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第8章 冥府魔道
幕間9 桃太郎伝説異本/鬼視点
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かつて温羅という名の鬼がいた。
現代より一七〇〇年前、後の岡山県である吉備地方はこの温羅によって統治されていた。温羅は四メートルを超える巨体にして怪力無双の怪物であり、鬼城山の鬼ノ城を本拠地としていた。製鉄技術を伝来させて国を繁栄させていた一方で略奪や人攫いなどの暴虐を働き、生贄を求めるなどして現地の民を苦しめていた。
時の政権であるヤマト王権は温羅を討伐する為、ある男を派遣した。『四道将軍』の一人にして皇子、彦五十狭芹彦命である。
「民草を虐げる者、王権に弓を引く者を私は許さない。今こそ逝ね、鬼神」
「ほざけぇい! 儂こそがこの地の王者、吉備冠者ぞ!」
命と温羅の戦いは熾烈を極めた。温羅が投げた岩を命は弓矢で撃ち落とし、更には温羅の左目を射抜いた。堪りかねた温羅は雉や鯉に化けて逃げたが、命もまた変化の術を会得しており、鷹や鵜に変身して追走した。
遂には命は温羅の首を刎ねて討ち、吉備地方を王権の下に平定した。この討伐劇により命は吉備津彦命の異名を得た。
それから七〇〇年後、西暦一〇〇〇年頃。温羅は常世に転生した。場所は鬼ヶ島。人外種族として追い詰められた鬼達が住む、貧しい村だ。ひもじい同族を見て、温羅は嘆息した。
「暴力と欲望を司る鬼が何とも情けない。足りないなら奪えばいい。生きたいなら殺せばいい。苦しいのなら、より強い苦しみを他者に押し付けよ! 世は弱肉強食、儂らは強者だ。存分に喰らえぃ、同胞よ!」
成長した温羅は族長となり、剛腕と豪胆で一族を纏め上げた。温羅の号令の下、鬼ヶ島の鬼達は盗賊の集団となった。人間の村々を襲い、金品食料を略奪する悪鬼と化した。欲するままに蹂躙し、赴くままに犯した。
彼らの凶行の末、積み重なった人々の悲嘆に神が応えた。鬼退治の英雄――桃太郎を遣わしたのだ。
桃太郎と吉備津彦命に直接の繋がりはないが、意富加牟豆美命が桃太郎をデザインする際に吉備津彦命をモデルにした。対温羅の尖兵としてこの上ない適性があると判断したからである。
「我が使命は人々を苦しめる鬼を懲らしめる事。皆の涙に今ここで俺が報いる。征くぞ、鬼の族長!」
「ほざけぇい! 鬼が上、人が下よ! 貴様ら弱者は死んで、儂ら強者に道を譲れ!」
その結果は誰もが知る通り、桃太郎は鬼を退治した。
決戦は鬼ヶ島ではなく、シン・鬼ノ城だった。前世を懐かしんだ温羅が築いた常世の魔城である。
犬・猿・雉の御供と共に桃太郎は果敢に鬼の軍勢と戦った。電撃作戦で一階から敵を蹴散らしつつ登っていき、御供が一匹ずつ脱落し、最上階で桃太郎は温羅と一騎討ちとなった。
勝利したのは桃太郎だ。自身も重傷を負いながら温羅に決定的な深手を負わせた。ようやく一命を取り留めたという再起不能の状態だ。
「おのれぃ、おのれぃ! 人間風情がよくも儂に……!」
這う這うの体で城を脱した温羅は、故郷である鬼ヶ島へと逃げ込んだ。
……その後の展開は先に語った通りである。桃太郎一行は残党狩りも兼ねて鬼ヶ島へと乗り込み、鬼の村を滅ぼした。温羅もまた桃太郎にとうとう討ち取られた。死に際、温羅は呪いの言葉を残した。
「世は弱肉強食……今は貴様の方が強いか。弱き肉は儂らか。……ならば、儂は今より更に強くなろう。何者よりも強くなり、いつか貴様の子々孫々を一人残らず八つ裂きにし、根絶やしにしてくれる……!
貴様もだ、桃太郎! 幾度転生しようと何度でも殺してやる! 殺す! 殺す……!」
それから更に一〇〇〇年後の現代。温羅は根の国にいた。
根の国とは黄泉の一部であり、黄泉とは日本の冥府であり、冥府とは死後の世界である。日本神話において死者の魂は全て、この世界に行く定めとなっていた。
転生はしなかった。桃太郎の魂がこの一〇〇〇年間、本体である意富加牟豆美命がいる高天原で眠りに就いたままだったのを知っていたからだ。桃太郎が転生しないのであれば自身が転生しても甲斐がない。報復は奴の目の前で行ってこそ。そう考えたからだ。
そして現在、桃太郎が百地吉備之介に転生したのを知った。故に温羅も自身の転生を進めていたのだが、今日その事情が変わった。
闇の火砕流に呑み込まれた吉備之介が、自分がいるこの根の国に堕ちてきたからだ。
現代より一七〇〇年前、後の岡山県である吉備地方はこの温羅によって統治されていた。温羅は四メートルを超える巨体にして怪力無双の怪物であり、鬼城山の鬼ノ城を本拠地としていた。製鉄技術を伝来させて国を繁栄させていた一方で略奪や人攫いなどの暴虐を働き、生贄を求めるなどして現地の民を苦しめていた。
時の政権であるヤマト王権は温羅を討伐する為、ある男を派遣した。『四道将軍』の一人にして皇子、彦五十狭芹彦命である。
「民草を虐げる者、王権に弓を引く者を私は許さない。今こそ逝ね、鬼神」
「ほざけぇい! 儂こそがこの地の王者、吉備冠者ぞ!」
命と温羅の戦いは熾烈を極めた。温羅が投げた岩を命は弓矢で撃ち落とし、更には温羅の左目を射抜いた。堪りかねた温羅は雉や鯉に化けて逃げたが、命もまた変化の術を会得しており、鷹や鵜に変身して追走した。
遂には命は温羅の首を刎ねて討ち、吉備地方を王権の下に平定した。この討伐劇により命は吉備津彦命の異名を得た。
それから七〇〇年後、西暦一〇〇〇年頃。温羅は常世に転生した。場所は鬼ヶ島。人外種族として追い詰められた鬼達が住む、貧しい村だ。ひもじい同族を見て、温羅は嘆息した。
「暴力と欲望を司る鬼が何とも情けない。足りないなら奪えばいい。生きたいなら殺せばいい。苦しいのなら、より強い苦しみを他者に押し付けよ! 世は弱肉強食、儂らは強者だ。存分に喰らえぃ、同胞よ!」
成長した温羅は族長となり、剛腕と豪胆で一族を纏め上げた。温羅の号令の下、鬼ヶ島の鬼達は盗賊の集団となった。人間の村々を襲い、金品食料を略奪する悪鬼と化した。欲するままに蹂躙し、赴くままに犯した。
彼らの凶行の末、積み重なった人々の悲嘆に神が応えた。鬼退治の英雄――桃太郎を遣わしたのだ。
桃太郎と吉備津彦命に直接の繋がりはないが、意富加牟豆美命が桃太郎をデザインする際に吉備津彦命をモデルにした。対温羅の尖兵としてこの上ない適性があると判断したからである。
「我が使命は人々を苦しめる鬼を懲らしめる事。皆の涙に今ここで俺が報いる。征くぞ、鬼の族長!」
「ほざけぇい! 鬼が上、人が下よ! 貴様ら弱者は死んで、儂ら強者に道を譲れ!」
その結果は誰もが知る通り、桃太郎は鬼を退治した。
決戦は鬼ヶ島ではなく、シン・鬼ノ城だった。前世を懐かしんだ温羅が築いた常世の魔城である。
犬・猿・雉の御供と共に桃太郎は果敢に鬼の軍勢と戦った。電撃作戦で一階から敵を蹴散らしつつ登っていき、御供が一匹ずつ脱落し、最上階で桃太郎は温羅と一騎討ちとなった。
勝利したのは桃太郎だ。自身も重傷を負いながら温羅に決定的な深手を負わせた。ようやく一命を取り留めたという再起不能の状態だ。
「おのれぃ、おのれぃ! 人間風情がよくも儂に……!」
這う這うの体で城を脱した温羅は、故郷である鬼ヶ島へと逃げ込んだ。
……その後の展開は先に語った通りである。桃太郎一行は残党狩りも兼ねて鬼ヶ島へと乗り込み、鬼の村を滅ぼした。温羅もまた桃太郎にとうとう討ち取られた。死に際、温羅は呪いの言葉を残した。
「世は弱肉強食……今は貴様の方が強いか。弱き肉は儂らか。……ならば、儂は今より更に強くなろう。何者よりも強くなり、いつか貴様の子々孫々を一人残らず八つ裂きにし、根絶やしにしてくれる……!
貴様もだ、桃太郎! 幾度転生しようと何度でも殺してやる! 殺す! 殺す……!」
それから更に一〇〇〇年後の現代。温羅は根の国にいた。
根の国とは黄泉の一部であり、黄泉とは日本の冥府であり、冥府とは死後の世界である。日本神話において死者の魂は全て、この世界に行く定めとなっていた。
転生はしなかった。桃太郎の魂がこの一〇〇〇年間、本体である意富加牟豆美命がいる高天原で眠りに就いたままだったのを知っていたからだ。桃太郎が転生しないのであれば自身が転生しても甲斐がない。報復は奴の目の前で行ってこそ。そう考えたからだ。
そして現在、桃太郎が百地吉備之介に転生したのを知った。故に温羅も自身の転生を進めていたのだが、今日その事情が変わった。
闇の火砕流に呑み込まれた吉備之介が、自分がいるこの根の国に堕ちてきたからだ。
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途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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