旧支配者のカプリチオ ~日本×1000年後×異世界化×TS×クトゥルフ神話~

ナイカナ・S・ガシャンナ

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第二部第三章 クーデターイベント(前日譚)

セッション46 扇動

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 どうにもコメントし辛くなったので、茶を啜って場を繋ぐ。
 口内が潤った事でようやく次の言葉が出るようになった。

「それで? ツァトゥグァイグの諍いがクーデターにどう繋がってくるんだ?」
「蛇と蛙だけでなく、そこに魚が加わってくるかもしれないと聞きまして」
「魚……? ……あ、帝国か!」

 魚人――深きもの共ディープワンの国。ダーグアオン帝国。
 ここであいつらが絡んでくるのか。

「きな臭い噂を耳にしまして。帝国が最近、侵略活動を再開しようとしていると。先日の……えっと、ゴブリン事変でしたか?」
「ああ」
「空を虹色の球体で埋め尽くした、あのおぞましき現象。あれこそが帝国の宣戦布告であると聞きました」
「宣戦布告? いや、あれは破壊工作であってせ……もが」

 宣戦布告という程のものではない。そう言おうとしたらイタチに口を遮られた。
 あ、お前もしかして……!

「そうだとも。俺様は聞いたぞ、事件の黒幕――『膨れ女』の言葉を。『これは開戦の狼煙だ。東国の猿共め、死にたくなければ早めの降伏を考えておけ』と奴は確かに言っていた」
「ああ、なんて事……!」

 いや『膨れ女きそくてん』の奴、そこまでは言ってねーぞ!
 そう言ってやりたいがイタチに口を塞がれて言葉が出せない。

「……二荒王国打倒は山岳連邦の目標です。しかし、その為に国家存続の危機を迎えるのは間違っています。帝国が関東を狙っているというのであれば、今すぐに休戦し、戦力を蓄え、民を守る備えをしなくてはなりません」

 だというのに、

「族長や他の議員達は王国と争う事ばかりしか頭にありません! 蓄えや備えの事などまるで眼中にないのです! しかも、争う理由は誇りだの意地だの殆ど実利のない事ばかり! このままでは、いざ帝国攻めてきた時に横倒しにされてしまいます。それでは、民を守れない。――ああもう、あの人達全員斬ってしまいたい!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって!」

 激情がヒートアップしていく栄を両手を伸ばして宥める。
 刀の鯉口をチャキチャキと鳴らし、今にも抜刀しそうだ。
 刀や斬る事に関する事が彼女の発狂内容だろうか。連邦議員の業務でストレスが溜まっているのかもしれない。

 ややあって栄は落ち着きを取り戻し、茶を啜って一息つく。

「先日、議会は私に冒険者ギルドや傭兵ギルドに依頼を持っていくよう命じました。最早連邦軍で無傷・軽傷の兵士は残り少ないので、その分を他所から補充しようという心算です」
「成程、それはもう追い詰められる所まで追い詰められているな」

 自国の戦力は壊滅寸前だというのに、なお戦争を続けようという狂奔。しかも実利もないのに続けようとなると相当頭に血が上っている。連邦は今、王国と敵対する事しか考えていない。こんな有様では帝国に横合いから殴られた時、本当に滅ぼされてしまうだろう。

「でも、私の目的は違います。私の目的は王国との戦争ばかりを考える議員達を止める事。その為にギルドを訪問したのです」
「止めるってーのは、つまりは」
「はい。……言葉をもって説得する時期は過ぎました。言葉では意見は何一つとして通りませんでした。ならば、力尽くでもって通すしかないでしょう」

 つまりはクーデターを起こすと、そういう結論か。

「……本気かよ?」
「本気です。斬ります」

 即答だった。即という事はそれだけ彼女の中では決意が固まっているのだろう。クーデターを起こしてでも議会に自分の意見を押し通す。その決意を懐いて、彼女はここにいるのだ。

「くくく……!」

 そんな栄を見て、イタチが含み笑いを漏らす。
 やっぱりこいつ、栄を焚き付けていやがったな。栄の不安を煽って、クーデターを起こす方向に誘導しやがった。将来、自分が連邦を乗っ取る為に、友人をその支配者に置こうとしているのだ。なんて悪い奴だ。
 まあ、空一面の虹球なんて天変地異以外の何物でもねーからな。そんな真似出来る奴が攻めてくるかもとなりゃあ怯えるのも無理はねーか。イタチもうまく誘導したものだ。

「はあ……お前はそれで良いのかよ?」

 先程から黙りっ放しの梵に声を掛ける。
 栄本人では気付けないかもしれないが、傍から見ている弟なら姉の暴走に気付けるかもしれない。クーデターなんぞ本来は沙汰の外だ。弟なら止めたいと思うのではないか。そう思っての問い掛けだったのだが、

「姉さんが斬りたいと言うのなら斬らせるし、姉さんが殺せと言うのなら誰が相手でも殺す。それだけだ。善悪も損益も知らん。姉さんの満足だけが俺にとっては絶対だ」
「お前、そういうキャラだったのか……」

 姉が絶対とか言ったぞ、こいつ。クールな顔してシスコンだったのか。
 駄目だ、ここブレーキがいない。僕に制止する能力もねーし。

 ……ま、いっか。クーデターも争いではあるが、それでより大きな闘争が防げると思えばまだマシだろう……という事にしておこう、今は。

「お願いします。どうか議会ではなく、私達に力を貸して下さい! 山岳連邦の未来の為に!」
「うむ、良きに計らえ。この俺様が力を貸してやろう!」

 頭を深々と下げる栄にイタチが力強く頷く。
 ともあれ、パーティーのリーダーが定めたというのであれば是非もない。これで僕達の次の依頼内容は決まったという訳だ。であれば、後は真面目に任務をこなすだけだ。

「では、夕食のお時間まで客室でお待ち下さい。夕食は大広間に用意する手筈になっていますので」
「うむ、了解した」

 栄が立ち上がり、イタチが続く。イタチの後に僕が並び、最後に梵が立った。そのまま部屋から出ようとしたら、梵が僕を呼び止めた。

「おい、お前。ちょっと来い。話がある」
「え? 僕?」

 浅間栄の弟が僕に話?
 僕と彼の接点があるとは思えないが、一体何の話だろうか。

「『黒山羊の加護』について話したい事がある」

 ――――!?
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