【R18】結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

ゆきづき花

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恋愛の終止符4

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 日曜日。
 今日は午後から槙木家による家族総出の引越祝いと聞いていたが、この小さな部屋には入りきれないと思う。小学生のお子さんがいるのに、大丈夫なのかと心配していたら、当たり前のように十五階に呼ばれた。

 エレベーターを降りると、そこは白くて広いホールだった。
 明るくてびっくりしたから見上げると、空が見えた。天井の一部がガラス張りになっている。意味がわからない。
 玄関までの道のりに観葉植物がたくさん置いてあり、植物園の温室のようだ。

 掃除の行き届いた綺麗な玄関に「ここで十分生活できるな」と思考が停止しそうになっていた。
 広すぎるリビングの中心には、「これどうやって運んだの?」と言いたくなる重厚な木製のテーブルと革のソファーが置いてある。設えてある調度品は、明らかに私の持ち物とは違う。薄々感じてはいたけれど、八木沢さんは本当に「雲上人」なのでは……?

 ダイニングテーブルには、槙木さんの奥様が準備してくださったというお菓子やおつまみが並んでいた。奥様から「どのワインが好き?」と聞かれたが全くわからないのでお任せした。そもそもワインの違いなど、私には色しか分からない。
 無礼を働いてはいけないので、なるべく部屋の隅にいよう……と震えていると、小学生くらいの女の子に手を引かれた。

「こんにちは、あなたがパパの新しいお友達?」

 か、可愛い……! 写真で見た以上に可愛い!
 二重のぱっちりした目は、お父さん譲りだ。

「パパのお友達だから、ヤギさんみたいにおじさんだと思ってた! 綺麗なお姉さん!」
「戸樫和咲といいます。今日はお招きありがとうございます」

 彼女に向かってお礼を言うと、槙木さんが「うんうん、くつろいでね」と答えたので、八木沢さんが「自分ちのように言うな」とツッコミを入れていた。仲良しだな。
 奥様とは初対面なのに、私がどうしてお二人と知り合って、どうして引っ越したのか、一切質問されなかった。その配慮がとてもありがたかった。
 飲みながらお料理の話をしたり、近所のお店について聞いたり、他愛ない会話が心地いい。
 槙木さんの娘さん――あやちゃん――が、「かずさちゃんと遊ぶ! ゲームしたい!」と言うので、一緒にやらせてもらうことにした。某国民的ゲームキャラクターがカーレースするものだったが、ゲーム自体に全く触れてこなかったので、ルールやキャラクター選びの操作から教えてもらった。
 全然やったことなかったのが珍しいのか、槙木さんに質問された。

「和咲ちゃん、ゲーム禁止の家だったの?」
「あー……はい。うちに一切ありませんでした」
「厳しい!」

 ゲーム機がなかったのは本当だが、別に禁止だったわけではなく、ゲームをする時間がなかったせいだが、うまく説明するのが難しそうだったので少し誤魔化した。八木沢さんにはばれていそうな気もするけど。
 操作は簡単なので、だんだん慣れてくると夢中になってはしゃいでしまった。

「わあ、初めて一着になったー!」
「かずさちゃんすごいね!」
「綾ちゃんの教え方が上手だからだよ。ありがとう」
「弟子だからね」

 またやろうねと約束したので、後日、大人全員を巻き込んだ○リカー大会が開かれることになる。
 片付けのとき、余ったお菓子は綾ちゃんと私で山分けした。すっかり子供扱いされている。

「明日の月曜日はお休みをもらったので、午後から区役所に行ってきます。ついでに再検査の予約も入れたので、午後九時以降は飲食禁止です。それまでにお菓子食べますね」
「再検査か。病気じゃないといいね。ストレスで一時的に数値悪くなることもあるからなあ」

 槙木さんにそう言われたので、「じゃあ、数値よくなってると思います。今日発散しました!」と元気に答えた。

 槙木さんご家族が先に帰るのを見送って、私もお暇しようとしたら、八木沢さんに「一階まで送ります」と言われて笑った。

「ボタン押して降りるだけなので、大丈夫です」
「金曜が飲み会で、疲れて帰ったから郵便受けをチェックしなかったんですよ。すっかり忘れていたので、一応見に行きます」

 一階について、八木沢さんにも何度もお礼を言ってから自分の部屋に戻った。引越祝いに頂いたバスジェルを早速使ってみようかとバスルームへ行って、彼にハンカチを返していないことを思い出した。
 今ならまだエントランスにいるかもしれない。
 そう思って部屋を出て、エレベーターホールの角を曲がると、まだメールボックスの前に彼がいるのが見えた。
 メールボックスの下には大きめのゴミ箱が設置してある。ポスティングされた広告などを放置する人がいるから、それらを捨てるために置いてあるそうだ。
 八木沢さんがそのゴミ箱に手紙を入れようとして、何か呟き、結局躊躇って捨てなかったのを見てしまった。
 見てはいけなかった気がしたから、何も気づいていないふりをして声を掛けて、ハンカチを返して部屋に戻った。

 八木沢さんのあんな表情みたことない。怒っているような泣いているような、辛そうに歪んだ顔。
 あのとき呟いたのは差出人の名前なのだろうか。「サキ」って誰だろう。
 なんで私はこんなに動揺しているんだろう。胸がざわざわする。
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