転輪御伽草子モモタロウ ~ぶっちぎりの最強vs.最強!!! 異世界転生者と輪廻転生者が地球の命運を懸けて正面対決する!!!!!~

ナイカナ・S・ガシャンナ

文字の大きさ
8 / 64
第1章 転輪御伽草子モモタロウ

第7転 日本一の覚醒

しおりを挟む
 ベヒーモス。
 旧約聖書に登場する陸の怪物。最高の獣と謳われる神の被造物。モデルは象とされる事が多いが、河馬や牛であるという説もある。中世以降は暴飲暴食を司る悪魔と見なされるようになった。


◆  ◇  ◆


 クリトの連続拳撃が俺を襲う。至近距離で繰り出される拳は最早弾幕だ。俺は反撃も忘れて回避に徹する。腕の長さよりも間合いを取れば拳撃は届かなくなるので、どうにか避け続けていられるが、俺から近付く事ができない。

「おらよっ!」

 クリトの足払いが炸裂する。拳に専念していた俺は足元の攻撃に反応できない。転倒する俺にクリトはすかさず跳び乗り、拳を突き落とす。右の拳――【陸の王者ベヒーモス】だ。

「ひえっ!」

 横転して拳を躱す俺。目標を逃した【陸の王者ベヒーモス】が路面を叩く。道路が粉砕され、十メートル級のクレーターとなる。逃げ遅れていたらどうなっていたか、想像するまでもない。

「くっ、クソ!」

 蒼褪めながらも俺は路面を手で突き押し、素早く身を起こす。そのまま間髪入れず後方に跳躍した。少しでもクリトから距離を確保しようという怯懦だ。

「ちょこまかと。さっさと殺されろ、地球人」

 クリトは悠然と俺を目で追う。余裕を隠そうともしない態度だ。握り締めた拳が発する威圧感に息を呑むのを止められない。恐怖で足が竦みそうになる。

「…………。お前、異世界転生者って事は元地球人だろ。それなのに、なんでそう簡単に人類滅亡なんて真似ができるんだ?」

 威圧された自分を誤魔化すように俺は問いを口にする。

「決まっている。大義の為だ」

 対するクリトは余裕からあっさりと答えた。

「おれ達異世界転生者の殆どは地球では不遇でな」
「不遇……?」
「うむ。イジメられたり引きこもりだったり、ブラック企業で過労死したり大病に冒されていたりな。おれも似たような境遇だ。
 その一方で異世界では出会いに恵まれた。だから、地球に対して容赦はしないし、異世界に対しては同情する。異世界を守る為には地球を犠牲にしても構わないと考えている」
「……それが分からねえ。地球と異世界に一体どんな関係があるんだ? どうして地球人を滅ぼす事が異世界人を守る事になる?」
「何だ? 貴様、そんな事まで知らされてないのか?」
「何だって?」

 困惑する俺にクリトは嘲笑を浮かべる。

「それもそうか。神々にとって貴様はただの尖兵。駒にあれこれと丁寧に教える必要もないな。それにどの道、貴様はここで死ぬのだから神々の事情など関係はあるまい」
「くっ……!」

 クリトが歩を進める。近寄る殺意に俺はどうしても及び腰になってしまう。クリトがゆっくりと近付く度に一歩ずつ後退する。そんな俺の無様さにクリトは口角を歪めつつ、一息に仕留めようと地を蹴ろうとした。
 その直前だった。

「百地!」

 竹が俺の名を呼んだ。

 振り返れば刀が円を描きつつ飛んできていた。難なく受け取る。刀が飛んできた方向を見れば、そこには粉砕されたリムジンを背景に竹がいた。服も肌も全身が切り傷だらけだが、ひとまずは五体満足だ。
 視線を横に動かせば、鉱物の樹木が幾つも生い茂る中、甲冑の兵士達が倒れ伏していた。竹はクリトに弾き飛ばされたあの状態からどうにか復帰して、見事に兵士達に打ち勝ってみせたのだ。

「刀を抜きなさい、百地!」

 あちこちから流血し、息も絶え絶えになりながらも竹が俺に訴える。

「刀を抜けば、あんたは『桃太郎』になる! あんたの前世が『桃太郎』だって事を重荷じゃなくて利用するのよ!」
「獣月宮、お前……」
「使命とか運命とかそんなのはどうでもいい。あんたが『ここで死にたくない』と思っているのなら、刀を抜いて戦って!」
「…………」

 竹の喝に俺は僅かに息を止め、手元の刀に目を落とした。鞘に納まった刃を手に思い返すのは前世の記憶だ。


◆  ◇  ◆


 鬼ヶ島に辿り着いた桃太郎おれが見たのは村だった。
 人間の村ではない。鬼が作った村だ。

 村は非常に貧しかった。土地は枯れ、真水も乏しく、作物が育たない。作物が育たなければ家畜も飼えない。到底生活などできる筈もない。
 鬼達は何も欲望の為だけに村々を襲っていたのではない。自分達の村を養う為でもあったのだ。

 だが、略奪は略奪である。勧善懲悪、因果応報。奪った者は奪われなければならず、殺した者は殺されなければならない。それが摂理だ。それが条理だ。

 そうして桃太郎は殺戮を始めた。男も女も老人も赤子も分け隔てなくその手に掛けたのだ。

 桃太郎は鬼退治という役目を背負わされて生まれてきた。生まれる前から使命が定められていた。彼自身もそれに疑問を持つ事なく育ち、鬼を討伐する旅に出た。その結末は惨劇で幕を閉じた。
 血塗れの悔恨から彼は決意した。もう二度と使命を理由に戦う事はしないと。


◆  ◇  ◆


 それから現在。今生の俺は命の危機に晒されていた。
 二度と使命の為には戦わない。ならば、意地はどうか。

 死ぬのは怖い。こうして転生した身ではあれど、感覚が朽ち果てていくあの絶望と自分が消えていく不安感は耐え難い。二度とどころか一度だって味わいたくないものだ。

「それに……」

 祖父母や学友達を思い出す。俺がここで殺されれば彼らは泣くだろう。怒るかもしれない。死んだ俺の事を不甲斐ないと思うかもしれない。まさか復讐なんて考えるまではいかないだろうが。
 それは嫌だな。嫌だ。だから、

「――ああ、死にたくねえな」

 呼吸を一つ挟んで意を決し、鞘から刀を抜く。
 途端、俺の中の何か――在り方と呼ぶべきものが一変した。抜刀した事で自分の中にある『桃太郎』のスイッチを入れたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...