転輪御伽草子モモタロウ ~ぶっちぎりの最強vs.最強!!! 異世界転生者と輪廻転生者が地球の命運を懸けて正面対決する!!!!!~

ナイカナ・S・ガシャンナ

文字の大きさ
51 / 64
第8章 冥府魔道

幕間9 桃太郎伝説異本/鬼視点

しおりを挟む
 かつて温羅うらという名の鬼がいた。

 現代より一七〇〇年前、後の岡山県である吉備地方はこの温羅によって統治されていた。温羅は四メートルを超える巨体にして怪力無双の怪物であり、鬼城山きのじょうざん鬼ノ城きのじょうを本拠地としていた。製鉄技術を伝来させて国を繁栄させていた一方で略奪や人攫いなどの暴虐を働き、生贄を求めるなどして現地の民を苦しめていた。

 時の政権であるヤマト王権は温羅を討伐する為、ある男を派遣した。『四道将軍』の一人にして皇子、彦五十狭芹彦命ひこいさせりひこのみことである。

「民草を虐げる者、王権に弓を引く者を私は許さない。今こそね、鬼神」
「ほざけぇい! 儂こそがこの地の王者、吉備冠者きびのかじゃぞ!」

 みことと温羅の戦いは熾烈を極めた。温羅が投げた岩をみことは弓矢で撃ち落とし、更には温羅の左目を射抜いた。堪りかねた温羅は雉や鯉に化けて逃げたが、みこともまた変化の術を会得しており、鷹や鵜に変身して追走した。
 遂にはみことは温羅の首を刎ねて討ち、吉備地方を王権の下に平定した。この討伐劇によりみこと吉備津彦命きびつひこのみことの異名を得た。



 それから七〇〇年後、西暦一〇〇〇年頃。温羅は常世に転生した。場所は鬼ヶ島。人外種族として追い詰められた鬼達が住む、貧しい村だ。ひもじい同族を見て、温羅は嘆息した。

「暴力と欲望を司る鬼が何とも情けない。足りないなら奪えばいい。生きたいなら殺せばいい。苦しいのなら、より強い苦しみを他者に押し付けよ! 世は弱肉強食、儂らは強者だ。存分に喰らえぃ、同胞よ!」

 成長した温羅は族長となり、剛腕と豪胆で一族を纏め上げた。温羅の号令の下、鬼ヶ島の鬼達は盗賊の集団となった。人間の村々を襲い、金品食料を略奪する悪鬼と化した。欲するままに蹂躙し、赴くままに犯した。

 彼らの凶行の末、積み重なった人々の悲嘆に神が応えた。鬼退治の英雄――桃太郎を遣わしたのだ。
 桃太郎と吉備津彦命に直接の繋がりはないが、意富加牟豆美命おおかむづみのみことが桃太郎をデザインする際に吉備津彦命をモデルにした。対温羅の尖兵としてこの上ない適性があると判断したからである。

「我が使命は人々を苦しめる鬼を懲らしめる事。皆の涙に今ここで俺が報いる。くぞ、鬼の族長!」
「ほざけぇい! 鬼が上、人が下よ! 貴様ら弱者は死んで、儂ら強者に道を譲れ!」

 その結果は誰もが知る通り、桃太郎は鬼を退治した。
 決戦は鬼ヶ島ではなく、シン・鬼ノ城きのじょうだった。前世を懐かしんだ温羅が築いた常世の魔城である。
 犬・猿・雉の御供と共に桃太郎は果敢に鬼の軍勢と戦った。電撃作戦で一階から敵を蹴散らしつつ登っていき、御供が一匹ずつ脱落し、最上階で桃太郎は温羅と一騎討ちとなった。

 勝利したのは桃太郎だ。自身も重傷を負いながら温羅に決定的な深手を負わせた。ようやく一命を取り留めたという再起不能の状態だ。

「おのれぃ、おのれぃ! 人間風情がよくも儂に……!」

 うのていで城を脱した温羅は、故郷である鬼ヶ島へと逃げ込んだ。

 ……その後の展開は先に語った通りである。桃太郎一行は残党狩りも兼ねて鬼ヶ島へと乗り込み、鬼の村を滅ぼした。温羅もまた桃太郎にとうとう討ち取られた。死に際、温羅は呪いの言葉を残した。

「世は弱肉強食……今は貴様の方が強いか。弱き肉は儂らか。……ならば、儂は今より更に強くなろう。何者よりも強くなり、いつか貴様の子々孫々を一人残らず八つ裂きにし、根絶やしにしてくれる……!
 貴様もだ、桃太郎! 幾度転生しようと何度でも殺してやる! 殺す! 殺す……!」



 それから更に一〇〇〇年後の現代。温羅は根の国にいた。
 根の国とは黄泉よみの一部であり、黄泉とは日本の冥府であり、冥府とは死後の世界である。日本神話において死者の魂は全て、この世界に行く定めとなっていた。

 転生はしなかった。桃太郎の魂がこの一〇〇〇年間、本体である意富加牟豆美命おおかむづみのみことがいる高天原たかまがはらで眠りに就いたままだったのを知っていたからだ。桃太郎が転生しないのであれば自身が転生しても甲斐がない。報復は奴の目の前で行ってこそ。そう考えたからだ。

 そして現在、桃太郎が百地吉備之介に転生したのを知った。故に温羅も自身の転生を進めていたのだが、今日その事情が変わった。

 闇の火砕流に呑み込まれた吉備之介が、自分がいるこの根の国に堕ちてきたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...