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豚の国と二つの帝国
非難された皇帝
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コタロウさんがハイネシアン帝国へ潜入しました。それは冒険者が依頼を受けた結果なので私がどうこう言うことではないのですが、ちょっと困ったことになっています。
「盗賊が足りないんですよ!」
思わず声を荒らげると、酒場で今後の方針を話し合っていたサラディンさんとミラさんがこちらに注目します。フロンティア周辺で新たなダンジョンがいくつも見つかった関係で、ダンジョン探索の依頼が殺到しているのですが、現在ギルドでその辺りの依頼を自由に受けられる盗賊職の冒険者はゲンザブロウさんしかいません。
無理やり人員を出そうにも、ランクの低い盗賊すら数はあまり多くないのです。盗賊自体が高い技量を必要とするわりに尊敬されない職業なので、とにかく人気がないんです。
「盗賊は名前のせいでイメージが悪いからねえ。貴族はやっと盗賊の大切さを学んだみたいだけど、だからって盗賊になりたがる人間がいるかというと、ね」
怪盗に憧れるゲンザブロウさんのような変わり者はそうそういません。コタロウさんのような忍者は存在すら知られていないので憧れる人もいません。もっと忍者の凄さを世の中に広めるべきでしたね。もう手遅れですけど。
「盗賊には人間より獣人の方が向いているんじゃないか? イヌ族の特殊能力はまさにうってつけだ」
「イヌ族は危機察知能力が飛びぬけて高いですが、手先の器用さは……」
獣人は身体能力こそ優れているものの、それぞれに不得意な能力も持っているので、オールマイティーな能力を必要とする盗賊には意外と向かないんですよね。能力的には意外と器用なウサギが一番盗賊に向いているのですが、彼等は闇エルフと共に暮らしているので大半が神官戦士になっています。
「そもそも能力的に向いているからって盗賊になりたがるかは別の話ですからね」
「それもそうだな」
「俺に任せとけぇ、全てのダンジョンは俺の庭さぁ」
噂をすれば、ゲンザブロウさんが話に入ってきました。この人の盗賊としての腕は何も心配していないんですけどね、さすがに一人でいくつものダンジョンを担当するのは無理があります。
「それにしても、なんで急にダンジョンがいくつも発見されたのでしょうね。開拓が進んだといっても、そんなに狭い範囲に密集するようなものではなかったと思うんですが」
「そのことだが、どうも最近できたものらしい。サフィールが開拓の妨害をしていた時にはそれらのダンジョンは存在していなかったそうだ」
そうなんですか。そんな短期間でダンジョンを作ってしまうような強力なモンスターが何体もいるのでしょうか。もしかしたら例の魔族がまた悪だくみをしているのかもしれません。冒険者の皆さんには十分注意をしてもらわなくては。
そんな話をしていると、急にギルドの扉を開けて駆け込んできた人がいました。長い銀髪をサイドテールにし、眼鏡をかけた女性。冒険者のミズ・ベルウッドさんです。普段は美容師をしている彼女ですが、そんなに急いでどうしたのでしょう?
「大変よ、ムートンのブタ族がソフィーナ帝国に対する非難声明を出して、断交を宣言したわ!」
ブタ族……というとあれですね、レジスタンスのリーダーをしていたカリオストロさんがブタの獣人でした。そのブタさん達がなぜソフィーナ帝国と断交するのでしょう? 仲間を倒したハイネシアン帝国を非難するのなら分かりますが。ムートンというのは大陸の東にある山岳地帯です。その辺で木こりをして、良質な木材を輸出することで生計を立てているのがブタ族だとか。人間の大半は彼等をモンスターのオークだと思っています。私もつい最近まではそう思っていました。
「どうして急に?」
「声明によると、ソフィーナ帝国の皇帝がエルフと仲良くしているからだそうよ。ブタは木を伐って生活しているから伝統的にエルフと仲が悪いんだって」
話によると、エルフの国にソフィーナ帝国の皇帝、つまりソフィアさんが入国して同盟を結ぶ相談をしていたという噂がブタさん達の国に流れているそうです。実情を知っている私に言わせれば、その噂は紛れもない真実ですね。さすがに同盟がどうたらという話は聞いていませんが。
「ああ、ソフィアさんがアレキサンドラ女王と一緒にジュエリアへ行ったのを知られているんですね。世の中、意外と遠くのことを知っている人が多いですからね」
「その筆頭がなに他人事みたいに言ってるの~」
いやー、私より闇エルフの女王プロテアさんの方がなんでも知ってると思いますよ?
「それでも、仲間を殺したバルバロッサの方を責めないのはおかしくない?」
ミラさんが私と同じ疑問を口にします。レジスタンスのリーダーはバルモア国という滅んだ国の残党でしたが、同族が戦っていたのに無視とは残念な感じですね。
「個人の行動と国の立場をそうそう結びつけるわけにはいかないだろう。ところでそのソフィアは今なにをしているんだ?」
サラディンさんがドライなことを言いました。まあ、同族というだけで仲間意識を強く持っていたら人間は全ての種族を敵に回すことになりますもんね。
「ソフィアさんはダンジョン探索のためにフロンティアへ向かっていますね」
国のことは宰相にまかせっきりですからね、あの人。聖職者も足りないのですが、最近はソフィーナ帝国から冒険に参加する人も増えつつあります。
「断交宣言といっても宣戦布告ではないし、すぐに何が起こるってわけでもないでしょう。それよりハイネシアン帝国が次にどこを攻めるのか気にした方がいいですね」
「コタロウはどこまで潜入している?」
「もうケストブルグにいますよ。単独だと早いですね」
そう言って、冒険者管理板を操作しコタロウさんの様子を調べます。この板は魔法の力で依頼を受けている冒険者のいる場所をここから見ることができるのです。
「ほら、もう城に忍び込んでいます……って、ええっ!?」
コタロウさんのいる場所を板に映すと、彼の覗いている先の光景も見ることができました。そこにいたのは――
「あ、ここにもブタがいる」
ミラさんの呑気な声が聞こえます。そうでした、彼女は面識がないんですよね。コタロウさんが覗く広間には、ハイネシアン軍の将軍が着る制服に身を包んだブタの獣人がいました。私は、サラディンさんとミラさんに自分の知っている情報を伝えます。
「あれ、カリオストロさんです」
「盗賊が足りないんですよ!」
思わず声を荒らげると、酒場で今後の方針を話し合っていたサラディンさんとミラさんがこちらに注目します。フロンティア周辺で新たなダンジョンがいくつも見つかった関係で、ダンジョン探索の依頼が殺到しているのですが、現在ギルドでその辺りの依頼を自由に受けられる盗賊職の冒険者はゲンザブロウさんしかいません。
無理やり人員を出そうにも、ランクの低い盗賊すら数はあまり多くないのです。盗賊自体が高い技量を必要とするわりに尊敬されない職業なので、とにかく人気がないんです。
「盗賊は名前のせいでイメージが悪いからねえ。貴族はやっと盗賊の大切さを学んだみたいだけど、だからって盗賊になりたがる人間がいるかというと、ね」
怪盗に憧れるゲンザブロウさんのような変わり者はそうそういません。コタロウさんのような忍者は存在すら知られていないので憧れる人もいません。もっと忍者の凄さを世の中に広めるべきでしたね。もう手遅れですけど。
「盗賊には人間より獣人の方が向いているんじゃないか? イヌ族の特殊能力はまさにうってつけだ」
「イヌ族は危機察知能力が飛びぬけて高いですが、手先の器用さは……」
獣人は身体能力こそ優れているものの、それぞれに不得意な能力も持っているので、オールマイティーな能力を必要とする盗賊には意外と向かないんですよね。能力的には意外と器用なウサギが一番盗賊に向いているのですが、彼等は闇エルフと共に暮らしているので大半が神官戦士になっています。
「そもそも能力的に向いているからって盗賊になりたがるかは別の話ですからね」
「それもそうだな」
「俺に任せとけぇ、全てのダンジョンは俺の庭さぁ」
噂をすれば、ゲンザブロウさんが話に入ってきました。この人の盗賊としての腕は何も心配していないんですけどね、さすがに一人でいくつものダンジョンを担当するのは無理があります。
「それにしても、なんで急にダンジョンがいくつも発見されたのでしょうね。開拓が進んだといっても、そんなに狭い範囲に密集するようなものではなかったと思うんですが」
「そのことだが、どうも最近できたものらしい。サフィールが開拓の妨害をしていた時にはそれらのダンジョンは存在していなかったそうだ」
そうなんですか。そんな短期間でダンジョンを作ってしまうような強力なモンスターが何体もいるのでしょうか。もしかしたら例の魔族がまた悪だくみをしているのかもしれません。冒険者の皆さんには十分注意をしてもらわなくては。
そんな話をしていると、急にギルドの扉を開けて駆け込んできた人がいました。長い銀髪をサイドテールにし、眼鏡をかけた女性。冒険者のミズ・ベルウッドさんです。普段は美容師をしている彼女ですが、そんなに急いでどうしたのでしょう?
「大変よ、ムートンのブタ族がソフィーナ帝国に対する非難声明を出して、断交を宣言したわ!」
ブタ族……というとあれですね、レジスタンスのリーダーをしていたカリオストロさんがブタの獣人でした。そのブタさん達がなぜソフィーナ帝国と断交するのでしょう? 仲間を倒したハイネシアン帝国を非難するのなら分かりますが。ムートンというのは大陸の東にある山岳地帯です。その辺で木こりをして、良質な木材を輸出することで生計を立てているのがブタ族だとか。人間の大半は彼等をモンスターのオークだと思っています。私もつい最近まではそう思っていました。
「どうして急に?」
「声明によると、ソフィーナ帝国の皇帝がエルフと仲良くしているからだそうよ。ブタは木を伐って生活しているから伝統的にエルフと仲が悪いんだって」
話によると、エルフの国にソフィーナ帝国の皇帝、つまりソフィアさんが入国して同盟を結ぶ相談をしていたという噂がブタさん達の国に流れているそうです。実情を知っている私に言わせれば、その噂は紛れもない真実ですね。さすがに同盟がどうたらという話は聞いていませんが。
「ああ、ソフィアさんがアレキサンドラ女王と一緒にジュエリアへ行ったのを知られているんですね。世の中、意外と遠くのことを知っている人が多いですからね」
「その筆頭がなに他人事みたいに言ってるの~」
いやー、私より闇エルフの女王プロテアさんの方がなんでも知ってると思いますよ?
「それでも、仲間を殺したバルバロッサの方を責めないのはおかしくない?」
ミラさんが私と同じ疑問を口にします。レジスタンスのリーダーはバルモア国という滅んだ国の残党でしたが、同族が戦っていたのに無視とは残念な感じですね。
「個人の行動と国の立場をそうそう結びつけるわけにはいかないだろう。ところでそのソフィアは今なにをしているんだ?」
サラディンさんがドライなことを言いました。まあ、同族というだけで仲間意識を強く持っていたら人間は全ての種族を敵に回すことになりますもんね。
「ソフィアさんはダンジョン探索のためにフロンティアへ向かっていますね」
国のことは宰相にまかせっきりですからね、あの人。聖職者も足りないのですが、最近はソフィーナ帝国から冒険に参加する人も増えつつあります。
「断交宣言といっても宣戦布告ではないし、すぐに何が起こるってわけでもないでしょう。それよりハイネシアン帝国が次にどこを攻めるのか気にした方がいいですね」
「コタロウはどこまで潜入している?」
「もうケストブルグにいますよ。単独だと早いですね」
そう言って、冒険者管理板を操作しコタロウさんの様子を調べます。この板は魔法の力で依頼を受けている冒険者のいる場所をここから見ることができるのです。
「ほら、もう城に忍び込んでいます……って、ええっ!?」
コタロウさんのいる場所を板に映すと、彼の覗いている先の光景も見ることができました。そこにいたのは――
「あ、ここにもブタがいる」
ミラさんの呑気な声が聞こえます。そうでした、彼女は面識がないんですよね。コタロウさんが覗く広間には、ハイネシアン軍の将軍が着る制服に身を包んだブタの獣人がいました。私は、サラディンさんとミラさんに自分の知っている情報を伝えます。
「あれ、カリオストロさんです」
応援ありがとうございます!
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