旧支配者のカプリチオ ~日本×1000年後×異世界化×TS×クトゥルフ神話~

ナイカナ・S・ガシャンナ

文字の大きさ
67 / 120
第二部第四章 クーデターイベント(当日)

セッション59 血海

しおりを挟む
 目が覚めると、ステファに膝枕されていた。

「『おお、太腿……』と思ったけど、硬ぇなこりゃ」
「全身甲冑ですからね、私……寝難くてすみません」
「いや、膝枕してくれただけでも有難ぇよ。それで、どうなった?」

 膝枕から身を起こすとハクを見付けた。彼女は壁を背にもたれかかり、瞼を閉じていた。頬には泣き跡が付いている。呼吸はしているから生きてはいる様だ。何故か黒い袖無しのマントを布団代わりに掛けられていたが。

「藍兎さんが蘇生するのと同時に、彼女は人に戻りました。中身までハクさんに戻ったかどうかまでは確認出来ていませんが」

 そうか。ヨルムンガンドを『捕食』したのがそういう結果になったか。喰われた事で蛇王は弱体化し、蛇人間とやらの状態を保てなくなったらしい。少し不安はあったが、とりあえずはうまく展開が回った様だ。

「あのマントは何なんだ?」
「巨大化した際に服がビリビリに破れましたので……全裸で放置する訳にはいきませんでしたので、その辺で亡くなられた兵士から比較的無事な物を拝借しました」
「お前のその『他人の死は死できちんと悲しむけど、使える物は使う』って所、スゲー冒険者らしいと思う」
「いえ……それはその……何と言いますか……」

 合理主義者じゃなけりゃ冒険なんて続けてらんねーもんな。最高。

「僕はどれくらい寝ていた?」
「十分も経っていません。治癒聖術ヒールを掛けたらすぐに目を覚まされたくらいです」
「その十分の間にロキが逃げちまったかもしれねーだろ。……待たせたな。とっとと行くか」

 立ち上がって軽く体調をチェックする。ステファの言った通り、きちんと治癒が成されていた。体力はともかく傷は完治している様だ。これで戦う事は出来る。

「いつもの蘇生ですけど、魔術スキルはゲット出来ましたか?」
「確認してみよう」

冒険者教典カルト・オブ・プレイヤー』を開き、スキル一覧を見る。覧には『竜の吐息ドラゴンブレス』が追加されていた。

「あれ、これだけですか? ヨルムンガンドの事ですから毒系のスキルを持っているだろうと思っていたんですけど」
「ああ……それは、シュブ=ニグラスが気を利かせてくれたんだろーさ」

 蛇王の猛毒――『神殺しの毒ヨルムンガンド』は蛇神の呪いイグを抑え込むのに必要だからな。シュブ=ニグラスが奪わず、ハクに残しておいたのだろう。あんな見た目で子供には優しい女神様だ。結果として『紫竜の吐息パープルドラゴンブレス』は習得出来なかったが、仕方ないだろう。

「まあ竜の吐息ドラゴンブレスだけでも強力ですしね」
「まーな。よし、それじゃあ行くか、ステファ! 三護!」
「……いいや、我は行かん」
「三護?」

 三護は瓦礫を背に座り込んでいた。顔色は青白く、尻の下にはおびただしい量の血の海が出来ていた。

「三護、お前……!」
「『土蜘蛛ツチグモ』はのぅ、器を裂いてでないと使えんのじゃ。必然暴れれば暴れる程に裂傷が大きくなる。奥の手も奥の手よ。もう限界じゃ。これ以上は動けんよ。修繕せねばのぅ」
「三護さんの傷は初級ヒールでは治せませんでした。中級の聖術でないと無理ですね……」
「そうか……」

初級治癒聖術ヒール』で回復出来るのは自然治癒するレベルの傷までだ。手術が必要な程の深い傷までは治癒出来ない。生体式のゴーレムであっても同じ事だ。三護の裂傷は手術レベルであり、今は手の施しようがない。
 仕方ねーか。三護はここでリタイアだ。冥王ヘルと犬王ガルムを倒してくれただけでも御の字だと言うべきだろう。

「じゃあ先に行ってるぜ。そのままくたばんなよ」
「うむ、汝らもな」

 三護を置き去りにし、ホールを後にする。
 三護以外の兵士は全滅してしまったので、僕達二人だけでロキを追った。





 ロキを駐車場で発見した。
 片膝を突き、苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。どうやら右肩を負傷している様だ。周囲は石畳も馬車もズタズタに破壊されており、激しい戦闘があった事が覗える。道中ではイタチ達とは合流出来なかった。僕達が探索したルートに彼らはいなかったのだ。
 ロキの近くで桜嵐がうつ伏せになって倒れていた。三護よりもなお大量の血の海に沈んだままピクリとも動かない。

「桜嵐……!」
「……あら。貴女達もう来ちゃったの? ……そう、あの子達、敗けちゃったのね」

 脂汗を額に浮かべながらロキが立ち上がる。

「私、今ようやく致命傷を重傷にまで回復させた所なんだけど。重傷の身で戦いたくなんかないんだけどねえ……ま、仕方ないか。こんな状況も今まで何度も経験しているわ」

 言って、苦痛が滲む微笑を湛えるロキ。致命傷だの重傷だの言っていたが、そんな弱々しい雰囲気は全くない。両脚でしっかりと地面を踏み、鎖鎌を構える様はむしろ意気軒昂。今すぐにでも戦闘を再開出来るという強い意志が見受けられた。

「テメー! 桜嵐をどうした!?」
「桜嵐? この子、浅間梵って名前じゃなかったかしら? ああ、二つ名がそんな感じだったわね」

 ロキが桜嵐をちらりと見て、顔をこちらに戻す。彼の微笑は獰猛な獣の如き凶笑へと変わっていた。



「――馬鹿め。桜嵐は死んだわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...