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第三部第二章 国奪りイベント(祭り本番)
セッション73 天眼
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意識が闇へと沈む。しかし、意識自体ははっきりしている。ただ周囲の景色が闇一色になっただけだ。
背後に気配を感じて振り返る。五〇〇メートルを超える黒雲の怪物――神々の母、シュブ=ニグラスが立っていた。ここはシュブ=ニグラスが生み出した彼女の領域だ。女神はこちらを見守る様に悠然と佇んでいた。魔力のパイプというか、普段よりも彼女と強い繋がりがあるのを感じる。
前を向く。途端、視界に緑が広がった。夜闇に染められた森林の緑。秩父山地だ。
「うわっ、何だこれ……!?」
俯瞰の位置から秩父山地の全体が捉えていた。にも拘らず、細部の詳細まで認識出来た。『カプリチオ・ハウス』の面々と討伐連合の面々。数千人の位置が個別に見て取れる。今や秩父の何もかもが僕の視界にあった。距離を無視する視力――千里眼だ。
「オイオイ、こんなオプションがあるなら先に言ってくれよ、三護……三護?」
口に出して、傍に三護がいない事に今更気付く。
当たり前だ。ここはシュブ=ニグラスの領域なのだから三護がいる筈がない。となると、この千里眼は三護も知らなかった可能性がある。恐らくは環状列石に纏わるモノの影響だろう。空間支配の片鱗によって一時的に獲得したのだ。
「敵の位置も味方の動向も丸分かりっていうんなら、現実をストラテジーゲームに変えちまえる程のチートなんだが……活かせねーか」
外部に情報を伝えられないのなら、幾ら敵の位置が分かっても無意味だ。これでは出来る事といったら仲間の頑張りを応援する事だけだ。支援までは出来ない。
……仕方ないか。元より今回は、僕は戦闘には手出しは不可という取り決めだったのだ。ここは諦めて自分の役割に徹するか。
とはいえ、僕にする事はなく、ただ時が満ちるのを待つだけなのだが。
「討伐連合の様子はと……」
敵陣の様子を窺うと、ちょうど丸太の罠が発動した所だった。樹の高い位置に吊るされた丸太が地面に張られた紐に繋がっており、紐を踏むと丸太が落ちてくる仕組みだ。丸太に突かれて何人かが吹き飛ばされている。別の場所を見れば、落とし穴に嵌っている者もいた。トラバサミに掛かって悶絶している者もいる。
彼らの中で一番まごついているのは『朱無市国警備隊』だ。普段整備された石畳の上でしか活動していない彼らでは、罠以前に山登りが厳しい様だ。逆に一番好調なのは『貪る手の盗賊団』だ。チマチマと罠を潰しながらの進んでいる為、一見すると遅いが、罠に掛かって時間をロスしない分、かえって効率が良い。イタチの予想通りの結果である。
「ステファ達はどこだ?」
注視してステファ達を探す。最初に見付けたのはステファだ。罠だらけの森の中に入らない様、ステファーヌ派と共に近隣の村で待機している。まだ討伐連合とは接触していない。
理伏も見付けた。風魔忍軍と一緒に行動している。彼女達は罠の位置を把握しているので問題なく森の中を進んでいる。こちらも接触はまだだ。
ハクはというと……いた。彼女も森の中だ。単独で風魔忍軍よりも前に出ている。討伐連合との接触も時間の問題という距離だ。一番近いのは警護隊の面々か。
「……はあ。ふー……ふー……」
ハクの顔は強張っていた。呼吸を大きめに繰り返し、どうにか緊張から逃れようとしている。
緊張は解れなかったが決意は固まった様子で、ハクは両手を顔で叩いた。
「うん……行こう、ヨル!」
瞬間、ハクの人格が切り替わった。
ハクの中には蛇王ヨルムンガンドが憑依している。ヨルムンガンドは『狡知の神』ロキの実子にしてスキルの一部だ。ハクとは十数年以上もの付き合いであり、その関係は宿主と憑き物というよりも二重人格に近い。あるいは姉妹か。
今、肉体の主導権はハクからヨルムンガンドに渡された。
「SHa――!」
木々の隙間を器用に縫い、枝葉などないかの様に蛇が森を駆ける。瞬く間に警備隊に接近したヨルムンガンドは一気に躍り出ると、その爪を振るった。
「うわぁ!?」
「S――!」
血飛沫を上げる警備隊員。続く二爪目で別の隊員を裂き、ヨルムンガンドは茂みに隠れる。悲鳴と鮮血を認識した事で他の隊員が警戒態勢に入った。各々の警棒や刺股を構え、背中を仲間に預けて周囲を見渡す。
その真ん中――隊員達にとっては背中の位置に、ヨルムンガンドが降り立った。樹を登って上から落ちてきたのだ。
「SHYAa――!」
背後を取られた隊員達が為す術なく薙ぎ倒される。ハクの臀部からは蛇の尾が生えていた。尾と爪で敵陣を薙ぎ払ったのだ。
ヨルムンガンドの持っているスキルは『怪力』、『巨大化』、『神殺しの毒』の三つだ。『竜の吐息』も持っていたが、僕が奪った為現在は使用不可だ。根こそぎ奪われた訳ではないので、いずれ回復するだろうとは三護の見立てだ。
だが、残された三つのスキルだけでも充分強い。『怪力』と『巨大化』を併用し、インパクトの瞬間に腕や尻尾を強化する。人外の膂力で薙ぎ払われた隊員達は為す術なく弾かれ、背後の樹に身体を激突させる。更には、
「S――H――!」
ハクが口から霧状の毒を吐く。『神殺しの毒』だ。毒霧は十数人を纏めて呑み込み、死に至らせた。
慄く隊員達を尻目にヨルムンガンドは跳躍し、敵の間合いから離脱する。木々を足場にして三次元的に跳ね回り、隊員達を翻弄。着地と同時に切り裂いて、また茂みに隠れた。
流石は蛇王、やはり強い。気掛かりなのはハクの心境か。ヨルムンガンドは表に出ている間、ハクは眠っている訳ではない。人肉が裂かれる様を、鮮血が噴き出る様を間近で見ているのだ。神経衰弱に陥らなければ良いが。
とはいえ、ひとまず現状は問題なさそうだ。
ハクから目を外し、別の戦いへと目を向けた。
背後に気配を感じて振り返る。五〇〇メートルを超える黒雲の怪物――神々の母、シュブ=ニグラスが立っていた。ここはシュブ=ニグラスが生み出した彼女の領域だ。女神はこちらを見守る様に悠然と佇んでいた。魔力のパイプというか、普段よりも彼女と強い繋がりがあるのを感じる。
前を向く。途端、視界に緑が広がった。夜闇に染められた森林の緑。秩父山地だ。
「うわっ、何だこれ……!?」
俯瞰の位置から秩父山地の全体が捉えていた。にも拘らず、細部の詳細まで認識出来た。『カプリチオ・ハウス』の面々と討伐連合の面々。数千人の位置が個別に見て取れる。今や秩父の何もかもが僕の視界にあった。距離を無視する視力――千里眼だ。
「オイオイ、こんなオプションがあるなら先に言ってくれよ、三護……三護?」
口に出して、傍に三護がいない事に今更気付く。
当たり前だ。ここはシュブ=ニグラスの領域なのだから三護がいる筈がない。となると、この千里眼は三護も知らなかった可能性がある。恐らくは環状列石に纏わるモノの影響だろう。空間支配の片鱗によって一時的に獲得したのだ。
「敵の位置も味方の動向も丸分かりっていうんなら、現実をストラテジーゲームに変えちまえる程のチートなんだが……活かせねーか」
外部に情報を伝えられないのなら、幾ら敵の位置が分かっても無意味だ。これでは出来る事といったら仲間の頑張りを応援する事だけだ。支援までは出来ない。
……仕方ないか。元より今回は、僕は戦闘には手出しは不可という取り決めだったのだ。ここは諦めて自分の役割に徹するか。
とはいえ、僕にする事はなく、ただ時が満ちるのを待つだけなのだが。
「討伐連合の様子はと……」
敵陣の様子を窺うと、ちょうど丸太の罠が発動した所だった。樹の高い位置に吊るされた丸太が地面に張られた紐に繋がっており、紐を踏むと丸太が落ちてくる仕組みだ。丸太に突かれて何人かが吹き飛ばされている。別の場所を見れば、落とし穴に嵌っている者もいた。トラバサミに掛かって悶絶している者もいる。
彼らの中で一番まごついているのは『朱無市国警備隊』だ。普段整備された石畳の上でしか活動していない彼らでは、罠以前に山登りが厳しい様だ。逆に一番好調なのは『貪る手の盗賊団』だ。チマチマと罠を潰しながらの進んでいる為、一見すると遅いが、罠に掛かって時間をロスしない分、かえって効率が良い。イタチの予想通りの結果である。
「ステファ達はどこだ?」
注視してステファ達を探す。最初に見付けたのはステファだ。罠だらけの森の中に入らない様、ステファーヌ派と共に近隣の村で待機している。まだ討伐連合とは接触していない。
理伏も見付けた。風魔忍軍と一緒に行動している。彼女達は罠の位置を把握しているので問題なく森の中を進んでいる。こちらも接触はまだだ。
ハクはというと……いた。彼女も森の中だ。単独で風魔忍軍よりも前に出ている。討伐連合との接触も時間の問題という距離だ。一番近いのは警護隊の面々か。
「……はあ。ふー……ふー……」
ハクの顔は強張っていた。呼吸を大きめに繰り返し、どうにか緊張から逃れようとしている。
緊張は解れなかったが決意は固まった様子で、ハクは両手を顔で叩いた。
「うん……行こう、ヨル!」
瞬間、ハクの人格が切り替わった。
ハクの中には蛇王ヨルムンガンドが憑依している。ヨルムンガンドは『狡知の神』ロキの実子にしてスキルの一部だ。ハクとは十数年以上もの付き合いであり、その関係は宿主と憑き物というよりも二重人格に近い。あるいは姉妹か。
今、肉体の主導権はハクからヨルムンガンドに渡された。
「SHa――!」
木々の隙間を器用に縫い、枝葉などないかの様に蛇が森を駆ける。瞬く間に警備隊に接近したヨルムンガンドは一気に躍り出ると、その爪を振るった。
「うわぁ!?」
「S――!」
血飛沫を上げる警備隊員。続く二爪目で別の隊員を裂き、ヨルムンガンドは茂みに隠れる。悲鳴と鮮血を認識した事で他の隊員が警戒態勢に入った。各々の警棒や刺股を構え、背中を仲間に預けて周囲を見渡す。
その真ん中――隊員達にとっては背中の位置に、ヨルムンガンドが降り立った。樹を登って上から落ちてきたのだ。
「SHYAa――!」
背後を取られた隊員達が為す術なく薙ぎ倒される。ハクの臀部からは蛇の尾が生えていた。尾と爪で敵陣を薙ぎ払ったのだ。
ヨルムンガンドの持っているスキルは『怪力』、『巨大化』、『神殺しの毒』の三つだ。『竜の吐息』も持っていたが、僕が奪った為現在は使用不可だ。根こそぎ奪われた訳ではないので、いずれ回復するだろうとは三護の見立てだ。
だが、残された三つのスキルだけでも充分強い。『怪力』と『巨大化』を併用し、インパクトの瞬間に腕や尻尾を強化する。人外の膂力で薙ぎ払われた隊員達は為す術なく弾かれ、背後の樹に身体を激突させる。更には、
「S――H――!」
ハクが口から霧状の毒を吐く。『神殺しの毒』だ。毒霧は十数人を纏めて呑み込み、死に至らせた。
慄く隊員達を尻目にヨルムンガンドは跳躍し、敵の間合いから離脱する。木々を足場にして三次元的に跳ね回り、隊員達を翻弄。着地と同時に切り裂いて、また茂みに隠れた。
流石は蛇王、やはり強い。気掛かりなのはハクの心境か。ヨルムンガンドは表に出ている間、ハクは眠っている訳ではない。人肉が裂かれる様を、鮮血が噴き出る様を間近で見ているのだ。神経衰弱に陥らなければ良いが。
とはいえ、ひとまず現状は問題なさそうだ。
ハクから目を外し、別の戦いへと目を向けた。
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