海の国再興譚~腹黒国王は性悪女を娶りたい~

志野まつこ

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第二章 わだつみの娘と海の国の婚約者

18、ぜいたくは敵だと言っているのに

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 シーアが念入りに採寸をされている最中「終わり次第、執務室に出向くよう」との国王からの伝言が入った。
 指示通り採寸後その足で国王の執務室を訪れればオズワルドと海軍大将2名が集まり、地図と数枚の書簡を前に難しい顔をしている。

 普段の町人の男子のような格好でありながら、珍しく髪をまとめ上げたシーアの姿を見たオズワルドは「お疲れさまでした」と魅力的な微笑を浮かべて労った。
 そんな彼に恨みがましい目で軽く睨むそぶりを見せてからシーアは男達に並ぶ。
「ほら、ご依頼の品だとよ」
 シーアは義妹であるサシャからの書簡をレオンに手渡す。
 宛名などの記名は一切無かったし、シーアもサシャの名前は出していない。
 それでもレオンは心得顔で厚い書簡を開封もせず自分の執務机に片付けた。
 それはシーアには内密で依頼したものだった。 

「仕事か?」
「いや、個人的な調べ物プライベートだ。……妬いたか?」
 レオンはふとそんな事を言ってみたが、血のつながらない妹が物心ついた時から操舵士ギル一筋十五年のツワモノである事を知るシーアは、馬鹿にしたように鼻で笑った。
「まさか。お前なんか相手にもされないだろうが」
 近隣諸国でも評判の美丈夫であるレオンにそんな事を言うのは彼女くらいのものだ。オズワルドはそんな二人のそんなやり取りを気に入っていた。
 シーアは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの態度で言いながら、机に広げられた書簡の上に紙片を乗せる。
 レオンへの書簡を受け取る際、同時に受け取った物だ。
 もっとももこちらが本命ではあったのだが。
 
「これが北の台地レイスノートに応じた船の一覧だな? お前らの方が早かったのが悔しいな」
 シーアはわざとらしく悔しそうな表情を作って見せた。
 彼女が提示したそこにはレオンの部下が作った一覧と同様の名前の羅列━━海賊一家の名前が、女性らしい綺麗な文字で記号順に並んでいた。
 そしてレイスノートの依頼内容とおおよその報酬。
 これもまたサシャが手掛けた物である。
 書簡と突合せをすればより正確なものとなり、船の数が把握出来るはずだ。

 婚約者の立場である人間が、どのようにしてこんな密書を受け取ったのか。
 海軍大将達は疑問を抱いたが、国王とオズワルドが気にも留めていないようなので疑問は疑問のまま終わった。
 主君と上司には尋ねるだけ無駄と知っているのだ。

 机に両手をついてシーアはじっとその一覧を見詰める。
 どこも遠方の海域を縄張りとする一家だった。
 海の国オーシアン周辺海域を生業の場とする一家はレイスノートからの依頼には応じないだろう。
 彼等にとってオーシアンの港を利用する船舶は大切な獲物であり、取引相手である。オーシアンに睨まれれば仕事はし辛くなる。

 商船や貨物船の安全は自己責任である。そのためオーシアン海軍は近海の海上警備が主な仕事だった。
 船主は安全を確保するために護衛を持つ者もあれば、ドレファン一家のような半商半賊を雇う者もいる。それは船主の経済状況や経営方針によって異なり、後ろ暗い仕事には海賊を使う場合もある。
 オーシアンの港は流通の要だ。その港を利用する者は皆、オーシアン海軍を敵には回さない。

「どう思う?」
 レオンは意見を求めた。
 オーシアンも海に関しては他国よりも圧倒的な情報量を保持しているが、こと海賊関係となると海姫に軍配が上がる。シーアは求められたまま、感じた内容を素直に口にした。
「若い一家が多いな━━」
 十年足らずの新参者の一家が多かった。
 他に近年、首領が交代した一家。

「━━ずいぶんと、常識的な物わかりのいい連中を集めたもんだ」
 真剣な眼差しで呟いた。
 血なまぐさい凶行を生業とする一家は見受けられない。

「誰が選んだんだろうな」
 シーアはぽつりと言った。
 内陸部のレイスノートにこんな知識があるだろうか。
 シーアの言葉に、レオンも再度一覧を注視してから、ちらりとオズワルドを伺う。
 海に詳しい者がレイスノートについているのか。
 そんな疑念。
 オズワルドも瞳の動きで対応を検討する事を伝えた。

 サシャからの情報にはレオンの間者の一覧には記載されていないもう一つの情報が記されていた。
 レイスノートからの要請があったものの、「応じなかった一家」の一覧である。
 資料に目を落としていたが、ふと視線を感じて隣に立つレオンをちらりと一瞬見上げる。
 視線を下に戻しながら、シーアはそれとなくうなじを右手で覆って隠した。
 最近の経験から、この男の前で無防備にうなじを晒すのはどうも心許ない。
「どうした、寝違えでもしたのか」
「うるさい」
 飄々と言ってくるレオンに、シーアは苛立だしげに言い放った。

 そんな二人のやり取りを、こんな場におきながらも微笑ましく見守っていたオズワルドだったがふとその表情を曇らせた。
 こうして主君と海姫が地図を前に論議する姿に5年前の船橋ブリッジの光景が重なる。
 あの日、自分の他に2人の部下も同席した。
 部下の一人は現在もオズワルド・クロフォードの下で補佐官をしている。
 残る一人は本来この場にいてもおかしくない人材だった。
 目を伏せた彼の肩に軽く手が乗せられる。はっとしてそちらを見るとテーブルに目を落としたままのレオンの姿があった。
 オズワルドは軽く頭を振って雑念を取り払うと、主君と同様に地図に神経を集中させたのだった。

 そんなやり取りがあった事など知らないシーアは、やがて人差し指でコツコツと紙片を叩いて示す。
 示されたそこにはスミス一家の名。
「ここの新しい船長は軽薄な間抜けだが、馬鹿じゃない。こんな報酬なのに応じなかった理由があるはずだ」
 応じなかった他の一家も似たようなもので、平和主義であったり、無茶はしない連中といった、よく言えば判断力があると言える海賊達だった。

 レイスノートからの依頼に応じた20近い団体の名簿をシーアは口元を指でなぞりながら見つめる。
「この面子メンツなら、話が通じそうだ」
 左の口角の上を親指がゆっくりと滑る。
 唇にはすでに笑みが浮かんでいた。
 それと同時に脳裏によぎる。

 採寸したばかりだが、着る事にはならないかもしれないな。

 もったいない。
 今からでもドレスの制作の中止を連絡したいところだが、そんな不審な動きを悟られるわけにはいかない。
 シーアは大きくため息をついた。
 本当にもったいない。
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