強くなければ意味はないぞ」
「でも、強さがないならパーティーに要らないとは限りません」
その言葉にシモンが目を見開いた。
そんな指紋に気が付かず、アリオストロは続ける。
「強さが全部じゃない。俺にできないことはメアリーとローランドのどちらかができる。でも俺にできることはメアリーとローランドにはできない。だから俺は俺の、俺のできることを見つけて、それを伸ばす。伸ばして役にたつ」
「その秀でたものが戦闘に使えなくても、同じことが言えるか?」
「戦闘で足を引っ張るのは、苦しいです。でも、できることはあるはず、今までもそうしてきたし、これからだってそうする。ただ、俺はシモンさんに今までみたいに自己犠牲を前提に、他人の力を当てにして動く俺じゃないんだって、聞いて欲しかったんです」
沈黙が広がる。
ギャビンさんも拭いていたコップを置いて、アリオストロの姿を見た。
一方でメアリーはというと、ちょっとだけ感激していた。ヒトの成長とはこんなに早いものなのか、そんなどうでもいいことを思いつつ、メアリーはアリオストロなりに考えてきたことを良いと感じていた。
散々メアリーは王には武力は必要ないと思っていた。
それは今でも変わらない考えで、これからも曲げるつもりはない。だから、アリオストロが導き出した答えはメアリーにとって模範的な回答であった。それがシモンにとってはどう捉えられるかはさておき。
「昨晩のようにどうしても戦闘が避けられなかったらどうする」
「じ、自分の命を優先的に、なんとかします」
「自分よりも才能があるやつを前にして嫉妬心に塗れたらどうする」
「な、仲間に相談してなんとかします」
「お前、全部なんとかします、じゃねぇーか」
シモンはそう言った後、ぐしゃりとアリオストロの頭を乱暴に撫でた。
「依頼の件はこのままにする」
「あら、昨日は取りやめるって言っていたのに、気が早いわね」
「ガキの成長途中でほっぽりだす大人がいるのかよ」
そう言ってシモンはカウンターの定席に座った。
それから横目でメアリーを見て、
「さっきの話の続きだ。お前の考察を聞かせろ」
そう言った。
それにメアリーは一旦タンマの姿勢をとる。それから謝った状態で固まるアリオストロの肩を叩く。それからローランドの髪もついでに撫でて「ここからだぞ」と声をかけた。
また泣きそうになるアリオストロをカウンター席、メアリーとローランドの間に座らせそれからシモンを見る。
それから苦笑いを浮かべて「単なる小娘の想像ですよ」そう口にした。それから静かにあの考察の続きを述べ始めた。それはただの空想。それはただの考察。それだけなのだが、正直なところ想像して苦に思ったからこうしてメアリーはシモンに意見を聞くことにしたのだ。
「コネクターの目的は多分ですが、報復です。自警団の誰かに対する、お前に関わる全てを殺すという宣言の可能性があります」
0
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる