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前編
「ジェーン・ドゥ公爵令嬢!前に出ろ!」
祝いの席であるはずの卒業パーティーで、第二王子の怒鳴り声が響いた。
会場は水を打ったように一斉に静かになる。各々目を合わせて、困惑を表していた。
名を呼ばれたジェーン・ドゥ侯爵令嬢は第二王子の婚約者と言われている。あまり身分の高くない貴族でも知っている情報だ。
だが、この場で怒りを露わにした第二王子は、一体婚約者に何をするというのか。貴族たちの目に好奇心が宿る。
それに、第二王子の隣には元平民として名が知られている男爵令嬢が居た。恋人のように仲睦まじく、第二王子と手を繋いで。
おおよその状況を察した貴族たちは、さて今宵の酒に合う劇が見られるだろうかと胸を躍らせたのだった。
だが、第二王子が呼びかけてからしばらく経っても件のジェーン・ドゥ公爵令嬢は一向に名乗りを上げない。一体これはどうしたことか、と会場はざわめく。第二王子は苦い顔をしながら、「隠れてやり過ごすつもりか」と吐き捨てた。
「なら、いい。この場に居る皆に聞いていただこう!我が婚約者……と呼ぶのも悍ましい、ジェーン・ドゥの悪辣たる行為の数々を!」
高らかに宣言した第二王子は語る。
婚約者であるジェーン・ドゥが、第二王子と男爵令嬢の仲睦まじさに嫉妬し、男爵令嬢に対して醜い嫌がらせを行ったと。
男爵令嬢に対する嫌味や陰口、偶然を装ってぶつかる、持ち物を隠す或いは壊す。階段から突き落とす、などなど。
どうやら第二王子は、ジェーン・ドゥ公爵令嬢が後で証拠を隠滅しないよう数多の人間に証人となってもらうべく、この場で発表したらしい。
そして、ついには「ジェーン・ドゥ公爵令嬢との婚約を破棄する」とまで宣言し、周囲のざわめきは一層大きくなった。
「どうだ!ここまで言ってもまだ姿を見せないつもりか!今すぐに出て地面に平伏し謝罪すれば命だけは助けてやるぞ!」
まるで正義の英雄のように、第二王子は息巻く。その姿を男爵令嬢はうっとりと見つめていた。
悪事を並べられ、一方的な婚約破棄宣言。
屈辱の極みで、傍観者たる貴族たちはあの場の役者が自分でなくて良かったと心底安心する。
同時に、不思議に思うのだ。
何故ここまで言われて、ジェーン・ドゥ公爵令嬢は声を上げないのかと。
突然、会場の扉が開いた。
視線が一斉にそちらを向く。そこには国王陛下と王妃が居た。
慌てて礼をする貴族たちに目もくれず、陛下は真っすぐに第二王子のところへと向かった。
自分の行いが褒められると思ったのか、第二王子は「父上、母上」と笑みを浮かべる。
だが、陛下は厳めしい表情で第二王子と男爵令嬢を見やり、「話がある。ついてきなさい」とやや早口で言って二人を連れ出した。
王妃は「我が息子がお騒がせして申し訳ありません。どうぞ、パーティーの続きをお楽しみください」と全淑女の見本たる美しい微笑みを浮かべ、陛下たちの後を追ったのだった。
一体何だったのだろう、と頭上に疑問符を浮かべる貴族たちは、真相を知ることはない。
祝いの席であるはずの卒業パーティーで、第二王子の怒鳴り声が響いた。
会場は水を打ったように一斉に静かになる。各々目を合わせて、困惑を表していた。
名を呼ばれたジェーン・ドゥ侯爵令嬢は第二王子の婚約者と言われている。あまり身分の高くない貴族でも知っている情報だ。
だが、この場で怒りを露わにした第二王子は、一体婚約者に何をするというのか。貴族たちの目に好奇心が宿る。
それに、第二王子の隣には元平民として名が知られている男爵令嬢が居た。恋人のように仲睦まじく、第二王子と手を繋いで。
おおよその状況を察した貴族たちは、さて今宵の酒に合う劇が見られるだろうかと胸を躍らせたのだった。
だが、第二王子が呼びかけてからしばらく経っても件のジェーン・ドゥ公爵令嬢は一向に名乗りを上げない。一体これはどうしたことか、と会場はざわめく。第二王子は苦い顔をしながら、「隠れてやり過ごすつもりか」と吐き捨てた。
「なら、いい。この場に居る皆に聞いていただこう!我が婚約者……と呼ぶのも悍ましい、ジェーン・ドゥの悪辣たる行為の数々を!」
高らかに宣言した第二王子は語る。
婚約者であるジェーン・ドゥが、第二王子と男爵令嬢の仲睦まじさに嫉妬し、男爵令嬢に対して醜い嫌がらせを行ったと。
男爵令嬢に対する嫌味や陰口、偶然を装ってぶつかる、持ち物を隠す或いは壊す。階段から突き落とす、などなど。
どうやら第二王子は、ジェーン・ドゥ公爵令嬢が後で証拠を隠滅しないよう数多の人間に証人となってもらうべく、この場で発表したらしい。
そして、ついには「ジェーン・ドゥ公爵令嬢との婚約を破棄する」とまで宣言し、周囲のざわめきは一層大きくなった。
「どうだ!ここまで言ってもまだ姿を見せないつもりか!今すぐに出て地面に平伏し謝罪すれば命だけは助けてやるぞ!」
まるで正義の英雄のように、第二王子は息巻く。その姿を男爵令嬢はうっとりと見つめていた。
悪事を並べられ、一方的な婚約破棄宣言。
屈辱の極みで、傍観者たる貴族たちはあの場の役者が自分でなくて良かったと心底安心する。
同時に、不思議に思うのだ。
何故ここまで言われて、ジェーン・ドゥ公爵令嬢は声を上げないのかと。
突然、会場の扉が開いた。
視線が一斉にそちらを向く。そこには国王陛下と王妃が居た。
慌てて礼をする貴族たちに目もくれず、陛下は真っすぐに第二王子のところへと向かった。
自分の行いが褒められると思ったのか、第二王子は「父上、母上」と笑みを浮かべる。
だが、陛下は厳めしい表情で第二王子と男爵令嬢を見やり、「話がある。ついてきなさい」とやや早口で言って二人を連れ出した。
王妃は「我が息子がお騒がせして申し訳ありません。どうぞ、パーティーの続きをお楽しみください」と全淑女の見本たる美しい微笑みを浮かべ、陛下たちの後を追ったのだった。
一体何だったのだろう、と頭上に疑問符を浮かべる貴族たちは、真相を知ることはない。
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