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イバラキ☆ドリーマー
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幽世の宇宙は、現実の宇宙よりずっと狭い。星と星の間に空間がほとんどないのだ。マレビトが飛べば隣の星まで数十秒もあればいける。更に幽世は時間の流れが違うので、移動中には現世では時間がほぼ経過しない。
「うわー、宇宙ってこんななんだ!」
「現世の宇宙とはかなり違うぞ」
私の背中ではしゃぐオリンピックに通過する各星のことを解説しながら進むと、いちいち感心する声が返ってきた。明蓮もこれぐらい楽しんでくれるといいのだが。
「スピカは賑やかなところでなあ、オラにはあんま合わねんだわ」
酒呑は喋り方から感じるのと同じように、牧歌的な性格らしい。なぜそんな性格で鬼の頭領なのか、謎が深まるばかりだ。
「賑やかなのは私は好きよ!」
玉藻が楽しそうに言う。ああ、そうだろうと思ったよ。
「茨木童子って美少年なんでしょ? アリスちゃん好きそう」
天照が言った。そうなのか?
「私が好きなのは可愛い子だよっ!」
少女が可愛いもの好きなのは普通なはずだが、なんだろう、なんとなく素直に受け取ってはいけない気がする発言だ。
「ところでなんで全員河伯に乗ってんの? アンタ達マレビトは自分で飛べるでしょ?」
「まあまあ、みんなでワイワイしてる方が楽しいよ明蓮さん!」
明蓮の疑問には完全に同意だが、オリンピックはこの方が嬉しいのだろう。普通の口調に戻っているので鬱陶しくなくて何よりだ。
「うふふー」
「何よアリスちゃん、ニヤニヤしちゃって」
「なんでもないよー」
アリスの様子がおかしいが、いつもおかしいから気にするだけ無駄だろう。
しばらくして、問題のスピカに到着した。さて、どうしたものか……?
「さーて、みんなで茨木童子を探そー!」
「張り切っているオリンピックには悪いが、居場所は私が知っている」
「ほんとだべか!? どこにいんだ?」
「お兄ちゃんすごーい!」
「河伯の能力は便利よねえ」
「じゃあさっさと行きましょ」
「だったらちょっと観光してきていーい?」
大人数が一斉に喋りだすと収拾がつかないな。
「まあ落ち着け。茨木童子は今この星にあるアンタリオという国で複数の現地人と共に『イバラキ☆ドリーマー』というアイドルユニットを組んでいる」
「ダサッ!」
間髪入れずユニット名にダメ出しをする玉藻。手厳しいな。
「遠い星なのに英語なの?」
オリンピックが尤もなツッコミを入れた。
「恐らく考えたのは茨木童子なのではないか?」
何はともあれ、アンタリオに移動した。
「おおー! シュテンじゃねえか、待ってたZE☆」
マレビト同士、近くにいれば気配はわかる。茨木童子はすぐに向こうからやってきた。周りに48人程の女性を従えて。現地人だが、見た目は地球の人類とほぼ同じだ。
「うっわー……」
「あはは、アリスちゃんがドン引いてる」
アリスの好みではないようだ。正直私も茨木童子が身に付けている金色のスパンコールはどうかと思う。しかも他に何も着ていない。絶妙に局部を隠しているが動くたびに見えそうで落ち着かない。
「ヘンタイだー!」
「犬がしゃべっTA!?」
「狼!」
面倒臭い予感しかしないので、後は酒呑に任せて観光でもしていていいだろうか?
「そういえばキーパーはどうなったの?」
明蓮が普通の口調で茨木童子に尋ねる。この鬼を見てもまったく表情が変わらないのは、逆に心配になるぞ。
「ああ、彼なら楽屋で休んでるZE☆」
「ふーん、じゃあ私達はそっちに行きましょ。後は鬼同士で話し合ってちょうだい」
クールかつ自然にこの変なアイドルを酒呑に押し付けた! マレビトが怖いとか言っていたくせになんと見事な手腕だろうか。
「行きましょ行きましょー!」
「じゃあおじさん達はゆっくり話しててね!」
「お、おう……」
残された酒呑が不安そうな表情をしているが、どうせ元々一柱で探しに来ていたのだから独力でなんとかしてもらおう。
我々が楽屋のドアを開けると、そこにはいかにも気の弱そうな青年が怯えた表情で座っていた。
「な、なんですかあなた達は!?」
「ああ、心配しないで。私達は地球から茨木童子とキーパーを探しに来たのよ」
「犬がしゃべった!?」
「狼!」
お約束のやり取りを見つつ、青年を観察する。服装は現地のものらしい不可解な布切れに包まれているが、彼が大事そうに抱えているビジネスバッグから強力な気配を感じる。魔導書を持つ能力者で間違いないだろう。
「帰ってこない茨木童子を心配して酒呑童子が探しに来ていたのだ。人探しということで大人数で来たのだが、その必要は無かったな」
私が改めて説明すると、男は嬉しそうな表情をした。
「そうなんですか! いやー、こんな可愛い女の子が探しに来てくれるなんて、まるで天使様だ」
「私は男だが」
「ええっ!?」
いちいち騒がしい男だな。
「実は、茨木童子さんがここでスカウトされてアイドルになっちゃったものだから帰れなくなってしまって」
少し落ち着いたところで、男が事情を話した。そうだろうな。
「酒呑童子が迎えに来たし、もう帰れるでしょ。大変だったわね」
明蓮が同情したのか、優しく声をかける。やはり彼の現状には他人事と思えないものがあるのだろう。明蓮が依頼されていたら逆の立場になっていたのだからな。
「まったく困ったものだ。貴重な能力者なのだからもっと大切にしなくては」
「……河伯ぐらいよ、そう考えるのは」
「やっぱり天使さまですか!?」
呆れた私の呟きに、能力者二人がそれぞれ反応した。ううむ、由々しき問題だな。
「やっぱり河伯君って特別優しいんだ?」
「そうよー、お兄ちゃんは鈍感だけど他の子よりずっと優しいの!」
誰が鈍感だというのか。この世の全てを知ることが出来る竜神に向かって失礼な言いぐさである。
「じゃー、鬼達のところに戻りましょ。すぐ見つかったし、帰る前にみんなで観光しようよ!」
玉藻はとにかく観光したいようだ。とはいえせっかく来たのだから、それもいいか。
「そうだな、時間はまだある」
「わーい!」
そんな話をしながら、鬼達のところに戻る。あまり見たくないから意識を向けていなかったが、話はついたのだろうか?
「お前さんら、助けてくんろ!」
「待てよ酒呑、一緒にアイドルやろうZE☆」
……話はついていないようだ。
「うわー、宇宙ってこんななんだ!」
「現世の宇宙とはかなり違うぞ」
私の背中ではしゃぐオリンピックに通過する各星のことを解説しながら進むと、いちいち感心する声が返ってきた。明蓮もこれぐらい楽しんでくれるといいのだが。
「スピカは賑やかなところでなあ、オラにはあんま合わねんだわ」
酒呑は喋り方から感じるのと同じように、牧歌的な性格らしい。なぜそんな性格で鬼の頭領なのか、謎が深まるばかりだ。
「賑やかなのは私は好きよ!」
玉藻が楽しそうに言う。ああ、そうだろうと思ったよ。
「茨木童子って美少年なんでしょ? アリスちゃん好きそう」
天照が言った。そうなのか?
「私が好きなのは可愛い子だよっ!」
少女が可愛いもの好きなのは普通なはずだが、なんだろう、なんとなく素直に受け取ってはいけない気がする発言だ。
「ところでなんで全員河伯に乗ってんの? アンタ達マレビトは自分で飛べるでしょ?」
「まあまあ、みんなでワイワイしてる方が楽しいよ明蓮さん!」
明蓮の疑問には完全に同意だが、オリンピックはこの方が嬉しいのだろう。普通の口調に戻っているので鬱陶しくなくて何よりだ。
「うふふー」
「何よアリスちゃん、ニヤニヤしちゃって」
「なんでもないよー」
アリスの様子がおかしいが、いつもおかしいから気にするだけ無駄だろう。
しばらくして、問題のスピカに到着した。さて、どうしたものか……?
「さーて、みんなで茨木童子を探そー!」
「張り切っているオリンピックには悪いが、居場所は私が知っている」
「ほんとだべか!? どこにいんだ?」
「お兄ちゃんすごーい!」
「河伯の能力は便利よねえ」
「じゃあさっさと行きましょ」
「だったらちょっと観光してきていーい?」
大人数が一斉に喋りだすと収拾がつかないな。
「まあ落ち着け。茨木童子は今この星にあるアンタリオという国で複数の現地人と共に『イバラキ☆ドリーマー』というアイドルユニットを組んでいる」
「ダサッ!」
間髪入れずユニット名にダメ出しをする玉藻。手厳しいな。
「遠い星なのに英語なの?」
オリンピックが尤もなツッコミを入れた。
「恐らく考えたのは茨木童子なのではないか?」
何はともあれ、アンタリオに移動した。
「おおー! シュテンじゃねえか、待ってたZE☆」
マレビト同士、近くにいれば気配はわかる。茨木童子はすぐに向こうからやってきた。周りに48人程の女性を従えて。現地人だが、見た目は地球の人類とほぼ同じだ。
「うっわー……」
「あはは、アリスちゃんがドン引いてる」
アリスの好みではないようだ。正直私も茨木童子が身に付けている金色のスパンコールはどうかと思う。しかも他に何も着ていない。絶妙に局部を隠しているが動くたびに見えそうで落ち着かない。
「ヘンタイだー!」
「犬がしゃべっTA!?」
「狼!」
面倒臭い予感しかしないので、後は酒呑に任せて観光でもしていていいだろうか?
「そういえばキーパーはどうなったの?」
明蓮が普通の口調で茨木童子に尋ねる。この鬼を見てもまったく表情が変わらないのは、逆に心配になるぞ。
「ああ、彼なら楽屋で休んでるZE☆」
「ふーん、じゃあ私達はそっちに行きましょ。後は鬼同士で話し合ってちょうだい」
クールかつ自然にこの変なアイドルを酒呑に押し付けた! マレビトが怖いとか言っていたくせになんと見事な手腕だろうか。
「行きましょ行きましょー!」
「じゃあおじさん達はゆっくり話しててね!」
「お、おう……」
残された酒呑が不安そうな表情をしているが、どうせ元々一柱で探しに来ていたのだから独力でなんとかしてもらおう。
我々が楽屋のドアを開けると、そこにはいかにも気の弱そうな青年が怯えた表情で座っていた。
「な、なんですかあなた達は!?」
「ああ、心配しないで。私達は地球から茨木童子とキーパーを探しに来たのよ」
「犬がしゃべった!?」
「狼!」
お約束のやり取りを見つつ、青年を観察する。服装は現地のものらしい不可解な布切れに包まれているが、彼が大事そうに抱えているビジネスバッグから強力な気配を感じる。魔導書を持つ能力者で間違いないだろう。
「帰ってこない茨木童子を心配して酒呑童子が探しに来ていたのだ。人探しということで大人数で来たのだが、その必要は無かったな」
私が改めて説明すると、男は嬉しそうな表情をした。
「そうなんですか! いやー、こんな可愛い女の子が探しに来てくれるなんて、まるで天使様だ」
「私は男だが」
「ええっ!?」
いちいち騒がしい男だな。
「実は、茨木童子さんがここでスカウトされてアイドルになっちゃったものだから帰れなくなってしまって」
少し落ち着いたところで、男が事情を話した。そうだろうな。
「酒呑童子が迎えに来たし、もう帰れるでしょ。大変だったわね」
明蓮が同情したのか、優しく声をかける。やはり彼の現状には他人事と思えないものがあるのだろう。明蓮が依頼されていたら逆の立場になっていたのだからな。
「まったく困ったものだ。貴重な能力者なのだからもっと大切にしなくては」
「……河伯ぐらいよ、そう考えるのは」
「やっぱり天使さまですか!?」
呆れた私の呟きに、能力者二人がそれぞれ反応した。ううむ、由々しき問題だな。
「やっぱり河伯君って特別優しいんだ?」
「そうよー、お兄ちゃんは鈍感だけど他の子よりずっと優しいの!」
誰が鈍感だというのか。この世の全てを知ることが出来る竜神に向かって失礼な言いぐさである。
「じゃー、鬼達のところに戻りましょ。すぐ見つかったし、帰る前にみんなで観光しようよ!」
玉藻はとにかく観光したいようだ。とはいえせっかく来たのだから、それもいいか。
「そうだな、時間はまだある」
「わーい!」
そんな話をしながら、鬼達のところに戻る。あまり見たくないから意識を向けていなかったが、話はついたのだろうか?
「お前さんら、助けてくんろ!」
「待てよ酒呑、一緒にアイドルやろうZE☆」
……話はついていないようだ。
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