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エルフ領ネーティアの内情
トウテツ
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「この先にいるぬー」
ヨハンさん達はタンタ・ンタヌーさんに案内されて、トウテツの棲み処にやってきました。
「トウテツってどんなモンスターなの?」
シトリンが弓を構えながらキョロキョロしています。怖がっているみたいですね。得体の知れないモンスターと戦う時にはこうなるのが普通でしょう。嬉々として戦いに行くヨハンさんが異常なんですよ。それほど腕があるわけでもないのに。
「好戦的で何でも食べるぬー。姿はヒツジの脇に目があってトラのような牙と曲がった角と人間のツメがあって顔も人間だぬー」
なんですかその不気味な姿。ちょっと想像しにくいんですけど。特に人間のツメのあたり。
「人間のツメってどうなってんの?」
シトリンも疑問に思ったようです。思い浮かびませんよね。
「前足の先が人間の手になってるぬー。その手で何でもつかんで口に放り込むぬー」
「ヤベーやつっすね!」
なんで嬉しそうなんですかヨハンさん。
「確か、自分より強いものには大人しく従うが、弱いものはいじめるという性格らしい」
アルベルさんはトウテツを知っているみたいですね。このメンバーだとアルベルさんかタヌキさんぐらいなら言うことを聞かせられるのでしょうか?
「最悪な性格ね!」
「エルフもたいがいな性格だと思うっす」
「野蛮な人間に言われたくないわよ馬鹿!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんっすよ!」
「うるさい、馬鹿―!」
『イチャイチャしてんじゃねえええ!』
シトリンとヨハンさんがじゃれあっていると、森の奥から非常に感情のこもった咆哮が聞こえてきました。普通にしゃべるんですね。
「「してないわよ!」」
二人の声が重なりました。息ぴったりですね。
「トウテツだぬー。あとは任せたぬー」
タンタさんがそそくさと帰っていき、残されたパーティーは凶悪なモンスターとの戦闘に備えて武器を構え、ゆっくりと森を進みます。
『ガキどもがオレ様のシマで騒ぎやがって、食われてぇのか? あぁん?』
トウテツが怒ってますね。弱い者いじめをするモンスターという性質から考えて、騒いでいたのが若い男女(発言内容的に)なので侮っているのでしょう。トウテツがどれぐらい強いのか分からないですが。
森の奥から姿を現したのは、全身長い毛に覆われた四足獣のような体型で、前足は人間の手、後ろ足は蹄になっている、身体の横に巨大な目玉がついていて、首のあたりから生えている頭は人間の中年男性に水牛のような曲がった角が生えた怪物ですね。顔はお世辞にも美形とは言い難い醜悪な造形をしています。口には何かの骨をくわえてゴリゴリとかじっていますね。身体の両側と顔に合計四つの目がありますがどこから見ているんでしょう?
「あれがトウテツっすか。モテなそうっすね」
「はあ、これだからブサイクは」
トウテツの姿を見たとたんに挑発を始めるヨハンさんとシトリンですが、ええと、意図があって怒らせてるんですよね? 単なる感想じゃないですよね?
『そうか、食われたいのか。ならば死ね!』
当たり前ですがトウテツは怒って突進してきます。ものすごい速さですね、未熟なバカップルには避けられないでしょう。
「はっ!」
「ぬー!」
その前に立ちふさがり、剣とバチを交差させてトウテツの牙を受け止めるアルベルさんとタヌキさん。
『あががが、おい顎が外れるだろ!』
なんですかその文句。殺し合いをしているとは思えない態度ですね……これはつまり、トウテツの強さを物語っているとも言えます。殺し合いではなく、一方的な殺戮の場面。
「今です!」
ソフィアさんの合図と共に、残りのメンバーが攻撃を仕掛けました。
「火遁の術!」
『いい火力だねえ』
コタロウさんが猩々を焼いた術で攻撃しますが、トウテツが開いた口に全ての炎が吸い込まれていきました。
「氷の矢!」
『温まった腹にちょうどいいな』
シトリンが魔力のこもった矢を放ちますが、これも口の中に吸い込まれます。
「とおっ、ヨハンアタック!!」
『なんだそれ』
そんな技はありません。ただ剣を思いっきり横薙ぎに叩きつけただけです。トウテツが顔を少し傾けると、曲がった角にぶつかって甲高い金属音が森に響きました。
『ガキどもにしちゃ悪くない攻撃だったぜ』
トウテツの顔が醜くゆがみ、その場で立ち上がって両手を開きました。
「くらえっ!」
そこにアルベルさんが剣で斬りつけます。素早くガードしたトウテツの左腕から黒ずんだ血が噴き出しましたが、すぐに収まり傷が塞がっていきます。
『痛てえじゃねえか』
そう言いながら、目にも止まらぬ速さで右手のパンチをアルベルさんの胴体に叩き込みました。黒い鎧が2ガウルほど後方に吹き飛び、ソフィアさんが駆け寄ります。
「アルベル!」
「これでどうだぬー」
タヌキさんが胴体の目にバチを突き刺しますが、非常に硬い膜のようなものに覆われていて、攻撃が弾かれてしまいました。
『へっへっへ、そこは弱点じゃないんだなあ』
笑うトウテツが、そのまま目の前にいた四人に連続で高速パンチを繰り出していきます。ヨハンさんとシトリンはまともに食らって吹き飛び、タヌキさんは交差させた二本のバチで受け止め、コタロウさんは身をひねってかわしました。
『ほう、これが避けられるのか』
トウテツが笑いながらコタロウさんに顔を向け――その顔面で何かが弾けて勢いよく煙が噴き出しました。
『ぐわっ? なんだこりゃ』
「煙幕すよ。一旦引きましょう」
コタロウさんが撤退を提案します。このままじゃ勝てないと判断したようですね。私も同感です。
「逃げろっ!」
立ち上がったアルベルさんの号令に呼応して、パーティーは一目散に逃げだしました。
『へっへっへ、これに懲りたらもう来るなよ』
その背中に、勝ち誇ったトウテツの言葉が投げかけられました。完全な敗北です。ちょっと討伐対象が強すぎましたね。
「どうしたもんかな」
離れた場所まで逃げてきて、一息ついたところでアルベルさんが言いました。トウテツを倒さないと先に進めません。ですが彼等には荷が重すぎる相手です。
押し黙るパーティーに、場違いな声がかかりました。
「いやぁ~、皆さんお困りのようですねぇ」
一斉に声のした方を向くと、そこには巨大なリュックを背負って覆面のフードを被った謎の商人――モミアーゲさんがいたのです。
ヨハンさん達はタンタ・ンタヌーさんに案内されて、トウテツの棲み処にやってきました。
「トウテツってどんなモンスターなの?」
シトリンが弓を構えながらキョロキョロしています。怖がっているみたいですね。得体の知れないモンスターと戦う時にはこうなるのが普通でしょう。嬉々として戦いに行くヨハンさんが異常なんですよ。それほど腕があるわけでもないのに。
「好戦的で何でも食べるぬー。姿はヒツジの脇に目があってトラのような牙と曲がった角と人間のツメがあって顔も人間だぬー」
なんですかその不気味な姿。ちょっと想像しにくいんですけど。特に人間のツメのあたり。
「人間のツメってどうなってんの?」
シトリンも疑問に思ったようです。思い浮かびませんよね。
「前足の先が人間の手になってるぬー。その手で何でもつかんで口に放り込むぬー」
「ヤベーやつっすね!」
なんで嬉しそうなんですかヨハンさん。
「確か、自分より強いものには大人しく従うが、弱いものはいじめるという性格らしい」
アルベルさんはトウテツを知っているみたいですね。このメンバーだとアルベルさんかタヌキさんぐらいなら言うことを聞かせられるのでしょうか?
「最悪な性格ね!」
「エルフもたいがいな性格だと思うっす」
「野蛮な人間に言われたくないわよ馬鹿!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんっすよ!」
「うるさい、馬鹿―!」
『イチャイチャしてんじゃねえええ!』
シトリンとヨハンさんがじゃれあっていると、森の奥から非常に感情のこもった咆哮が聞こえてきました。普通にしゃべるんですね。
「「してないわよ!」」
二人の声が重なりました。息ぴったりですね。
「トウテツだぬー。あとは任せたぬー」
タンタさんがそそくさと帰っていき、残されたパーティーは凶悪なモンスターとの戦闘に備えて武器を構え、ゆっくりと森を進みます。
『ガキどもがオレ様のシマで騒ぎやがって、食われてぇのか? あぁん?』
トウテツが怒ってますね。弱い者いじめをするモンスターという性質から考えて、騒いでいたのが若い男女(発言内容的に)なので侮っているのでしょう。トウテツがどれぐらい強いのか分からないですが。
森の奥から姿を現したのは、全身長い毛に覆われた四足獣のような体型で、前足は人間の手、後ろ足は蹄になっている、身体の横に巨大な目玉がついていて、首のあたりから生えている頭は人間の中年男性に水牛のような曲がった角が生えた怪物ですね。顔はお世辞にも美形とは言い難い醜悪な造形をしています。口には何かの骨をくわえてゴリゴリとかじっていますね。身体の両側と顔に合計四つの目がありますがどこから見ているんでしょう?
「あれがトウテツっすか。モテなそうっすね」
「はあ、これだからブサイクは」
トウテツの姿を見たとたんに挑発を始めるヨハンさんとシトリンですが、ええと、意図があって怒らせてるんですよね? 単なる感想じゃないですよね?
『そうか、食われたいのか。ならば死ね!』
当たり前ですがトウテツは怒って突進してきます。ものすごい速さですね、未熟なバカップルには避けられないでしょう。
「はっ!」
「ぬー!」
その前に立ちふさがり、剣とバチを交差させてトウテツの牙を受け止めるアルベルさんとタヌキさん。
『あががが、おい顎が外れるだろ!』
なんですかその文句。殺し合いをしているとは思えない態度ですね……これはつまり、トウテツの強さを物語っているとも言えます。殺し合いではなく、一方的な殺戮の場面。
「今です!」
ソフィアさんの合図と共に、残りのメンバーが攻撃を仕掛けました。
「火遁の術!」
『いい火力だねえ』
コタロウさんが猩々を焼いた術で攻撃しますが、トウテツが開いた口に全ての炎が吸い込まれていきました。
「氷の矢!」
『温まった腹にちょうどいいな』
シトリンが魔力のこもった矢を放ちますが、これも口の中に吸い込まれます。
「とおっ、ヨハンアタック!!」
『なんだそれ』
そんな技はありません。ただ剣を思いっきり横薙ぎに叩きつけただけです。トウテツが顔を少し傾けると、曲がった角にぶつかって甲高い金属音が森に響きました。
『ガキどもにしちゃ悪くない攻撃だったぜ』
トウテツの顔が醜くゆがみ、その場で立ち上がって両手を開きました。
「くらえっ!」
そこにアルベルさんが剣で斬りつけます。素早くガードしたトウテツの左腕から黒ずんだ血が噴き出しましたが、すぐに収まり傷が塞がっていきます。
『痛てえじゃねえか』
そう言いながら、目にも止まらぬ速さで右手のパンチをアルベルさんの胴体に叩き込みました。黒い鎧が2ガウルほど後方に吹き飛び、ソフィアさんが駆け寄ります。
「アルベル!」
「これでどうだぬー」
タヌキさんが胴体の目にバチを突き刺しますが、非常に硬い膜のようなものに覆われていて、攻撃が弾かれてしまいました。
『へっへっへ、そこは弱点じゃないんだなあ』
笑うトウテツが、そのまま目の前にいた四人に連続で高速パンチを繰り出していきます。ヨハンさんとシトリンはまともに食らって吹き飛び、タヌキさんは交差させた二本のバチで受け止め、コタロウさんは身をひねってかわしました。
『ほう、これが避けられるのか』
トウテツが笑いながらコタロウさんに顔を向け――その顔面で何かが弾けて勢いよく煙が噴き出しました。
『ぐわっ? なんだこりゃ』
「煙幕すよ。一旦引きましょう」
コタロウさんが撤退を提案します。このままじゃ勝てないと判断したようですね。私も同感です。
「逃げろっ!」
立ち上がったアルベルさんの号令に呼応して、パーティーは一目散に逃げだしました。
『へっへっへ、これに懲りたらもう来るなよ』
その背中に、勝ち誇ったトウテツの言葉が投げかけられました。完全な敗北です。ちょっと討伐対象が強すぎましたね。
「どうしたもんかな」
離れた場所まで逃げてきて、一息ついたところでアルベルさんが言いました。トウテツを倒さないと先に進めません。ですが彼等には荷が重すぎる相手です。
押し黙るパーティーに、場違いな声がかかりました。
「いやぁ~、皆さんお困りのようですねぇ」
一斉に声のした方を向くと、そこには巨大なリュックを背負って覆面のフードを被った謎の商人――モミアーゲさんがいたのです。
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