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最終話 ビッチを主張し、ゴボウに想いを馳せられる
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このところ涼太は違和感を覚えている。
池之内の家での態度が甘過ぎるのだ。
その日一番はじめに顔を合わせた時点でキスを仕掛けてきて、その後隣に立つ度にそれをする。
仕事に出る際も当然、「え、外国育ちですか」という自然な流れで顔を寄せてくるのだ。
キスが挨拶という文化圏にない涼太にとってそれはあまくて柔らかで、大変むずがゆい。
職場ではこれまで通りの態度であるからいいのだが、さすがにこうも甘いと戸惑いを覚えるようになった。
そしてもう一つ気付いた事がある。
涼太が転がり込むように同居するようになって二か月、その間池之内が夜遊びをしていないのだ。
出会いは店だった。日頃から出入りしている慣れた感があったのに。
夕食に使った皿を洗う涼太の隣で、先に油で汚れた皿を拭っている池之内に尋ねる。
「池之内さん、俺って同居人ですよね?」
「━━」
尋ねればゆっくりと振り返られ、そのままじっと見つめられた。
ただでさえ整った顔に、真顔かつ無言で直視され涼太は戸惑う。しかも池之内は高身長で自然と上から見降ろされる形になる。
おお、なんか威圧感すげぇ。
「同棲だと思っていたんだが」
「あ、俺ビッチですんでそういうのはちょっと」
ここで涼太は謎の遠慮を見せた。
池之内は瞳を閉じ、ぐっと眉間に皺を刻む。そして「なんでそうなる」と内心頭を抱えた。
セーフティーセックス至上主義で、特定の相手としか関係を持たない涼太だったが、同棲相手が浮気した晩に池之内と関係を持った事により自己評価がビッチになっていた。本人にしてみればあくまでもポジティブで前向きな変化のつもりなのだ。
池ノ内さんみたいないい男がビッチにつかまるのはなんだかなぁ。
他人事のようにそう思う。
ただ━━
さっきの池之内さん、ちょっと可愛かったな。
子供がむくれているようだった。
「お前がそっちから来いって言ったから行ったのに」
池之内は頭痛でもするように難しい顔で額を揉んだ。
キスをしただけでそれは嬉しそうな顔をするくせに、今さら何を言うのだろう。
ちょうど涼太の皿洗いが終わり、池之内は手を伸ばせば届く壁に嵌め込まれた風呂の自動給湯スイッチを押した。
「じゃあビッチなトコ見せてもらうか」
体格のいい池之内はそう言って涼太を肩に担ぐように抱えると、慌てる涼太にかまう事なく脱衣所へと向かった。
その後━━
「あっあっあ、ごめんなさいぃぃ、ンンっ、も、ビッチとか言いませんンンッッ」
「ぜ、はぁ、ぜんぜん、ビッチじゃ、なかった、ひぁッ、です、気持ちい、もうダメ、ムリ、は、はい、俺、めっちゃ、一途な、方でしたぁぁぁぁぁ!」
浴室にひんひん泣かされる涼太の声が響いたあと。
「もう欲し、いれて、おねが、ぃああぁ! 言います、言うから入れてっ」
「はい、いい、あんぁ、い、池ノ内さんと、いい交際、させて、いただいてますぅぅ。あ、そこ、だめだめだめ、ンああッ!」
「は、ふぁい、イ、イィぃ、イケ、池ノ内さん、だけ、です。はあぁんッぁ! ふぁ、ふぁ、ふぁい、俺も、おれも、らい、らいすきで、すぅぅぅぅッ!! ンぁぁぁぁぁっ」
寝室のその声は遅くまでやむことはなかった。
※
池之内の家に居ついて半年ほど経ったある日、食材の買い物に出ていた涼太は声をかけられ内心首をかしげた。
自分を呼び捨てにするその相手に覚えがない。と思ったら「家賃が厳しくなるから出て行くのは勘弁してくれ」と吐いた元同棲相手の太吾だった。
丸くなっていた。一瞬誰か判別がつかないほどに。
比喩ではなく体型という形状が。
そういやコイツもともと不摂生だったなぁ。しかも太りやすい体質だったよなぁ。
料理をする涼太が出て行ってから太吾はぷくぷく肥えた。それは順調に。
涼太が肩に掛けたゴボウが突き出ているエコバッグに幸せの象徴を見た太吾が何とも言えない顔になったが、何を考えている顔なのか分からない涼太は特に気にせず実に軽い調子で尋ねた。
「よ、その後どうよ」
一瞬遠い目をした太吾は苦虫を噛み潰したような渋面となる。
「どうもこうも、コアな性癖爆誕で相手に苦労してるわ」
同棲する家に女をお持ち帰りされた。そして不運にもその情事にかち合った際、己がこの男にしたあの夜の仕打ちを思い出す。
えーっと。
……言葉責めしながら相手か第三者に罵られてしたい、とか?
「どんまい。ガンバッ」
涼太はげらげら爆笑して太吾の背中を叩いたのだった。
池之内の家での態度が甘過ぎるのだ。
その日一番はじめに顔を合わせた時点でキスを仕掛けてきて、その後隣に立つ度にそれをする。
仕事に出る際も当然、「え、外国育ちですか」という自然な流れで顔を寄せてくるのだ。
キスが挨拶という文化圏にない涼太にとってそれはあまくて柔らかで、大変むずがゆい。
職場ではこれまで通りの態度であるからいいのだが、さすがにこうも甘いと戸惑いを覚えるようになった。
そしてもう一つ気付いた事がある。
涼太が転がり込むように同居するようになって二か月、その間池之内が夜遊びをしていないのだ。
出会いは店だった。日頃から出入りしている慣れた感があったのに。
夕食に使った皿を洗う涼太の隣で、先に油で汚れた皿を拭っている池之内に尋ねる。
「池之内さん、俺って同居人ですよね?」
「━━」
尋ねればゆっくりと振り返られ、そのままじっと見つめられた。
ただでさえ整った顔に、真顔かつ無言で直視され涼太は戸惑う。しかも池之内は高身長で自然と上から見降ろされる形になる。
おお、なんか威圧感すげぇ。
「同棲だと思っていたんだが」
「あ、俺ビッチですんでそういうのはちょっと」
ここで涼太は謎の遠慮を見せた。
池之内は瞳を閉じ、ぐっと眉間に皺を刻む。そして「なんでそうなる」と内心頭を抱えた。
セーフティーセックス至上主義で、特定の相手としか関係を持たない涼太だったが、同棲相手が浮気した晩に池之内と関係を持った事により自己評価がビッチになっていた。本人にしてみればあくまでもポジティブで前向きな変化のつもりなのだ。
池ノ内さんみたいないい男がビッチにつかまるのはなんだかなぁ。
他人事のようにそう思う。
ただ━━
さっきの池之内さん、ちょっと可愛かったな。
子供がむくれているようだった。
「お前がそっちから来いって言ったから行ったのに」
池之内は頭痛でもするように難しい顔で額を揉んだ。
キスをしただけでそれは嬉しそうな顔をするくせに、今さら何を言うのだろう。
ちょうど涼太の皿洗いが終わり、池之内は手を伸ばせば届く壁に嵌め込まれた風呂の自動給湯スイッチを押した。
「じゃあビッチなトコ見せてもらうか」
体格のいい池之内はそう言って涼太を肩に担ぐように抱えると、慌てる涼太にかまう事なく脱衣所へと向かった。
その後━━
「あっあっあ、ごめんなさいぃぃ、ンンっ、も、ビッチとか言いませんンンッッ」
「ぜ、はぁ、ぜんぜん、ビッチじゃ、なかった、ひぁッ、です、気持ちい、もうダメ、ムリ、は、はい、俺、めっちゃ、一途な、方でしたぁぁぁぁぁ!」
浴室にひんひん泣かされる涼太の声が響いたあと。
「もう欲し、いれて、おねが、ぃああぁ! 言います、言うから入れてっ」
「はい、いい、あんぁ、い、池ノ内さんと、いい交際、させて、いただいてますぅぅ。あ、そこ、だめだめだめ、ンああッ!」
「は、ふぁい、イ、イィぃ、イケ、池ノ内さん、だけ、です。はあぁんッぁ! ふぁ、ふぁ、ふぁい、俺も、おれも、らい、らいすきで、すぅぅぅぅッ!! ンぁぁぁぁぁっ」
寝室のその声は遅くまでやむことはなかった。
※
池之内の家に居ついて半年ほど経ったある日、食材の買い物に出ていた涼太は声をかけられ内心首をかしげた。
自分を呼び捨てにするその相手に覚えがない。と思ったら「家賃が厳しくなるから出て行くのは勘弁してくれ」と吐いた元同棲相手の太吾だった。
丸くなっていた。一瞬誰か判別がつかないほどに。
比喩ではなく体型という形状が。
そういやコイツもともと不摂生だったなぁ。しかも太りやすい体質だったよなぁ。
料理をする涼太が出て行ってから太吾はぷくぷく肥えた。それは順調に。
涼太が肩に掛けたゴボウが突き出ているエコバッグに幸せの象徴を見た太吾が何とも言えない顔になったが、何を考えている顔なのか分からない涼太は特に気にせず実に軽い調子で尋ねた。
「よ、その後どうよ」
一瞬遠い目をした太吾は苦虫を噛み潰したような渋面となる。
「どうもこうも、コアな性癖爆誕で相手に苦労してるわ」
同棲する家に女をお持ち帰りされた。そして不運にもその情事にかち合った際、己がこの男にしたあの夜の仕打ちを思い出す。
えーっと。
……言葉責めしながら相手か第三者に罵られてしたい、とか?
「どんまい。ガンバッ」
涼太はげらげら爆笑して太吾の背中を叩いたのだった。
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