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開拓目標1
蟻地獄
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二層目に入ると、一本の道の左右に扉が並ぶ単純な構造が待っています。この道は真っ直ぐ伸びているのではなく、渦巻きのようにグルグルと回って最後の部屋が丁度この層の真ん中部分に来るようになっています。
「カタツムリみたいな形状すね」
説明を聞いたコタロウさんが感想を述べました。そりゃあ渦巻きですからね。
「この部屋にテレポーターの罠があったのよ」
ミラさんが最初の扉を指差して言うと、コタロウさんの目つきが変わります。
「ここか」
ゆっくりと扉に近づいていき、調べ始めました。他のメンバーはモンスターの来襲に備えて周囲の警戒をしています。
「扉に仕掛けがありますね。開くと奥の方……たぶん中心の部屋にある罠と連動しています」
口調が変わってますね。そのまま真剣な表情で他の扉を調べていきます。そして四つほど調べたところで、顔をしかめて言いました。
「これは……罠が仕掛けられているというより、この迷宮そのものが罠というべきですね」
「というと?」
サラディンさんがその真意を尋ねます。
「アリジゴクって虫を知ってますか? 雨の当たらない物陰の柔らかい砂地に円錐型の巣穴を作って、その中心部に潜んで獲物を待ち続ける虫です。主に蟻がこの巣に足を踏み入れると、崩れる砂に足を取られて抜け出せず、中心部で口を開けて待っているアリジゴクのところまで自動的に運ばれてしまいます」
「つまり、この迷宮はアリジゴクの巣で、冒険者は巣に入り込んだ蟻だというのか。だが前回私とミラは普通に脱出できたぞ」
コタロウさんの説明にサラディンさんが反論します。そうですね。罠にかかって先輩はどこかへ連れていかれましたが、サラディンさんとミラさんは無事に脱出しています。抜け出せなくなる罠はありませんでしたね。
「アリジゴクは用が済んだら余計なものは巣の外に投げ捨てます。前回来た時はこの迷宮の主が目的を達成したので帰されたのでは? その入り口の階段、今一方通行になってますよ」
えっ、そんな罠があるんですか?
「一方通行ってどんな罠なの?」
ミラさんが私と同じ疑問を持ったようです。それに対してコタロウさんは階段を指差します。
「試してみるといいすよ」
あら、口調が戻りました。言われてミラさんが階段を上ろうとすると、なんと不思議なことに前を向いて歩きながら床を滑って後ろに戻ってきます。
「ダンスみたいだぬー」
「なにこれ! ちょっと面白いけどどうやったら出れるの?」
面白いんですか。たぶんボスを倒せば出られると思いますよ?
「この手の罠は遠隔地から起動させるのが常すから、ここでは解除できないすね。おそらくボス部屋にあるんじゃないすか?」
「なるほど、ここに入った獲物を逃がさないようにして、どうあっても最奥の部屋に呼び込むのか」
まさに無帰還の迷宮ですね。そんなに厄介だったとは、前回サラディンさんとミラさんが帰ってこれたのは運が良かったのかもしれません。
「どうせ用があるのはボス部屋だけすから、他の部屋は無視して進みましょう」
「そうですぬー、探索はボスを倒した後でゆっくりやればいいぬー」
そうですぬー。
「そうするか。だが突然扉が開いてモンスターが襲ってくるということも考えられる。慎重に行こう」
「了解」
ありますよね、ある程度何事もなく進んだら、突然それまで通り過ぎた扉が一斉に開いてモンスターが殺到してくる罠。ガーゴイルがいる可能性を考えると、サラディンさんの予想が的中しそうな気がします。
「あっ、通路にも罠がありますね。ちょっと失礼」
歩き始めたらすぐにコタロウさんが新たな罠を発見しました。どれだけ罠が仕掛けられているんですか。この迷宮のボスは一体どんなモンスターなのでしょう? 魔族がこんなところでのんびり待っているとは思えませんが。
コタロウさんが通路の罠を解除して歩き始めた直後、最初にある両側の扉が勢いよく開き、予想通りに悪魔の姿をしたモンスターが飛び出してきました。出てくるタイミング早すぎません?
「やはりガーゴイルか。火では燃えなそうだな」
「ふふっ、甘く見ないでよね。石だって溶かしてみせるわ」
サラディンさんの何気ない言葉にミラさんが闘志を燃やしますが、そんなところで溶岩を作り出さないでくださいよ。
「それはボス戦に取っとくぬー」
そんなミラさんを制してタヌキさんが前に出ました。さすがの冷静さです。
『グアアアア!』
不満そうな顔をしつつも素直にミラさんが後ろに下がると、何の特徴も感じられない雄叫びを上げてガーゴイルが突進します。
「狸流棍術、バチ乱打!」
タヌキさんが迎え撃ち、初手から必殺技を出していきます。目にも止まらぬ速さで繰り出される打撃に、ガーゴイルの硬い身体がボロボロと欠けていきました。木の棒で殴っているように見えるのですが、石より硬いのでしょうか?
「これでどうだ」
サラディンさんがもう一体のガーゴイルを剣で一突きすると、まるでスポンジにナイフを入れるかのようにあっさりと石の身体を貫きます。こういう高等技術を事も無げに繰り出すところが剣聖ですね。ヨハンさんがこの域に達するのは何年後になるでしょうか?
『ギャッギャ!』
ですが、どちらのガーゴイルも倒れません。さすがに二層目のモンスターは強力なようです。鋭い爪でひっかき攻撃を繰り出してきました。
「あ痛っ!」
あっ、サラディンさんは紙一重でかわしましたがタヌキさんが引っかかれて毛皮を切り裂かれてしまいました。並んだ四本の傷から血が流れます。拍動してないので動脈はやられていないようですね。
「タヌキさん! ヒーリング!」
ソフィアさんが回復魔法を使って治しました。瞬時に血が止まり、毛皮もじわじわと元に戻っていきます。やはり聖職者は大切ですね。
「ありがとうぬー。もう一気に壊すぬー!」
タヌキさんは今度はバチで高速突きを何度も繰り出し、ガーゴイルを粉々に砕きました。サラディンさんももう一体をバラバラにしています。まだ余裕はありますが、ちょっと手こずりましたね。襲ってきたのが少数で良かったです。
「……やっぱり全部の部屋を開けて罠を解除して進みましょうか」
コタロウさんの提案に、全員力強く頷くのでした。
「カタツムリみたいな形状すね」
説明を聞いたコタロウさんが感想を述べました。そりゃあ渦巻きですからね。
「この部屋にテレポーターの罠があったのよ」
ミラさんが最初の扉を指差して言うと、コタロウさんの目つきが変わります。
「ここか」
ゆっくりと扉に近づいていき、調べ始めました。他のメンバーはモンスターの来襲に備えて周囲の警戒をしています。
「扉に仕掛けがありますね。開くと奥の方……たぶん中心の部屋にある罠と連動しています」
口調が変わってますね。そのまま真剣な表情で他の扉を調べていきます。そして四つほど調べたところで、顔をしかめて言いました。
「これは……罠が仕掛けられているというより、この迷宮そのものが罠というべきですね」
「というと?」
サラディンさんがその真意を尋ねます。
「アリジゴクって虫を知ってますか? 雨の当たらない物陰の柔らかい砂地に円錐型の巣穴を作って、その中心部に潜んで獲物を待ち続ける虫です。主に蟻がこの巣に足を踏み入れると、崩れる砂に足を取られて抜け出せず、中心部で口を開けて待っているアリジゴクのところまで自動的に運ばれてしまいます」
「つまり、この迷宮はアリジゴクの巣で、冒険者は巣に入り込んだ蟻だというのか。だが前回私とミラは普通に脱出できたぞ」
コタロウさんの説明にサラディンさんが反論します。そうですね。罠にかかって先輩はどこかへ連れていかれましたが、サラディンさんとミラさんは無事に脱出しています。抜け出せなくなる罠はありませんでしたね。
「アリジゴクは用が済んだら余計なものは巣の外に投げ捨てます。前回来た時はこの迷宮の主が目的を達成したので帰されたのでは? その入り口の階段、今一方通行になってますよ」
えっ、そんな罠があるんですか?
「一方通行ってどんな罠なの?」
ミラさんが私と同じ疑問を持ったようです。それに対してコタロウさんは階段を指差します。
「試してみるといいすよ」
あら、口調が戻りました。言われてミラさんが階段を上ろうとすると、なんと不思議なことに前を向いて歩きながら床を滑って後ろに戻ってきます。
「ダンスみたいだぬー」
「なにこれ! ちょっと面白いけどどうやったら出れるの?」
面白いんですか。たぶんボスを倒せば出られると思いますよ?
「この手の罠は遠隔地から起動させるのが常すから、ここでは解除できないすね。おそらくボス部屋にあるんじゃないすか?」
「なるほど、ここに入った獲物を逃がさないようにして、どうあっても最奥の部屋に呼び込むのか」
まさに無帰還の迷宮ですね。そんなに厄介だったとは、前回サラディンさんとミラさんが帰ってこれたのは運が良かったのかもしれません。
「どうせ用があるのはボス部屋だけすから、他の部屋は無視して進みましょう」
「そうですぬー、探索はボスを倒した後でゆっくりやればいいぬー」
そうですぬー。
「そうするか。だが突然扉が開いてモンスターが襲ってくるということも考えられる。慎重に行こう」
「了解」
ありますよね、ある程度何事もなく進んだら、突然それまで通り過ぎた扉が一斉に開いてモンスターが殺到してくる罠。ガーゴイルがいる可能性を考えると、サラディンさんの予想が的中しそうな気がします。
「あっ、通路にも罠がありますね。ちょっと失礼」
歩き始めたらすぐにコタロウさんが新たな罠を発見しました。どれだけ罠が仕掛けられているんですか。この迷宮のボスは一体どんなモンスターなのでしょう? 魔族がこんなところでのんびり待っているとは思えませんが。
コタロウさんが通路の罠を解除して歩き始めた直後、最初にある両側の扉が勢いよく開き、予想通りに悪魔の姿をしたモンスターが飛び出してきました。出てくるタイミング早すぎません?
「やはりガーゴイルか。火では燃えなそうだな」
「ふふっ、甘く見ないでよね。石だって溶かしてみせるわ」
サラディンさんの何気ない言葉にミラさんが闘志を燃やしますが、そんなところで溶岩を作り出さないでくださいよ。
「それはボス戦に取っとくぬー」
そんなミラさんを制してタヌキさんが前に出ました。さすがの冷静さです。
『グアアアア!』
不満そうな顔をしつつも素直にミラさんが後ろに下がると、何の特徴も感じられない雄叫びを上げてガーゴイルが突進します。
「狸流棍術、バチ乱打!」
タヌキさんが迎え撃ち、初手から必殺技を出していきます。目にも止まらぬ速さで繰り出される打撃に、ガーゴイルの硬い身体がボロボロと欠けていきました。木の棒で殴っているように見えるのですが、石より硬いのでしょうか?
「これでどうだ」
サラディンさんがもう一体のガーゴイルを剣で一突きすると、まるでスポンジにナイフを入れるかのようにあっさりと石の身体を貫きます。こういう高等技術を事も無げに繰り出すところが剣聖ですね。ヨハンさんがこの域に達するのは何年後になるでしょうか?
『ギャッギャ!』
ですが、どちらのガーゴイルも倒れません。さすがに二層目のモンスターは強力なようです。鋭い爪でひっかき攻撃を繰り出してきました。
「あ痛っ!」
あっ、サラディンさんは紙一重でかわしましたがタヌキさんが引っかかれて毛皮を切り裂かれてしまいました。並んだ四本の傷から血が流れます。拍動してないので動脈はやられていないようですね。
「タヌキさん! ヒーリング!」
ソフィアさんが回復魔法を使って治しました。瞬時に血が止まり、毛皮もじわじわと元に戻っていきます。やはり聖職者は大切ですね。
「ありがとうぬー。もう一気に壊すぬー!」
タヌキさんは今度はバチで高速突きを何度も繰り出し、ガーゴイルを粉々に砕きました。サラディンさんももう一体をバラバラにしています。まだ余裕はありますが、ちょっと手こずりましたね。襲ってきたのが少数で良かったです。
「……やっぱり全部の部屋を開けて罠を解除して進みましょうか」
コタロウさんの提案に、全員力強く頷くのでした。
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