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異世界に到着しました。

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グシャッ
俺の尻の下で何かしらが潰れた音がする。なんか湿ってきたし...
俺は何の上に落ちたのだろうか?それはすぐに分かった。
りんごだ。それも収穫済みのりんごの入った木箱の中だ。出ようとするも上手く体を動かせない。
ズボンに染みたりんご100パーセントの搾りたてジュースが気持ち悪い。
というか、服装が変わっている。飛ばされた時に服装も変わっていたとは。まるでRPGに出てくる村人のような服だ。農作業に向いてそうだな。せっかく能力手に入れたのに田舎で農作業をする...そんなに悪くないのでは?
まあ、どう過ごすかは自由だろう。
それよりもこんな事を考えてる間もどうしても抜けられない事が問題だ。何度抜けようとしても抜けられない。
このりんごが勝手に収穫され木箱に貯まった訳では無いだろう。
...いやそういう能力があるかも知れないから一概には言えない。
しかし、どちらにせよ、このりんごを回収に来る人が現れる可能性がある。
いきなりキレられてテストプレイ終了は御免だ。
何とか抜けられないものだろうかと考えていると何かが震えている感覚がある。
「着信か?」
通知設定をバイブにした時のような振動はズボンのポケットからのようだ。
取り出してみると俺のスマホだった。なんでここにあるんだ?さっきまで無かった筈だが。
側面の電源ボタンを押すとスリープモードだったようだ。
ロックを解除し画面を付けてみるとメッセージアプリがすでに起動していた。
相手の名前は運営と書いてある。
『すまん宗介。送る時に座標をちょっとミスったm(_ _)m』
どうやら海斗のようだ。普通に顔文字とかも送れるんだな。
写真や動画も送れそうだ。カメラ機能が使えるんかな?
スタンプが無いのがざんねんだ。
『ケツでりんごジュース出来たんだが。どうしてくれんだよ(^_^ꐦ)』
既読がつく。
『責任持って飲ませて頂きます(/◎\)ゴクゴク』
『おい、やめろ、やっぱどうもすんな。マジで気色悪い_| ̄|○、;'.・オェェェェェ』
『俺もその方が助かる。』
うん、じゃあなんで提案した?
海斗はそのまま会話を続ける。
『ところで本題だがこのスマホはヘルプ機能として使ってくれ。ちなみにネット検索もゲームも出来ないぞ』
『えー』
せっかく死んだからクリアを諦めていたゲームが出来ると思ったのに。
『この世界で暮らしていない分の知識を補うための物だからな。俺達が答えられるのは、ここでお前の年齢くらい生きた一般人が知れるレベルの事だけだ』
『なんでメッセージアプリなんだよ』
この方式にしなくても何時でも聞ければいいのに。
『そりゃお前のためだ。俺達が常に監視してたらヤリたい事ヤレねぇだろ?(*σ・ω・。)σツンツン』
まあ、そうだな。そういう気遣いはお前、得意だもんな。
『まあ、そんな機会無いかもしれんが(笑)』
...前言撤回だ。気遣いなんて出来ねぇやつだよ。なんで毎度毎度感心した後に余計なの付けるかね。
毎度毎度感心してる俺も俺だと思うけれど。
『とりあえず困った事あったらここに送れ。ある程度は回答してやる。それと、スマホは他のやつに闇雲に見られないようにな』
まあ、当然だろう。スマホの無い世界の人にとっては違和感しかないだろう。
『早速質問なんだが、お前が送りやがったここはどこだ?』
ミスったと言っても場所くらいは教えて欲しい。
『そこはウォンバー子爵領の巨大果樹園だ。貴族の私有地だな』
『思いっきり不法侵入じゃね?処刑されないか?((´д`)) ブルブル…』
『安心しろ、仁徳者として有名だから処刑とかはしないだろう』
『でもりんご潰したのはまずいよな?』
『そうだな、家臣に殺されるかもな』
『は?やべぇじゃん』
『落ち着け、この世界の人は初めて見たやつにいきなり攻撃したりしない。相手がどんな能力を使っているか分からないからな』
『なるほど。確かにそうだな』
『だから多分名前と能力を言わされる』
『ほうほう』
『お前の能力ほお前だけだから検査の為に屋敷に連行される。任意だが、向こうも何の能力か分からない以上従った方がいい』
『検査?』
『貴族は相手の能力がどんなものか分かる装置を持っている。ある程度しか分からないがな。最も正確に測れるものは王城にある』
『貴族がいれば王もいるのか』
『ちなみにこの世界は男女関係無く兵役がある。なんせ能力があるからな。貴族の跡取り以外は司令官として兵役に参加する。基本的には能力の強い者が産まれやすい家系の方が位が高い。例外も存在するけどな』
『まあ、王族の能力は規格外だとされてるから誰も逆らわない』
『はー、なるほどな』
『ちなみに各領には特産品があってここは果物な訳だ。りんご以外もあるぞ。次期当主とされてる娘は植物の育成を最適にするそうで季節外れの植物ですら育てる事が出来るらしい』
『そりゃ、すげえな。ピッタリじゃねえか』
『じゃあ、頑張れよ』
『は?』
その後既読は付かなかった。
「俺まだ嵌ったままじゃん。どうすんだよ。」
俺は困ったままグダーっとしていた。

数分経った頃だろうか?
「何をしているのですか?」
女の子の声が聴こえる。
「ここに嵌っちゃったんだよ。助けてくれないか。?りんごが潰れて湿って気持ち悪いんだ」
「りんご、潰したのですか?」
「いや、潰したんじゃなくて潰れたの」
「私達の大切なりんごを、許しません!」
女の子が怒鳴ったかと思うとゴオッと音が聴こえる。何の音だ。まさかこの子の能力か?
「待ってちょっと待って、無事なりんごもあるよー」
これだと苦しいか?
「無事なものもあるなら燃やすのも惜しいですね」
燃やすって言ったか?この子の能力は火を出す能力なのだろうか?
「悪者さんはそこで待っていて下さい。大人を呼んできますから」
「待てっ、俺は悪者じゃっないっ!」
女の子はもう走っていってしまったようだ。
え、ちょっこわい。大丈夫だよね?問答無用で死刑にされないよね?

しばらくすると数人の足音が聴こえてくる。
「奴ですか!ウォンバー様のりんごを潰した者は!」
「ええ、そうです」
先程の女の子が答えると俺の体は宙に浮いて横に飛ばされた。何かの能力だろうか?
「ぐえっ」
受け身も取れず地面に叩きつけられる。めっちゃ痛い。
周り見ると一人の女の子と4人のおっさんに囲まれているようだ。
女の子は俺を最初に発見した子だろう。見た目的に6、7歳か?それにしてはしっかりした喋り方だ。
そして、特徴的なものはその服だろう。丈の短いドレスのようなものを着ている。まさか貴族の娘とか?そんな訳ないよな。よりにもよって俺を最初に見つけるのが貴族の娘なんて。
...これフラグか?やだなぁ。
おっさん4人は兵士っぽいな。防具らしきものを身に付けている。3人は剣を持っているが1人は剣を持っていない。
正確に言えば持っていないが剣が宙に浮いている。
コイツか!俺を雑に扱ったのは!
「痛いなあ。何者だよ」
「それはこっちの台詞だ!名と能力を言え!」
唾飛ぶんだけど。耳キーンてなるし。後浮いてる剣の距離を縮めるのは恐いからやめて欲しい。
「上山宗介。能力は局所強化」
「聞いた事ないな。取り敢えず付いてこい」
下手に抵抗したら危なそうだしついて行くしかないな。
こうして俺はおっさんに囲まれて連行される。
それにしてもここは広い。ずっと同じように木が生えている。
4人の兵士に取り囲まれているからか近くを通る人の視線が集まっている。パトカーに連れてかれる犯人の気分だ。そんな気分味わった事ないが。

少し大きい道に出ると、手押し車や馬車、片手でデカい木箱を持つ人など様々な人達が居た。空には飛んでいる人もいる。
そして大きな道の先には立派な門と洋風の屋敷が見える。あれが貴族の屋敷だろう。
すると、馬車が目の前に止まる。俺を送ってくれるのだろうか。罪人にも優しいんだな。
そう思い踏み出そうとすると、馬車の中から人が降りてきた。そこそこ歳を取った老人のようだ。立派なスーツを着ている。
「お乗り下さい。お嬢様」
執事か何かだろうか。降りてきた人が手を差し出す。するとさっきの女の子が前へ進んでいき、馬車に乗った。
これアレだな、さっきのフラグ回収したな。
娘大好きで娘の命令は聞いちゃう感じだったらどうしよう。
気付けば周りの兵士も敬礼している。
そして、執事っぽい人も乗り込み馬車は走っていった。
暫く目線で追っていると、
「早く歩け」
と急かされた。
まさかあの屋敷まで歩くのだろうか?随分と面倒だし、能力の使い方も聞いていない。
能力があれば疲れを軽減して歩けるかも知れないのにと、親友で幼馴染な神様を恨みながら、俺は長い道をおっさんに囲まれて歩いて行く。
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