41 / 116
開拓目標1
エスカの気持ち
しおりを挟む
サラディンさんのパーティーも無帰還の迷宮に到着しました。エルフの妨害はなさそうですね、あれで本当に諦めたのでしょうか?
「アルベルとヨハンはここに防御陣地を構築してくれ」
道中で罠にかかった冒険者を救助している二人と合流したサラディンさん達は、怪我人を馬車に乗せてアーデンに向かわせた後で一緒に迷宮までやってきたのでした。
「……今度はちゃんと攻略してやるからね!」
ミラさんが決意に満ちた表情で入り口に向かって宣戦布告します。前回の苦い経験を思い出しているのでしょう。サラディンさんも厳しい顔で頷きました。
◇◆◇
「エスカは気にしてないの~? 大切なセンパイがいなくなっちゃった場所なんでしょ~?」
恋茄子が歌うように聞いてきました。そう聞かれると……どうなんでしょう?
あれから私は先輩の夢を引き継ぐと決めて、ギルドを作るために奔走してきました。慣れない貴族のパーティーに参加して、長ったらしい名前を覚えて、愛想笑いをしながら頭を下げて。
どんな辛いことや嫌なことも、いなくなってしまった先輩の夢を実現させるためだからと思えば耐えられました。
そしてギルドが立ち上がり、集まって力を貸してくれる多くの仲間をモンスターやエルフが歩き回る森へ送り、その様子を遠くから応援したり怒ったりしてきました。
実際に戦っているのは冒険者達で、私はずっとギルドでお留守番をしてきたのです。
――あの時と同じように。
いつしか、自分自身をも冷めた目で俯瞰的に見るようになっていました。昔はもっとお転婆で自分から色々なところに足を運んでいたし、言葉づかいも気安かったのに。
今では誰に対しても一歩引いた態度で丁寧な言葉を使っています。時々怒ったりはしていても、どこか距離があるのを感じていました。私はギルドマスターで、彼等は仕事を請け負う冒険者。そういう、とても対等とは言えない関係を貫いて。
「正直なところ、特に感慨はありません。コタロウさんには調査をお願いしましたが、申し訳ないという気持ちが先だって……私は、先輩の夢を言い訳にして自分の気持ちと向き合うことから逃げてきたせいで、自分がどうしたいのかもよく分かっていないみたいなんです」
「そうなんだ~、じゃあ頑張るみんなを応援しましょ~♪」
私の言葉に恋茄子はいつもと変わらない態度で答えました。そうですね。いつもと同じようにみんなを応援しましょう。
彼女の態度に、どことなくホッとした自分がいました。
「そろそろモミアーゲさんを呼びましょうか。いざって時にみんなを助けてもらわないといけませんからね」
「今回のお代は2000デントかしら~♪」
「ふふっ、モミアーゲさんならそれぐらい要求しそうですね!」
何度か彼が冒険者の前に姿を見せる現場を見ていた恋茄子は、完全にモミアーゲさんの請求額を把握しているようです。まあ、報酬が無くなっても死ななきゃ安いってものですよね。
◇◆◇
「入り口の罠は解除済みすね」
コタロウさんが迷宮を調べて報告します。そこの罠はゲンザブロウさんが既に解除していますからね。
「ふむ、一層目の探索はコウメイ達に任せてしまおうか。ミラ、二層目までの道は覚えているか?」
サラディンさんが階層飛ばしを提案しました。他のパーティーが探索しているから、メインパーティーがくまなく調べる必要もないということですね。でも、ミラさんが道を覚えているでしょうか?
「う、ごめん。全然覚えてない」
ですよね。
「気にするな。私もあまり覚えていない」
サラディンさんもそういうのは苦手ですか。前回は先輩が道案内して二人はインプと戦ってましたから仕方ありませんね。
『では、私が道案内しましょう』
「あら、マスターの声ですね。アーデンからここまで声を届けることが出来るなんて、さすが賢者様」
『やめてくださいよ、皇帝陛下』
「むう、確かにそう呼ばれるのは嫌ですね。マスターの気持ちが分かりました」
ソフィアさんは天然さんな割に色々と気がつきますね。それはともかく、私は前回先輩達が探索した時のログを見ながらサラディンさん達に道を教えることにしました。
「インプが来たぬー」
少し進んだらモンスターが現れましたね。コウメイさん達は別の道を調べているようです。タヌキさんがバチを構えて戦闘態勢に入りました。でもインプは五匹。敵の数がちょっと多いですね。
「ここは手裏剣で」
そこにコタロウさんが小さい投げナイフのような武器を投擲しました。「ギャッ!」と悲鳴を上げてインプが一匹地面に落ちます。
「これでどう? ファイアーウォール!」
すかさずミラさんが炎の壁を作り出します。二匹が炎に包まれ、その合間をくぐり抜けてやってきた二匹をサラディンさんとタヌキさんが手早く仕留めました。あっという間でしたね。
「怪我した人はいませんか?」
戦闘が終わるとソフィアさんが怪我人の有無を確認します。やはりバランスのいいパーティーですね。この程度のモンスターではビクともしません。
『それでは、そこの角を左に曲がって下さい』
私の案内でメインパーティーは真っ直ぐ二層目まで進みました。途中の罠もコタロウさんがしっかり解除してくれたので、本当にノーダメージでたどり着きます。
さて、二層目には何が待っているのでしょうか?
「アルベルとヨハンはここに防御陣地を構築してくれ」
道中で罠にかかった冒険者を救助している二人と合流したサラディンさん達は、怪我人を馬車に乗せてアーデンに向かわせた後で一緒に迷宮までやってきたのでした。
「……今度はちゃんと攻略してやるからね!」
ミラさんが決意に満ちた表情で入り口に向かって宣戦布告します。前回の苦い経験を思い出しているのでしょう。サラディンさんも厳しい顔で頷きました。
◇◆◇
「エスカは気にしてないの~? 大切なセンパイがいなくなっちゃった場所なんでしょ~?」
恋茄子が歌うように聞いてきました。そう聞かれると……どうなんでしょう?
あれから私は先輩の夢を引き継ぐと決めて、ギルドを作るために奔走してきました。慣れない貴族のパーティーに参加して、長ったらしい名前を覚えて、愛想笑いをしながら頭を下げて。
どんな辛いことや嫌なことも、いなくなってしまった先輩の夢を実現させるためだからと思えば耐えられました。
そしてギルドが立ち上がり、集まって力を貸してくれる多くの仲間をモンスターやエルフが歩き回る森へ送り、その様子を遠くから応援したり怒ったりしてきました。
実際に戦っているのは冒険者達で、私はずっとギルドでお留守番をしてきたのです。
――あの時と同じように。
いつしか、自分自身をも冷めた目で俯瞰的に見るようになっていました。昔はもっとお転婆で自分から色々なところに足を運んでいたし、言葉づかいも気安かったのに。
今では誰に対しても一歩引いた態度で丁寧な言葉を使っています。時々怒ったりはしていても、どこか距離があるのを感じていました。私はギルドマスターで、彼等は仕事を請け負う冒険者。そういう、とても対等とは言えない関係を貫いて。
「正直なところ、特に感慨はありません。コタロウさんには調査をお願いしましたが、申し訳ないという気持ちが先だって……私は、先輩の夢を言い訳にして自分の気持ちと向き合うことから逃げてきたせいで、自分がどうしたいのかもよく分かっていないみたいなんです」
「そうなんだ~、じゃあ頑張るみんなを応援しましょ~♪」
私の言葉に恋茄子はいつもと変わらない態度で答えました。そうですね。いつもと同じようにみんなを応援しましょう。
彼女の態度に、どことなくホッとした自分がいました。
「そろそろモミアーゲさんを呼びましょうか。いざって時にみんなを助けてもらわないといけませんからね」
「今回のお代は2000デントかしら~♪」
「ふふっ、モミアーゲさんならそれぐらい要求しそうですね!」
何度か彼が冒険者の前に姿を見せる現場を見ていた恋茄子は、完全にモミアーゲさんの請求額を把握しているようです。まあ、報酬が無くなっても死ななきゃ安いってものですよね。
◇◆◇
「入り口の罠は解除済みすね」
コタロウさんが迷宮を調べて報告します。そこの罠はゲンザブロウさんが既に解除していますからね。
「ふむ、一層目の探索はコウメイ達に任せてしまおうか。ミラ、二層目までの道は覚えているか?」
サラディンさんが階層飛ばしを提案しました。他のパーティーが探索しているから、メインパーティーがくまなく調べる必要もないということですね。でも、ミラさんが道を覚えているでしょうか?
「う、ごめん。全然覚えてない」
ですよね。
「気にするな。私もあまり覚えていない」
サラディンさんもそういうのは苦手ですか。前回は先輩が道案内して二人はインプと戦ってましたから仕方ありませんね。
『では、私が道案内しましょう』
「あら、マスターの声ですね。アーデンからここまで声を届けることが出来るなんて、さすが賢者様」
『やめてくださいよ、皇帝陛下』
「むう、確かにそう呼ばれるのは嫌ですね。マスターの気持ちが分かりました」
ソフィアさんは天然さんな割に色々と気がつきますね。それはともかく、私は前回先輩達が探索した時のログを見ながらサラディンさん達に道を教えることにしました。
「インプが来たぬー」
少し進んだらモンスターが現れましたね。コウメイさん達は別の道を調べているようです。タヌキさんがバチを構えて戦闘態勢に入りました。でもインプは五匹。敵の数がちょっと多いですね。
「ここは手裏剣で」
そこにコタロウさんが小さい投げナイフのような武器を投擲しました。「ギャッ!」と悲鳴を上げてインプが一匹地面に落ちます。
「これでどう? ファイアーウォール!」
すかさずミラさんが炎の壁を作り出します。二匹が炎に包まれ、その合間をくぐり抜けてやってきた二匹をサラディンさんとタヌキさんが手早く仕留めました。あっという間でしたね。
「怪我した人はいませんか?」
戦闘が終わるとソフィアさんが怪我人の有無を確認します。やはりバランスのいいパーティーですね。この程度のモンスターではビクともしません。
『それでは、そこの角を左に曲がって下さい』
私の案内でメインパーティーは真っ直ぐ二層目まで進みました。途中の罠もコタロウさんがしっかり解除してくれたので、本当にノーダメージでたどり着きます。
さて、二層目には何が待っているのでしょうか?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる