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第二章 わだつみの娘と海の国の婚約者
17、「海の国の黒真珠」のお披露目決定
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北の台地が多くの半商半賊や海賊に交渉を持ちかけている。
その一報はレオニーク・バルトンが有する幾人かの間者からもたらされた。
レイスノートとは海の国の北側に隣接する中規模国家である。
オーシアンの議員ダーシャスと奸計を謀り、半商半賊のドレファン一家を利用して一戦交えようと画策した。
近年、良質な鉄鉱石の鉱山が発見されその採掘が盛んである。
ただ、レイスノートは港を持たない。
オーシアンは国土の南半分ほどが平地であり、北側に向かうにつれて勾配が上がって行く。
国境より北側のレイスノートは標高が高く、台地となっていた。よって古くは北の台地と呼ばれていたほどだ。
地図上では海岸線を有するが、すべて海抜が高く、断崖絶壁に近い地形である。
そのため、産出した資源はオーシアンへと続く運河を用い、オーシアンの港にて大型船に乗せ換えて輸出している。
長期的経営戦略として、その関税引き下げを渇望していた。
もちろんオーシアンも利用料の増加を考慮し緩和措置を取ったが━━
「満足しなかったってわけか」
シーアはレイスノートとの関係の関係を聞き、難しい顔で結論から言った。
関税の交渉は世界中で行われている。
世界有数の港を持ち、貿易の盛んなオーシアンも多数の案件に常に頭を悩まされていた。
そんな事に巻き込まれたドレファン一家。
いい迷惑だ。
「それで戦か? 短絡的なこった」
奸計を量り、失脚した議員ダーシャスは査問に陥落したが、レイスノートの方が一枚上手だった。
糾弾する材料が、残されていなかったのである。
訴えようにも、下手をすれば言いがかりだと逆に責められかねない状況だった。
「あの馬鹿は本当にいいように使われたんだな」
巻き込まれたシーアが一家を代表し、嘲りを多分に含んだ口調で言い捨てたのは当然の事であろう。
そして、そんな状況下でオーシアンはレイスノートの王弟を招待せざるを得ない機会に見舞われた。
「来月の進水式にレイスノートの王弟の出席が決まった。我が婚約者殿にもぜひ参列してもらいたい」
嫌味なほどに整った顔。
見上げてくるそこには惚れ惚れするような、自信に満ちた微笑があった。
━━何を企んでるんだか。
そう思いながら、シーアもつられるように笑む。
「忙しくなるな」
そう言った海姫の瞳は輝いており、その生気に満ちた魅力的な表情をレオンもまた満足げに見つめたのだった。
北の台地が動き出した。
その一報にオーシアンの中枢はにわかに騒がしくなり始める。
海姫が陸に上がって半年が経とうとしていた。
「海の国の黒真珠」と呼ばれる婚約者がようやく国民の前に立つ一報に国民たちは大いに沸いた。
五年前レオニーク・バルトンが帰還した際に見られた「金の海」。それが海姫の予告があったものである事は周知の事実である。
この軍用船の造船の計画はレオンの国王即位とともに発案されたが、内政の鎮静化に奔走し、国庫との兼ね合いを検討しているうちに月日は流れ、このほどようやく完成したものだ。
半商半賊ドレファン一家の養女が「海の国の黒真珠」と呼ばれている事に、彼女の人相だけを知る者は「それは別人だ」と笑った。
国王が地位の低い女を娶るために海姫と取引して名を買いでもしたか、と。
また、彼女の手管をより知る者は「どんだけ化けたんだよ」と笑った。
彼女を知る者も知らぬ者も、みな一様に。
多くの人間が彼女を一目見ようと心を躍らせ港は活気づいた。
「金の海」以来の慶事になるであろう大祭に、人々は胸を高鳴らせたのだった。
◆◇◆
ドレスの新調を侍女頭と婚約者担当の侍女2名に懇願され、宰相まがいのオズワルド・クロフォードまでもが苦笑しながら「観念してください」と言ってきた。
国王の婚約者が節約していればまわりもその気になるかと思ったが、奇異と蔑みの目で見られただけだった。
「いつもので充分だろ。せっかく通年用を作ったのにもったいない。まだ10回も着てないじゃないか」
シーアは反論する。
これからいくらでも金がかかるってのに━━
まして契約終了の日は近付いている。
どうせ1度しか袖を通す事もないだろうに。
もったいない。
本当に、もったいない。
そう思って不満げに反抗したのだが。
「せめて冬物の生地でお願いします。陛下の恥になります」
オズワルドに笑顔でそう言われれば、シーアも観念せざるを得なかった。
国王の品位を自分のせいで貶めるのは、彼女の望むところではい。
新調するドレスは式典前夜の会食、式典の正装。それに式典後の夜会用と三着は必要だと言われた。
三着とは言うけど、念のために多めに作るんだろうな。
シーアは内心嘆息する。
この婚約は契約でしかない。
しかしそれを侍女頭達に知られるわけにはいかなかった。
みな、驚くほど国王の婚約者に好意的であった。
妃となる人間の採寸など何度も出来ようはずがない。意匠によって必要な採寸箇所も変わるため実に入念に採寸は行われシーアは長時間拘留される事になったが、贖罪の意味も込めて従順に応じたのだった。
その一報はレオニーク・バルトンが有する幾人かの間者からもたらされた。
レイスノートとは海の国の北側に隣接する中規模国家である。
オーシアンの議員ダーシャスと奸計を謀り、半商半賊のドレファン一家を利用して一戦交えようと画策した。
近年、良質な鉄鉱石の鉱山が発見されその採掘が盛んである。
ただ、レイスノートは港を持たない。
オーシアンは国土の南半分ほどが平地であり、北側に向かうにつれて勾配が上がって行く。
国境より北側のレイスノートは標高が高く、台地となっていた。よって古くは北の台地と呼ばれていたほどだ。
地図上では海岸線を有するが、すべて海抜が高く、断崖絶壁に近い地形である。
そのため、産出した資源はオーシアンへと続く運河を用い、オーシアンの港にて大型船に乗せ換えて輸出している。
長期的経営戦略として、その関税引き下げを渇望していた。
もちろんオーシアンも利用料の増加を考慮し緩和措置を取ったが━━
「満足しなかったってわけか」
シーアはレイスノートとの関係の関係を聞き、難しい顔で結論から言った。
関税の交渉は世界中で行われている。
世界有数の港を持ち、貿易の盛んなオーシアンも多数の案件に常に頭を悩まされていた。
そんな事に巻き込まれたドレファン一家。
いい迷惑だ。
「それで戦か? 短絡的なこった」
奸計を量り、失脚した議員ダーシャスは査問に陥落したが、レイスノートの方が一枚上手だった。
糾弾する材料が、残されていなかったのである。
訴えようにも、下手をすれば言いがかりだと逆に責められかねない状況だった。
「あの馬鹿は本当にいいように使われたんだな」
巻き込まれたシーアが一家を代表し、嘲りを多分に含んだ口調で言い捨てたのは当然の事であろう。
そして、そんな状況下でオーシアンはレイスノートの王弟を招待せざるを得ない機会に見舞われた。
「来月の進水式にレイスノートの王弟の出席が決まった。我が婚約者殿にもぜひ参列してもらいたい」
嫌味なほどに整った顔。
見上げてくるそこには惚れ惚れするような、自信に満ちた微笑があった。
━━何を企んでるんだか。
そう思いながら、シーアもつられるように笑む。
「忙しくなるな」
そう言った海姫の瞳は輝いており、その生気に満ちた魅力的な表情をレオンもまた満足げに見つめたのだった。
北の台地が動き出した。
その一報にオーシアンの中枢はにわかに騒がしくなり始める。
海姫が陸に上がって半年が経とうとしていた。
「海の国の黒真珠」と呼ばれる婚約者がようやく国民の前に立つ一報に国民たちは大いに沸いた。
五年前レオニーク・バルトンが帰還した際に見られた「金の海」。それが海姫の予告があったものである事は周知の事実である。
この軍用船の造船の計画はレオンの国王即位とともに発案されたが、内政の鎮静化に奔走し、国庫との兼ね合いを検討しているうちに月日は流れ、このほどようやく完成したものだ。
半商半賊ドレファン一家の養女が「海の国の黒真珠」と呼ばれている事に、彼女の人相だけを知る者は「それは別人だ」と笑った。
国王が地位の低い女を娶るために海姫と取引して名を買いでもしたか、と。
また、彼女の手管をより知る者は「どんだけ化けたんだよ」と笑った。
彼女を知る者も知らぬ者も、みな一様に。
多くの人間が彼女を一目見ようと心を躍らせ港は活気づいた。
「金の海」以来の慶事になるであろう大祭に、人々は胸を高鳴らせたのだった。
◆◇◆
ドレスの新調を侍女頭と婚約者担当の侍女2名に懇願され、宰相まがいのオズワルド・クロフォードまでもが苦笑しながら「観念してください」と言ってきた。
国王の婚約者が節約していればまわりもその気になるかと思ったが、奇異と蔑みの目で見られただけだった。
「いつもので充分だろ。せっかく通年用を作ったのにもったいない。まだ10回も着てないじゃないか」
シーアは反論する。
これからいくらでも金がかかるってのに━━
まして契約終了の日は近付いている。
どうせ1度しか袖を通す事もないだろうに。
もったいない。
本当に、もったいない。
そう思って不満げに反抗したのだが。
「せめて冬物の生地でお願いします。陛下の恥になります」
オズワルドに笑顔でそう言われれば、シーアも観念せざるを得なかった。
国王の品位を自分のせいで貶めるのは、彼女の望むところではい。
新調するドレスは式典前夜の会食、式典の正装。それに式典後の夜会用と三着は必要だと言われた。
三着とは言うけど、念のために多めに作るんだろうな。
シーアは内心嘆息する。
この婚約は契約でしかない。
しかしそれを侍女頭達に知られるわけにはいかなかった。
みな、驚くほど国王の婚約者に好意的であった。
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