幽世の門番〜人と稀人が心を通わせる上で発生する諸問題について〜

寿甘(すあま)

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閑話:だいたい信者のせい(アリス視点)

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 気がついた時、私は光り輝く不思議な部屋で眠っていた。

 自分が何者なのかは分かっている。ここがどこかも知っている。

 ただ、どうしても分からないことがあった。

「私は、何をすればいいの?」

 小説の登場人物が有名になり過ぎて神になったって、その立場で一体何を成せばいいのかがさっぱり分からない。

 民に豊穣をもたらす善神ではない。

 国に勝利をもたらす戦神でもない。

 かといって、人にわざわいをもたらす邪神というわけでもなかった。

 ただ人々から『可愛いこと』を求められる存在。だけど美の女神と呼ぶには外見が幼すぎる。

 自分が何を成すべきかを知りたい一心で、自分を『信仰』する人々がどんなものを求めているのか調べ始めた。

 身に宿る神の力は、望めば何でも叶えてくれる。私は彼等がよく読んでいる本を召喚した。

「何これ? 女の子が沢山……男の子はどこ? なんで女の子同士で仲良くしてるの?」

 これが私に求められている役割なのだろうか?

 不思議に思いながら本を読破する。よく分からないので二冊、三冊と新たな本を召喚して読んでいくと、彼等は様々なタイプの物語を好んでいることが分かった。

 共通するのは、可愛い女の子(女の子のように見える男の子もいる)が登場することだ。この『可愛い女の子』の役になって、様々な体験をすることが自分のなすべきことなのかもしれない。

 他にやることもないので来る日も来る日も新しい本を読んでいくうちに、私自身も染まっていく。

「女の子同士の恋愛って素敵ね! あっ、でも可愛い男の子がお姉さんを手玉に取るのも捨てがたいわ」

 私は、本だけでは満足できなくなってきて、いつか人間の住む現世に行くことを夢見るようになっていた。



「ねーねー、河伯お姉ちゃんのどこが好き?」

 あれからどれくらいの月日が過ぎたのだろう。幽世の扉が開き、現世にやってきた私は手ごろな女子獲物を探して回り、ついに理想的な女の子同士のカップルに巡り会えたのだ! フヒヒ。

「ええー、そうねえ、凄く優しいところ? あと、ちょっと普通の人と違ってて面白いんだよ!」

 ええのう、ええのう! この恥じらいながらも想い人(同性)の良いところを語り始めたら止まらなくなる女子おなごの表情ときたら、これだけでご飯三杯はいけるわい。おっと、危うくよだれが垂れるところだったでござる。

「もう~、アリスちゃんったらおませさんね」

 ムッハー! この困り顔、たまらんでござる!

 これはもっといじりたくなる逸材ですのう……グフフ。



「あっ、ズボン履いてる!」

 なななんと! 女の子にしか見えなかった河伯がズボンを履いて君付けで呼ばれているではないか! 昨日のスカート姿は……まさか伝説の『男の娘』というやつでありますか!?(※そんな伝説はありません)

 いやしかし、このなんともミスマッチ気味なズボン姿も拙者のカワイ子ちゃんレーダーを刺激しますぞ!

「童顔の男の子……いい!」

 ああ、河伯きゅん(はぁと)



「ねえねえ、二人の後をつけない?」

 なんと五輪ちゃんの想い人である河伯きゅんは生徒会副会長なるオカタイ女子のことが好きらしい。これは恋のトライアングル! 修羅場キター!

 見逃すわけにはいかないでござる! 拙者恋のトラブル大好き侍で候。

「ええっ!? 駄目だよ、他の人に知られたくない話があるみたいだし、嫌われちゃうよ」

「へーきへーき、河伯お兄ちゃんは優しいから」

 別に平気じゃなくても問題ないにゃ! 争えー!

「ああもう、待ってよー」

 こうして二人の後をつけたはいいけど、どうやら河伯きゅんにはバレバレだった模様。

「あっ、曲がった!」

「路地に入ったね。あそこに何かあるのかな?」

 いやー、たぶん逃げられちゃったね。幽世の扉はマレビトには開けないからなぁ。ゆっくりと近づいて角から覗き込む五輪ちゃん。

「あれっ? 誰もいない」

「逃げられちゃったね」

 うーむ、残念でござる。こうなったら――

(本編に続く)
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