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条件付き格安物件3
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「もともとここは祖父が所有していたマンションです。この骨董品ごと相続で譲り受けました。骨董品は祖父が生前、趣味で集めていて、その一部をここでずっと保管しています。もう十三回忌も終わったので、そろそろ本格的に整理しようと思っていたんです」
短く説明されたが、駅から徒歩三分の好立地マンションを所有しているってどういうことだ。ここにある古美術品も一体どれくらいの価値があるのか、私には想像もつかない。よく見ると、掛け軸や陶器、刀剣や甲冑まである。大きな彫刻などは床や棚に置いてあり、箱のまま置かれているものもある。
「これだけあったら風を通すのも大変ですね」
「そうなんです。だから、これらの骨董品のメンテナンスと整理を手伝ってください。最終的な買い取りなどは専門家に任せますが、そのやり取りもして欲しいです。置いてある家具家電は、好きに使って頂いて構いません。勿論水回りも。実際ご覧になっていかがですか?」
紫外線による劣化をさけて、窓のある部屋にはなにも置いていない。だから、そこを私の居住空間にしていいそうだ。必要最低限な家具家電付き。好条件過ぎる。
「僕の家に一部屋空いている」とはそういう意味だった。決してルームシェアではない。101号室が空いていた。そして、同居するのは骨董品。
2LDKのうち、実質使えるのは一部屋だが、1Kだと仮定しても、提示された家賃は相場に比べるとかなり破格だった。
「古美術に関しては素人ですが、お手伝いさせてください。頑張ります!」
「ありがとうございます。良かった」
八木沢さんが心底ほっとしたような表情で笑うので、役に立てることが嬉しくなる。
その場で契約をして、仕事が終わった管理会社のお兄さんは帰っていった。
私も引っ越しの手配をしなければならないし、一度帰ろうかと思っていると、部屋の隅に大きく薄い箱が積み重なっているのが気になったので八木沢さんに聞いてみた。
「これはもしかしてお皿ですか? 中を見てもいいですか?」
「構いませんよ」
八木沢さんは、私が興味をもったのが嬉しいのか、にこにこ笑いながら自ら箱を持って来てくれた。リビングのテーブルに置き、彼が括ってある紐を手際よく解いてふたを持ち上げると、そこに入っていたのは陶器の皿だった。
「わあ、素敵な染付……!」
白に青い顔料で草花や鳥が描かれている。大きく平たいので、お刺身を盛り付けたり、いっそサラダを盛ってもいいなあ、などと想像してしまった。
「このあたりにあるのは、器なんですね。他のも開けてみていいですか?」
八木沢さんに了承をもらって、しゃがみ込んで床の上で開いてみた。次に出てきたのは茶器のセットで、赤や黄色で絵付けしてあり白磁が美しい。
「これも有田焼かな? 可愛い!」
「……戸樫さん、それが何かわかるんですか?」
「あっ、すみません。興奮してしまいました。実は私の趣味はお料理で、その延長で器も好きなんです。さっきのお皿は染付や青花と呼ばれていて、中国産だと景徳鎮が有名なので、聞いたことあるかなと思います」
「教科書に出てきますね、景徳鎮」
中国では青花といい、白に酸化コバルトの顔料で絵付けしたもの。日本では染付と呼ばれ、有田焼が有名だ。箱から察するに古いもののようだが、欠けもなく綺麗なまま保管されていた。日用品ではなく美術品なのだろう。つい、何を盛り付けようかなと考えたことを反省した。
「江戸時代に九州に伝わって、それから盛んに作られたそうです。骨董品としては流通量も多いと思います。でも、この大きなお皿は特に見事ですね。絵も綺麗だし、色も素敵」
「気に入ったものがあったら、普段のお食事で使ってもいいですよ」
「えっ、いいんですか?」
それはとても嬉しい。
中学生の頃に祖父が亡くなったあと、祖母は落ち込み病気がちになった。ほとんどの家事を引き受けていた中で、器を考えながらお料理を盛り付けるのは私のささやかな楽しみだった。
「戸樫さんがさきほど『染付』と呼んでいた、そのお皿も使ってください」
「割ったら怖いですよ……」
「僕には価値がわからないので、ただのお皿です」
なお、あとでリストを見せてもらったら、「ただのお皿」の当時の鑑定額は八十万円だった。
短く説明されたが、駅から徒歩三分の好立地マンションを所有しているってどういうことだ。ここにある古美術品も一体どれくらいの価値があるのか、私には想像もつかない。よく見ると、掛け軸や陶器、刀剣や甲冑まである。大きな彫刻などは床や棚に置いてあり、箱のまま置かれているものもある。
「これだけあったら風を通すのも大変ですね」
「そうなんです。だから、これらの骨董品のメンテナンスと整理を手伝ってください。最終的な買い取りなどは専門家に任せますが、そのやり取りもして欲しいです。置いてある家具家電は、好きに使って頂いて構いません。勿論水回りも。実際ご覧になっていかがですか?」
紫外線による劣化をさけて、窓のある部屋にはなにも置いていない。だから、そこを私の居住空間にしていいそうだ。必要最低限な家具家電付き。好条件過ぎる。
「僕の家に一部屋空いている」とはそういう意味だった。決してルームシェアではない。101号室が空いていた。そして、同居するのは骨董品。
2LDKのうち、実質使えるのは一部屋だが、1Kだと仮定しても、提示された家賃は相場に比べるとかなり破格だった。
「古美術に関しては素人ですが、お手伝いさせてください。頑張ります!」
「ありがとうございます。良かった」
八木沢さんが心底ほっとしたような表情で笑うので、役に立てることが嬉しくなる。
その場で契約をして、仕事が終わった管理会社のお兄さんは帰っていった。
私も引っ越しの手配をしなければならないし、一度帰ろうかと思っていると、部屋の隅に大きく薄い箱が積み重なっているのが気になったので八木沢さんに聞いてみた。
「これはもしかしてお皿ですか? 中を見てもいいですか?」
「構いませんよ」
八木沢さんは、私が興味をもったのが嬉しいのか、にこにこ笑いながら自ら箱を持って来てくれた。リビングのテーブルに置き、彼が括ってある紐を手際よく解いてふたを持ち上げると、そこに入っていたのは陶器の皿だった。
「わあ、素敵な染付……!」
白に青い顔料で草花や鳥が描かれている。大きく平たいので、お刺身を盛り付けたり、いっそサラダを盛ってもいいなあ、などと想像してしまった。
「このあたりにあるのは、器なんですね。他のも開けてみていいですか?」
八木沢さんに了承をもらって、しゃがみ込んで床の上で開いてみた。次に出てきたのは茶器のセットで、赤や黄色で絵付けしてあり白磁が美しい。
「これも有田焼かな? 可愛い!」
「……戸樫さん、それが何かわかるんですか?」
「あっ、すみません。興奮してしまいました。実は私の趣味はお料理で、その延長で器も好きなんです。さっきのお皿は染付や青花と呼ばれていて、中国産だと景徳鎮が有名なので、聞いたことあるかなと思います」
「教科書に出てきますね、景徳鎮」
中国では青花といい、白に酸化コバルトの顔料で絵付けしたもの。日本では染付と呼ばれ、有田焼が有名だ。箱から察するに古いもののようだが、欠けもなく綺麗なまま保管されていた。日用品ではなく美術品なのだろう。つい、何を盛り付けようかなと考えたことを反省した。
「江戸時代に九州に伝わって、それから盛んに作られたそうです。骨董品としては流通量も多いと思います。でも、この大きなお皿は特に見事ですね。絵も綺麗だし、色も素敵」
「気に入ったものがあったら、普段のお食事で使ってもいいですよ」
「えっ、いいんですか?」
それはとても嬉しい。
中学生の頃に祖父が亡くなったあと、祖母は落ち込み病気がちになった。ほとんどの家事を引き受けていた中で、器を考えながらお料理を盛り付けるのは私のささやかな楽しみだった。
「戸樫さんがさきほど『染付』と呼んでいた、そのお皿も使ってください」
「割ったら怖いですよ……」
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なお、あとでリストを見せてもらったら、「ただのお皿」の当時の鑑定額は八十万円だった。
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