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争いは更なる争いを呼ぶ
閑話:その頃の先輩
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魔族が支配する東の大陸に、二人の男が隠れ住んでいる。魔族の手で繁殖用に連れてこられ逃亡した冒険者ギルド創始者フィストル・アグロゾフと、娘の蘇生を目指して究極の秘術を探す死霊術師ジョージ・アルジェントである。
ジョージの目的はある意味、神への挑戦と言ってもいい。歴史上数限りない者達が夢見てきた奇跡。だがそれは誰も成し遂げたことのない空想物語であった。そのような挑戦をするなら、どうしても人間、いや生命そのものの枠組みを超える必要がある。つまり神の力を求めることにほかならない。
「ついに見つけましたよジョージさん!」
「なんと、やはりあそこに隠されておったか!」
ジョージが魔族の骨を使って作り上げた禍々しい城の中で、若い男が本のようなものを手にして笑顔を見せる。室内でもフードをかぶる老人が、喜びの声を上げた。
「これぞまさに『バルバリルの書』。ついに我々は神の領域に手を伸ばす手がかりを掴んだのじゃ!」
悪戯神バルバリルは新しい神で、創世には関わっていないとされる。だが、世界各地のダンジョンでは度々かの神の存在を示す遺物が見つかっている。この『バルバリルの書』は、この世界の歴史や悪魔の紹介など、非常に価値のある情報が詰まった財宝だ。その中でもジョージが求めていたのは、神の意識を一部この世界に呼び出し、対話をするための方法である。以前手に入れた奥義書にはモンスターとの対話法など様々な秘術が記されていたが、ジョージの夢を叶えることはできなかった。
「バルバリルはなぜそんなものをこの大陸に隠したのでしょう?」
首を傾げるフィストルは魔族の国から命からがら逃げてきたが、助けてくれた旧知の死霊術師よりこの大陸に神の遺物があると聞いて嬉々として探索を続けてきた。彼が立ち上げたギルドを引き継いだエスカは最近だいぶ無理をしているようだが、そんなことは露知らず。
「さてのう、本神に聞いてみればいいのではないかな」
ジョージは早速バルバリルの意識を呼び出す儀式の準備に取り掛かる。フィストルは神との対話に興味を持っておらず、神が記したとされる古文書を持ち帰ったら冒険者ギルドの地位も上がるだろうと考えていた。『バルバリルの書』がもたらす恩恵は地位どころの騒ぎではないのだが。
「しかし少々拍子抜けしたな。神と対話するための儀式というからどれほど凄い対価を要求されるのかと思ったら、ただ開いた本に話しかけるだけとは」
『そりゃあ、話を聞いて欲しくて用意したものだからね』
「!?」
突然『バルバリルの書』から声が聞こえてくる。現代の言葉で、かつ軽い口調の男性の声だが、二人は本能的に神の声だと理解した。
『若くして命を落とした娘を生き返らせるために人間をやめてモンスターになったか……いいよいいよ、そういう話に弱いんだよねー俺』
口調からは威厳の欠片も感じられないが、ジョージの境遇を言い当てる声の主が神であることを疑う余地はない。こちらから質問をしようとするが、口を開くよりも先に神が言葉を続けた。
『俺の頼みを聞いてくれたら、君の娘を生き返らせてやろう。もちろんちゃんとした人間としてな』
「頼みとは一体なんですか?」
神の提示した希望に我を忘れることなく、要求される対価を確認するジョージ。彼はもう長いこと生きて、何度も期待を裏切られてきた。世の中にそううまい話はないものだと身に染みて理解しているのだった。
『ふふふ、俺はこの世界を愛で満たしたいと思っているんだ。だから君に頼みたいことは一つだけ、〝この世界に住む十三の種族を仲間にしろ〟。対象の種族はその本に書いてある……ああ、俺は優しいからヒントをやろう、ハーフエルフは現時点ではこの大陸にしかいないぞ。では健闘を祈る!』
「待ってくれ、仲間にするとは具体的にどうすればいい?」
ジョージが更なる質問をするが、本は沈黙し、もう言葉を伝えることはなかった。
「十三の種族を仲間に、ですか。難しそうですが、意外と平和的な要求で驚きました。バルバリルという神は善き神なのでしょうか」
フィストルが素直な感想を述べる。愛で満たしたいというだけあって、全ての種族が仲良くすることを望んでいるのかもしれない。だが、その言葉を聞いたジョージが嗤う。
「善き神? ハハッ、そう思うかね。神の示す十三の種族には、天使の生んだ天人と悪魔の生んだ魔族がいる。デビリッシュとは我々が言い伝えから魔族と呼んでいた者達じゃな。この大陸の支配者じゃよ」
つまり、お互いを滅するために生み出された二つの種族を共に仲間にしなくてはならない。他にもエルフとドワーフ、キツネとタヌキなど敵対する種族は多い。人間とエルフの間に生まれるというハーフエルフも含まれているが、この種族はエルフにとって禁忌とされる存在でもあった。
「古代種なる、儂も初めて聞く種族までおるぞ。お主は聞いたことがあるかの?」
フィストルは首を振る。そんな種族が存在するなど、聞いたことがない。天人も初耳であった。なるほど、悪戯神バルバリルは相当な無理難題を出してきたようだ。名前の通りの悪戯者なのだろう。だが……フィストルはそれでも笑顔を見せた。
「でも、それを成し遂げれば娘さんは生き返るんですよね。やっと見つかったんですよ、夢をかなえる方法が!」
「ああ、そうじゃな……この好機を逃す手はない。して、仲間にするというのはこうやって共に過ごすことを指すのかな?」
「ちょうどいい場所がありますよ。僕は最初からジョージさんをそこに迎え入れようとしていたのですから」
「なるほど……冒険者ギルドか!」
ジョージの目的はある意味、神への挑戦と言ってもいい。歴史上数限りない者達が夢見てきた奇跡。だがそれは誰も成し遂げたことのない空想物語であった。そのような挑戦をするなら、どうしても人間、いや生命そのものの枠組みを超える必要がある。つまり神の力を求めることにほかならない。
「ついに見つけましたよジョージさん!」
「なんと、やはりあそこに隠されておったか!」
ジョージが魔族の骨を使って作り上げた禍々しい城の中で、若い男が本のようなものを手にして笑顔を見せる。室内でもフードをかぶる老人が、喜びの声を上げた。
「これぞまさに『バルバリルの書』。ついに我々は神の領域に手を伸ばす手がかりを掴んだのじゃ!」
悪戯神バルバリルは新しい神で、創世には関わっていないとされる。だが、世界各地のダンジョンでは度々かの神の存在を示す遺物が見つかっている。この『バルバリルの書』は、この世界の歴史や悪魔の紹介など、非常に価値のある情報が詰まった財宝だ。その中でもジョージが求めていたのは、神の意識を一部この世界に呼び出し、対話をするための方法である。以前手に入れた奥義書にはモンスターとの対話法など様々な秘術が記されていたが、ジョージの夢を叶えることはできなかった。
「バルバリルはなぜそんなものをこの大陸に隠したのでしょう?」
首を傾げるフィストルは魔族の国から命からがら逃げてきたが、助けてくれた旧知の死霊術師よりこの大陸に神の遺物があると聞いて嬉々として探索を続けてきた。彼が立ち上げたギルドを引き継いだエスカは最近だいぶ無理をしているようだが、そんなことは露知らず。
「さてのう、本神に聞いてみればいいのではないかな」
ジョージは早速バルバリルの意識を呼び出す儀式の準備に取り掛かる。フィストルは神との対話に興味を持っておらず、神が記したとされる古文書を持ち帰ったら冒険者ギルドの地位も上がるだろうと考えていた。『バルバリルの書』がもたらす恩恵は地位どころの騒ぎではないのだが。
「しかし少々拍子抜けしたな。神と対話するための儀式というからどれほど凄い対価を要求されるのかと思ったら、ただ開いた本に話しかけるだけとは」
『そりゃあ、話を聞いて欲しくて用意したものだからね』
「!?」
突然『バルバリルの書』から声が聞こえてくる。現代の言葉で、かつ軽い口調の男性の声だが、二人は本能的に神の声だと理解した。
『若くして命を落とした娘を生き返らせるために人間をやめてモンスターになったか……いいよいいよ、そういう話に弱いんだよねー俺』
口調からは威厳の欠片も感じられないが、ジョージの境遇を言い当てる声の主が神であることを疑う余地はない。こちらから質問をしようとするが、口を開くよりも先に神が言葉を続けた。
『俺の頼みを聞いてくれたら、君の娘を生き返らせてやろう。もちろんちゃんとした人間としてな』
「頼みとは一体なんですか?」
神の提示した希望に我を忘れることなく、要求される対価を確認するジョージ。彼はもう長いこと生きて、何度も期待を裏切られてきた。世の中にそううまい話はないものだと身に染みて理解しているのだった。
『ふふふ、俺はこの世界を愛で満たしたいと思っているんだ。だから君に頼みたいことは一つだけ、〝この世界に住む十三の種族を仲間にしろ〟。対象の種族はその本に書いてある……ああ、俺は優しいからヒントをやろう、ハーフエルフは現時点ではこの大陸にしかいないぞ。では健闘を祈る!』
「待ってくれ、仲間にするとは具体的にどうすればいい?」
ジョージが更なる質問をするが、本は沈黙し、もう言葉を伝えることはなかった。
「十三の種族を仲間に、ですか。難しそうですが、意外と平和的な要求で驚きました。バルバリルという神は善き神なのでしょうか」
フィストルが素直な感想を述べる。愛で満たしたいというだけあって、全ての種族が仲良くすることを望んでいるのかもしれない。だが、その言葉を聞いたジョージが嗤う。
「善き神? ハハッ、そう思うかね。神の示す十三の種族には、天使の生んだ天人と悪魔の生んだ魔族がいる。デビリッシュとは我々が言い伝えから魔族と呼んでいた者達じゃな。この大陸の支配者じゃよ」
つまり、お互いを滅するために生み出された二つの種族を共に仲間にしなくてはならない。他にもエルフとドワーフ、キツネとタヌキなど敵対する種族は多い。人間とエルフの間に生まれるというハーフエルフも含まれているが、この種族はエルフにとって禁忌とされる存在でもあった。
「古代種なる、儂も初めて聞く種族までおるぞ。お主は聞いたことがあるかの?」
フィストルは首を振る。そんな種族が存在するなど、聞いたことがない。天人も初耳であった。なるほど、悪戯神バルバリルは相当な無理難題を出してきたようだ。名前の通りの悪戯者なのだろう。だが……フィストルはそれでも笑顔を見せた。
「でも、それを成し遂げれば娘さんは生き返るんですよね。やっと見つかったんですよ、夢をかなえる方法が!」
「ああ、そうじゃな……この好機を逃す手はない。して、仲間にするというのはこうやって共に過ごすことを指すのかな?」
「ちょうどいい場所がありますよ。僕は最初からジョージさんをそこに迎え入れようとしていたのですから」
「なるほど……冒険者ギルドか!」
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