幽世の門番〜人と稀人が心を通わせる上で発生する諸問題について〜

寿甘(すあま)

文字の大きさ
17 / 48

鬼と狐の事情

しおりを挟む
 次の日、ローレンス学園に登校すると明蓮がオリンピックから高天原のIDを聞かれていた。明蓮からは恨みがましい目で見られたが、その嘘をついたのは天照大神だし、おかげで秘密を明かされずに済んだのだから恨まれる筋合いはないだろう。酷い濡れ衣である。

「よし、今日はアリスちゃんは来てないわね!」

 担任の稲崎先生が入ってきてこんなことを言う。アリスが迷惑をかけたから仕方がないが、学校の教師がそんな発言をしていいのだろうか。

 それに、私の神通力が非常に残念な事態を知らせている。主に先生と明蓮にとって。

「おにーちゃーん!」

 全員が席につき、朝礼を始めようとしたその時。ドアを勢いよく開けて教室に飛び込んできたのは、狼の背中にまたがったアリスだった。

「きゃあああ! アリスちゃんなにそれ!?」

 天照大神である。すっかり意気投合したらしいが、それでいいのか最高神よ。

 それに、もっと厄介なものが近づいてくる。こうなったら私がどうにかするしかないな。

「先生、私はアリスを連れて外に出ています」

 手を挙げて離脱を宣言すると、稲崎先生は「お願いね」と言ってそのまま外に出させてくれた。厄介払いである。オリンピックがついてきたそうな顔をしているが、見なかったことにする。

「アリス、アマテラス。どうやら他のマレビトが近づいてくるようだ。おそらく明蓮の他の顧客だろう」

 教室から連れ出して少し離れたところで、二人に状況を説明する。言われなくても分かっているかと思ったが、驚いた顔をする二人。

「なになに? どんなのが来るの?」

「明蓮って人気者なのねぇ」

「話によると酒呑童子と金毛白面九尾の妖狐だな。彼等も最近になって急に依頼をしてくるようになったと聞く。まずはどういう事情か確かめてみよう」

 二人が頷くと、連れ立って人目に付かない校舎裏へと移動した。

「アリス、テレパシーで話しかけられないか? 明蓮は授業中だから先に我々と話をしないかと」

「わかったー! こっちに来てって言えばいいのね」

「ワガママ言うようだったら私が焼き尽くしてやるわよ」

 やる気満々の天照大神だが、このメンツで力ずくとなったら大惨事になりそうな予感しかしない。

「実力行使は最終手段だ。あちらもただ旅行しに来ているだけだからな」

 そうだ。いくら相手が大妖怪と言えど、別に危害を加えようとしてきているわけではないのだ。最初から喧嘩腰ではまとまる話もまとまらないだろう。

「伝えたよー、こっちにくるって!」

 妖怪達は大人しく話を聞いてくれるようだ。最初の関門はクリアといったところか。

 少しして、現れたのは意外にも人間の姿をした男女だった。男が酒吞童子で女が金毛白面九尾の妖狐だ。どちらも二十歳前後ぐらいの若い大人の姿で、酒吞はスーツに身を包んだ黒髪黒目の清潔そうな男性、九尾は胸元の開いた華やかなドレスを着た、金色のロングヘアーに茶色の目を持つ女性。

「アマテラスよりずっと周りに気を使っているな」

「どういう意味よ!」

 そのままの意味だが。

 まず酒吞が口を開く。

「オラは酒呑童子だあ。明蓮って人気もんなんだなぁ」

 同感だ。なぜこんなに客がいるのだ。正直に言えば私が独り占めしたいぐらいだ。

 続けて九尾も自己紹介をはじめた。

「私は九尾の狐よ。気軽に玉藻たまもって呼んでね」

 確か九尾は日本では玉藻前たまものまえという名だったか。二人とも敵意は無さそうだ。これならこの学園が焦土と化すことはないだろう。

「私は河伯。この少女はアリスでこちらの犬はアマテラスだ」

「狼!」

「おんやまあ、とんでもねぇバケモンだらけやんなぁ」

 お前が言うな。

「えっとね、明蓮お姉ちゃんは旅行の依頼がいっぱい入って大変になっちゃってるんだ。二人はどうしてそんなに旅行に行きたいの?」

 アリスが質問する。少女の姿だと直球な質問も自然に出来て便利だな。私には真似できそうもないが。

「私はアルビレオの惑星で採れる石が必要なの。最近になってやたらと人間が討伐に来るせいで毛皮が荒れ放題でね、あそこの石に含まれる成分が妖力の回復にいいのよ」

 どこかの犬と違ってまともな事情だった。それなら急ぎの依頼になるのも分かるな。何故人間はこちらから危害を加えていないマレビトを狩ろうとするのだろうか。

「オラは人探しだぁ。人っちゅうかマレビトなんだけんども、茨木童子のやつがスピカに行ってから行方知れずでなぁ」

「それは心配だな」

 茨木童子と言えば、酒呑童子の右腕で美少年として有名な鬼だ。現地の女から言い寄られていたりしないだろうな?

「キーパーはどうしたの?」

 天照大神が聞く。スピカに行ったとなれば、明蓮のような役割の人間も一緒だったはずだ。

「一緒に行方不明なんだぁ」

「なるほどな……提案なんだが」

「アリス達も一緒に行ってあげる!」

 私の言葉を遮ってアリスが酒吞に言った。同じことを考えていたから何も言うまい。

「九尾の怪我は私が治してあげるわよ」

 天照大神は自分の前足を舐めながら玉藻に言った。お前はもうちょっと最高神の自覚を持て。

「ホント? 助かるー!」

「じゃあ一緒に高天原やりましょ」

 ゲームの布教を始める犬。そればっかりだな。玉藻は狩られる側ではないのか?

「ありがてぇけんど、アンタらは忙しくないんかぁ?」

「問題ない。むしろ君達と違って暇を持て余しているぐらいでね」

「うん、大丈夫だよー!」

「せっかくだから私も行くよ、人探しなら頭数多い方が良いっしょ?」

「遊びに行ければどこでもいいわよ~」

 こうして、明蓮の授業が終わるのを待ってこの場の全員がスピカに向かうことになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

死霊術士が暴れたり建国したりするお話

はくさい
ファンタジー
 多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。  ライバルは錬金術師です。  ヒロイン登場は遅めです。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

処理中です...